軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

タルウィと主人

「変化の腕輪か」

タルウィが面白そうに言った。

「ああ、こいつのせいで酷い目にあったからな。副市長さんに頼んで借りて来たのさ。今度はこっちが利用させてもらったよ」

俺がそう言っている間、ハルは胸のあたりに詰め込んでいたタオルを取って捨てた。

大人バージョンのキャロとハルとでは、身長に大きな差はないが胸に違いがあったから、体積を増やすためにタオルを何枚も詰めていた。

「白狼族の娘――こいつがここにいるということは、あの半小人族の娘は――町の中か」

「ああ、あんたの狙いがキャロだってわざわざ教えてくれたからな。だから、あんたがされたら一番困ることをやってやろうって思ったんだ」

今頃はマレイグルリの中で魔物を上級ダンジョンに誘導しているはずだ。

勿論、鈴木という優秀な護衛をつけてな。

「タルウィ、あなたも白狼族の戦士のはずです。主人にその忠を尽くしているのなら、その剣を収めなさい」

ハルが魔王に剣を突き付けて言う。

「なるほど、確かに私は白狼族だ。戦いに身を捧げてはいるが、一番大事な者は主人だな。主人を人質に取られたら私は動けない」

タルウィは笑みを浮かべて魔王に近付く。

「それ以上近付かないでください」

ハルが言った――その時だった。

タルウィが動いた。

人質である魔王を貫くようにしてハルに攻撃をしたのだ。

「くっ――」

ハルがうめき声を漏らした。

「ハルっ!?」

「大丈夫です……服のお陰で助かりました」

ハルが腹を抱えて言う。

ハルが言った。

「ふっ、あの女は我の部下ではない――そうか、運命はやはり予定調和へと導かれていくのか」

「なにを言ってるんだ?」

魔王は懐から血で汚れた本を取り出した。

ここで本――まさかっ!?

―――――――――――――――――――――――――――

転移の魔法書

空間魔法「転移」が込められた魔法書

使用することで一定の範囲以内に移動することができる。

―――――――――――――――――――――――――――

鑑定したときには既に遅かった。

「さらばだ」

次の瞬間、魔王の姿は消えていた。

結界の中でも魔法書は使えるのか。

いや、逃げた魔王のことは後回し、いまはタルウィの相手をするのが先だ。

「そろそろ終わらせてもらう。獣の血の制限時間がもうないんでね」

やはり、獣の血も使っていたのか。

あのスキルの制限時間は十分もある。

俺が入ってくると同時に使っていたのなら、まだ三分以上効果は残っているだろう

「タルウィ、本気で行くぞ」

俺も気合を入れなおした。

「かかってこい」

「フェイクアタック――獣の血っ!」

獣の血は攻撃スキルに分類される。そのため、フェイクアタックでコピーすることができる。予め覚えておいた。

制限時間は本物の獣の血の半分、五分しかないが、威力は据え置きだ。

これで俺の攻撃力は大幅に上昇する。

一気にタルウィに斬りかかった。

タルウィが俺の一撃を受け止める。

と同時に、黒い波動が俺を襲った。

やっぱり受け止められたか。

本来、白狼族の戦い方は避けられる攻撃は避け、どうしても避けられない攻撃は受けるものだ。しかし、今回の戦いにおいて、俺の攻撃をタルウィは必ず剣で受け止めていた。

なぜなら、剣と剣がぶつかり合ったとき黒の波動が現れ、俺を襲ってくるからだ。

つまり、このやり取りが続けば俺へのダメージが蓄積されていく。

確かにこれが続けば三分、俺の身が持たないかもしれない。

しかし、これがタルウィの敗因だ。

「犯罪職を操るのはお前だけじゃないぞ」

俺はそう叫び、二つのスキルを発動させた。

「瞬殺っ!」

一秒間限定で速度が倍に、相手に与えるダメージが三倍になる辻斬り犯のスキルだ。

そして――

「フェイクアタック――破壊っ!」

俺が叫ぶ――と同時に、白狼牙とタルウィの剣が同時に砕け散った。

……悪い、白狼牙。こうするしか確実にタルウィを倒す手段が思いつかなかった。

瞬殺と破壊のコンボはすさまじく、刀だけでなく、タルウィの服や下着、果ては床に敷かれた高そうな敷物まで切り裂いた。

無生物以外へのダメージは半分になるのだが、それでも通常の三倍の威力の攻撃を半分にしたところで、五割増しのダメージがタルウィに襲い掛かった。

それは相手をダウンさせるには十分な衝撃だ。

「――まさか、二度も負けるとは」

剣も服も全て失った彼女には、もう先のような逃走手段は残っていないだろう。

もっとも、ここからどう逃げたらいいかわからないのは俺も同じだが――国王が魔王だったって言っても信じて貰えるはずがない。

せめて、将校の洗脳が解けていることを祈ろう。

『残念だったね、タルウィ』

突然、男の声が聞こえてきた。

「聞いていたのか……趣味が悪い」

『まぁ、君は僕にとって大切な眷属だからね。魔王君に通信札を貼っておいてもらったんだよ』

魔王を君付けで呼ぶっていったいなにものなんだ?

ハルが声のする方に向かった。

「ご主人様、玉座の裏に通信札がありましたっ!」

ハルが通信札を剥がしてもってくる。

『やぁ、タルウィを倒したんだよね? 凄いよ、いまの彼女の本気なら、僕でもちょっと苦戦するレベルなのに』

「褒められてもうれしくないよ……ていうか、お前の声、どこかで聞いたような」

『ん? あれ? 僕もどこかで聞いたような気が……あぁ、思い出したよ! フロアランスでキリリ草の種を持っていた人だよね』

キリリ草の種? そうだ! 俺も思い出した。

マーガレットさんと一緒に迷宮に潜っているときに出会った三人組の黒髪の男だ。

「剣聖の男か」

『剣聖? あ、そうか。そういうことにしてたんだっけ。でも違うよ。僕は本当は――』

「勇者アレッシオ様ですね」

ハルが言った。

勇者アレッシオっ!?

魔王ファミリス・ラリテイを倒した、ダイジロウさんの仲間の勇者っ!?

そういえば、ハルは昔、奴隷としてマティアスさんに売られるまでの間、勇者と一緒に過ごした時間があるって言っていたが。

『あれ? なんでわかったの……あぁ、そうか! ハルワタートちゃんか――うん、そうあの時の子だよ』

「なんで勇者とタルウィが一緒にいるんだ。こいつは魔王の配下――」

いや、違う。

タルウィは魔王の配下ではない。タルウィは主人には忠誠を誓うといっていたが、魔王に対してはその素振りを見せていなかった。

もしかして、タルウィの本当の主人が勇者アレッシオなのかっ!? そういえば、タルウィのことを眷属だって言っていたし。

ありえない話ではない――いや、むしろそこに考えが至らなかった俺がおかしい。

かつて、魔王との戦いにおいて、白狼族の半数は魔王につき、半数は勇者についた。

タルウィは勇者についた白狼族だったのだとしたら、その主従の関係がいまも継続していて何ら不思議ではない。

なら、何故、勇者の配下のタルウィが魔王と協力する?

まさか――

「勇者と魔王がつながっているっていうのか?」

『その結論は早急過ぎるよ。勇者と魔王がつながってるって、そんな八百長、君が認めても世界は認めないからね。ところで、君はいったい――ん?』

また、誰かと話している。

細かいところは聞こえないが、さっきと違って、今度は女性の声だ。

『あぁ、なるほど。君がイチノジョウ君だったのか』

「俺の名前を知っているのか?」

そういえば、勇者アレッシオとはダキャットでも縁があった。

そのときに名前を聞いたのだろうか、と思ったが、そうじゃなかった。

『話はここにいるカノンから聞いているよ』

「カノンっ!? カノンがそこにいるのかっ!?」

ということは、真里菜も一緒なのか?

ふたりは勇者アレッシオを探すために西大陸に残ったが、一緒に行動しているのか?

『あ、ごめん。そろそろ通信札の効果が切れるよ。僕はこっちで勇者の仕事があるからさ、そっちの危機はそっちに任せるよ』

そっちに任せるって、危機ってなんだよ。

『せいぜい救ってみな、一般人――眷属召喚っ!』

「なっ!?」

その瞬間、タルウィの姿が消えた。と同時に通信札が燃え上がり、炭となった。

眷属召喚――無職だけしか使えないスキルだと思っていたのに、勇者にも使えるのか。

とその時、獣の血の効果が切れ、俺は動けなくなってしまった。