軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺が救いたいもの

「世界を救う方法を教えてくれ」

俺が頼みを伝えると、ミリはため息をついた。

「別におにいは無理しなくてもいいんじゃない? 相手は魔神になったとはいえ神様と、そして勇者なんだし。世界が滅びるといっても、迷宮から魔物が溢れ、人類にとって住みにくい世界となるだけ。コショマーレが言っていたのは、少し大げさなのよ。正直、私たちが関わるような話じゃない。あとは女神に任せればいい話よ」

「でもな、そうは言っても……」

「安心して、世界を救う方法は考えてあるから」

「本当なのかっ!?」

さすがミリだ。俺の考えの一歩どころか千歩先を行っている。

「私が女神になればいいんだよ」

「なっ……」

「魔神って神様だからね。対抗するには神の力が必要になる。きっと私なら、過去最強の女神になることができる」

あの日、ライブラ様が言った。

『女神の適合者の筆頭がミリさんです。無理強いはしませんが、世界の救済のためにも、どうか考慮ください』

そう言っていた。

ミリは猶予を求めていたが、もう女神になる決心をしたということか。

でも、それは……

「それはダメだ!」

「どうして?」

「女神とは、生贄とされた無垢な少女……つまり、一度死ぬってことなんだよな」

「私は三度死んでいるよ」

ミリは言った。

かぐやとして、富士の噴火を止めるときに人身御供とされたことを。

ファミリス・ラリテイとして、勇者と戦い、そして敗れたことを。

最後に、楠ミリとして、奇しくも富士の山頂で自殺したことを。

本来なら一度しか訪れないはずの死を、彼女は既に三度経験している。

「凄いよね。ギネス記録に死んだ数があるのなら、間違いなく不動の記録になるよ」

「……ここは異世界なんだから、世界一の記録にならねぇよ」

「あはは……そうだね。そうだ、私が女神になれない方法ならあるよ」

「……え?」

「ここでおにいと私が結婚してみるとか? ほら、女神って無垢な少女にしかなれないんでしょ? ここでおにいが私のことを汚してくれたら……ってごめん。そんな冗談言える空気じゃないね」

「……あぁ、笑えねぇよ。妹なんて抱けるか」

俺はそう言って、しかしそれで肩の荷が下りた。

「そっか、俺は本当にバカだ。なにが世界を救うだ。思い上がってるんじゃねぇよ。俺は無職で、ハルとキャロにとっては頼りにならないご主人様で、ダークエルフたちにとっては分不相応な救世主で、真里菜や鈴木にとってはただの同郷者で、そしてミリにとって――」

俺はミリを見た。

彼女の目を。

妹の目を。

「俺はミリの兄だ。兄は妹を救えればそれでいい」

世界なんて知ったことか。そいつを救うのは勇者の仕事だ。俺の仕事じゃない。

そもそも、無職に仕事なんてない。

無職に仕事がないのなら、俺は兄としての仕事をまっとうしてやる。

「お前をハッピーエンドの糧になんてしてたまるか。尊い犠牲なんて糞くらえだ」

「ダメだよ、おにい。そんなこと言ったら、私……本当に……挫けちゃダメなのに」

ミリの眼に涙が浮かぶ。

「ダメなもんか!」

「世界が私を望んでいる。私を女神にさせようとする。おにいは世界を敵に回しても私を守るっていうのっ!?」

「世界がお前を殺そうとするのなら、俺が魔王になって世界をぶっ潰してやる。無職なんざ、最初から世界と戦って生きてるようなもんだからな」

「無茶苦茶だよ、おにい」

そう言うミリの目に浮かぶ涙を、俺は指で拭った。

自分でも無茶苦茶だってことはわかってる。

神を相手にするだなんて。俺は勇者にだって負けたっていうのに。

「ありがとう。おにいの気持ちは絶対に忘れない。でも、世界を敵に回すなんて。しかもよりによって……」

ミリがそう言ったときだった。

「あ……」

何かに気付いたように声をあげた。

「どうしたんだ?」

「待って、黙って!」

ミリはそう言って俺を手で制した。

そして、右手を握りしめ、口に当てる。

「ひとつだけ……あるかもしれない。世界を救う方法が」

「お前を殺さずに、か?」

「うん。でも、これってかなり無茶な――」

「妹を救うのに兄が無茶をするのは当たり前だろ」

「世界を救うためじゃないの?」

「そっちはついでだ」

その俺の一言で、ミリもまた覚悟を決めたようだ。

そして、ミリはとんでもないことを俺に告げた。

「おにいには、これから魔王になってもらおうと思います!」

※※※

ミリの提案はたしかにとんでもないものだった。

魔王になるということがじゃない。

むしろ問題は魔王になってからのことだった。

しかし、その話を聞くと、確かに可能じゃないかと思えてくる。

妹と世界、両方を同時に救うことが。

「ハルワ、そこにいるわね」

「はい、ミリ様」

ハルがログハウスの中からオムレツが盛られている皿を持って出てきた。ピオニアも一緒だ。俺とミリが話している間、ログハウスの中で待っていたらしい。

「話は聞いていた?」

「いえ、聞いてはいけないと思い、耳をたたんでいました」

ハルはそう言って、自分の白い耳をペタンとさせる。少し耳が動くのは知っていたが、そこまでたためるとは思わなかった。

耳をたたんでいるハル、めっちゃ可愛い。

「そっちの子は?」

「全部聞いていました。マスターのカッコいい台詞も全て録音しています。『世界がお前を殺そうとするのなら、俺が魔王になって世界をぶっ潰してやる。無職なんざ、最初から世界と戦って生きてるようなもんだからな』」

「やめろ! 改めて聞くと恥ずかしい!」

ピオニアの奴、半 機械人間(サイボーグ) 化して、録音機能なんて身に付けやがったのか。

「なら、ハルワに後で話しておいて。私たちは」

「早速行くのか?」

「朝ごはんを食べてからね」

ミリはそう言って、テーブルの上に置かれたオムレツに、ケチャップをかけたのだった。