軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者アレッシオ

「ん? あぁ、君が魔王か。なるほど、姿は変わってもそのオーラは昔のままだ。もっとも、魔力を失って、立っているのがやっとのようだけど」

「……どうやってここに入ったの? 勇者でも空間を切り裂くような芸当はできないはずよ」

ミリの言う通りだ。ここに入るには俺が許可を出した人間以外、女神様にしか入ることができないはずなのに。

「確かに、僕にはそんな力はないよ。協力者がいてね」

「協力者?」

ミリが怪訝そうな顔で言った――そのときだった。

「ミネルヴァ、どういうつもり!」

セトランス様が激昂するように叫んだ。

突如、空間に裂け目が現れ、ミネルヴァ様が現れた。思いもよらぬものと共に。

「私が彼に力を貸したの。ごめんね、スケ君。カグヤちゃん。私、あなたたちの敵なの」

ミネルヴァ様が敵――いや、それより何故ここに。

何故ここにケンタウロスがいるんだよ。

ケンタウロスは光の箱のようなものの中に閉じ込められ、ミネルヴァ様とともに宙に浮かんで現れた。

「ふふふ、スケ君もカグヤちゃんも、結局最後まで、この子の正体には気付かなかったのよね」

「正体?」

「そうよ。それにしても、ケンタウロスって素敵な名前よね。ふたりはケイローンって知っているかしら?」

ケイローン? 聞いたことがない。ケロロンならどことなくカエルっぽいなと思ったが、絶対に関係ないだろう。

「……ギリシャ神話に登場するケンタウロス族の賢者の名前よね。十二星座のひとつ、射手座のモデルとなった」

「その通り。まぁ、そのくらい知っているわよね。医学の祖ともいわれているのよ。スケ君が前に使っていた杖の元となっているアスクレーピオスの師匠でもあるの。薬に精通している私や医学に精通しているテト様の祖と言っても過言じゃないわよね」

「まさか――まさか、ケンタウロスの中にいるのは」

セトランス様はそう言うと、新たな光の槍を生み出し、ケンタウロスに攻撃をしかけた。しかし、彼女の突きは光の障壁に阻まれ、逆に吹き飛ばされた。

「無駄よ。セトランス、あなたの力はサラマンダーを吸収したことで、その赤い槍とリンクしている。赤い槍を折られたいま、あなたの力は三分の一以下――私の結界は破れないわ」

なんなんだ、セトランス様はなにを焦っているんだ?

ケンタウロスの正体っていったいなんなんだ?

「おにい、ミネルヴァに攻撃! いますぐっ!」

ミリが叫んだ。

「――わかった!」

ここで動けるのは俺だけのようだ。

俺は頷き、魔法で攻撃をしかけようとし――

「僕のことを忘れて貰ったら困るよ――パラライソード」

体に激しい痺れが襲い、膝から崩れ落ちた。

状況の目まぐるしい変化に、勇者のことを失念していた――いや、勇者が不意打ちなんてするわけがないと心のどこかで思っていたのかもしれない。

アレッシオは剣で俺の腰にあるアイテムバッグの紐部分を切り裂くと、それを奪い取り、ミネルヴァ様に投げた。

「俺の――返せ」

俺は守命剣を地面につき、立ち上がろうと上半身を起こす。

「おや、まだ動けるのか。僕のパラライソードは……ええと、迷い人の君にわかりやすい表現をするなら、ゾウでも一度くらえば三日は動けない……だったかな? ゾウってカネーシャのことだよね? さすがにそれは言い過ぎな気がするけれど、とにかく強力なはずなんだよ。なるほど、ステータスだけなら僕より上のようだ」

勇者アレッシオはそう言うと、剣を蹴飛ばした。

支えがなくなった俺はうつ伏せに倒れる。

「戦闘に関する経験値は素人以下だけどね。もっとも、今の君ならあと数分で動けそうだし、早めに済ませてください、ミネルヴァ様」

「ええ、わかっているわ。勇者ちゃん」

ミネルヴァ様はそう言うと、俺のアイテムバッグからひとつの大きな木の実を取り出した。

大地の木の実――黄金樹から生み出された力の源を。

「黄金樹――ダークエルフが守り神と称える信仰の対象であり、女神と同質の力を持つ大精霊を封印する力を持つ聖なる木。その力を使えば聖なる力を増幅させることができる」

ミネルヴァ様は淡々と告げた。

「しかし、使い方が違えば、逆に聖なる力を封印することもできる。あの方を封印する聖獣の力を!」

ミネルヴァ様の手が光の障壁をすり抜け、ケンタウロスの口の中に無理やり大地の木の実を押し込んだ。

突如――ケンタウロスの口から黒い靄のようなものが出ていった。

「……ダメだったか」

セトランス様が絶望するかのように言った。

黒い靄は人の形となる。

黒い服を纏った女性――その姿を俺は見たことがあった。

直接会ったことはないが、女神像として見たことがあったのだ。

「……女神、メティアス様」

そう、彼女こそ七柱目の女神――メティアス様その人だった。

「違う――あれは女神なんかじゃない。あれはいまのテトと同じ、魔神だよ」

「コショマーレ様っ!? それにトレールール様も」

この場に、女神の六柱が集結した。

「遅いぞ、コショマーレ。いったいなにをしていた」

セトランス様がコショマーレ様に向かって愚痴るように言った。

「ちょっと人間の足止めをくらってね」

「あのハッグとかいう魔術師、厄介な術を使いおって。まさか人間が女神の動きを封じることができるとは思いもしなかった」

トレールール様が言う。

「もっとも、死にたい死にたいと言っていたミネルヴァが裏切りものじゃなんて、そっちの方が心にも思わなかったわ。てっきり、妾と同類かと思っておったが、なかなかの働き者ではないか」

トレールール様がそう言ってミネルヴァ様を睨みつけるが、彼女はそんなトレールール様を無視して、メティアス様の前に跪いていた。

「久しぶり、コショマーレ。それにセトランスも。あら、ライブラは眠っているのかしら」

メティアス様が笑顔で言った。

「あなたたち三人に封印されて私がどれだけ困ったかわかる?」

三人に封印?

テト様はメティアスが突然いなくなったと言っていたが、その裏には三柱の女神様が関わっていたのか。

その原因は、テト様と同じ。

メティアス様もまた、魔神となったのだ

「メティアス。殺さずにいただけでもありがたいと思いな」

「殺せなかった――の間違いでしょ? セトランス――あなたが私に勝てたことがあったかしら?」

一触即発の状況だ。

こんなとき、動けずにいる俺が腹立たしい。

「のぉ、イチノジョウ。妾、まるで蚊帳の外なのじゃが。なんで行方不明のはずのメティアスがここにおるのかも、魔神ってなんなのかも妾、さっぱりわからないのじゃが」

トレールール様が俺の横に座って、そう愚痴をこぼした。

「……そうなんですか」

まぁ、これまでの話の流れからして、トレールール様はメティアス様が抜けた穴をふさぐために女神になった感じだからな。

「うむ。まぁ、お主の無職スキルがメティアスによるものじゃということは最近妾が気付いたので、コショマーレあたりが何か調査をしておったのかもしれないが」

「トレールール様――たぶん、コショマーレ様、最初から俺のスキルはメティアス様が設定したって知っていましたよ。無職にスキルを設定した犯人の目星はついているって、フロアランスで言っていましたから」

「なんと――まるでではなく、完全に蚊帳の外ではないか!?」

トレールール様が愕然とした。

「残念だけど、私はもう退散させてもらうわ。幸い、この不安定な空間なら脱出するのは容易いし、それにこの子の治療をしないといけないし」

メティアスはそう言うと、動けなくなっているテト様を魔法のような力で浮かび上がらせて引き寄せた

「逃がすと思うのかい」

コショマーレ様がそう言ったとき、メティアス様、ミネルヴァ様、テト様の周囲に結界が現れた。

俺の『 聖なる結界(ホーリーミラー) 』よりも遥かに強力であろうその結界を見ても、メティアスは笑みを崩さない。

「ええ、わからないの? この空間は、元々は私の世界だったのよ? 聖獣の中に封印されていたときでも中にはいるために結界の綻びを作り出すことができた」

突然、結界の中に扉が現れた。

「脱出することなんて簡単だわ」

そしてミネルヴァ様とともに姿を消した。

「じゃあ、僕も退散するか。――」

勇者は俺の耳元でなにかを囁くと、一瞬のうちに勇者の姿も消えていた。

そして、俺とミリ、四柱の女神様とケンタウロスだけが残された。

【イチノジョウのレベルが上がった】

……恐らく、瘴気から生まれた蛇を倒した経験値が入ったのだろう。

それは戦いを終えた合図でもあった。

いくつかスキルを覚えたようだが、全然頭に入ってこない。

命は助かった。

しかし、それが平穏に繋がるとは全く思わなかった。