軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

尊い

魔法捜査官の調査により、洗濯屋に化けていた鬼術師が今回の呪いの犯人だと断定された。

砕けた職奪の宝石、死後一週間以上経過している洗濯屋の死体もそうだが、なにより市の職員の制服の中から使用済みの札が見つかったことが決め手だった。

俺は翌朝、副市長に呼び出され、役所に向かった。

彼氏募集中のミドレーさんに案内され、応接間で待機する。テーブルの上には、相変わらず例の砂糖菓子が置かれていた。俺が食べた分は補充されていた。

もらってもいいようなので、とりあえず一個だけアイテムバッグに入れておく。

そのまま食べるには甘すぎるけれど、菓子作りの素材にはちょうどよさそうだ。

暫くして、副市長と秘書のフェリーチェさんがやってきた。

「ありがとうございます、イチノジョウ殿。あなたは私が見込んだ通りの男です」

入ってくるなり、フェリーチェが顔を赤らめ、俺の手を握る。

狂乱化の呪いが発動しそうになったときに勝る恐怖が俺を襲った。

特になにかされているわけではないので、振りほどいて逃げるわけにもいかない。

俺は嫌な汗が出るのを感じながら、副市長に尋ねた。

「そ……それで、包囲は解かれそうですか?」

「呪術師が死んだことは、既に国王軍に報せました。証拠を確認したうえで、三日以内に包囲を解除するということです。既に職員が市民たちに伝達していますし、国王軍から食料が市内に運び込まれているので、事態はようやく解決につながるでしょう」

「そうですか、それはよかったです」

「ええ、本当に。国王軍の行動はいささかやりすぎかと思いましたが、憎き鬼族が元凶だったのならば仕方がないことですからね。鬼族は世界各地でテロともとれる問題ばかり起こす憎き種族です」

「そうなのですか」

「ええ。緘口令が敷かれているので一部の人間しか知らないことですが。残る問題として、発信札が見つかれば完璧ですね」

「発信札?」

「ええ。どうも呪いの被害者の服に仕込まれていたのは、イチノジョウ殿が予想した通信札ではなく、音を受信する受信札だったようなのです。音を届けるには発信札が必要なのですが、洗濯屋にあったのはまだなにも書いていない紙だけだったのです。恐らく、発信札はどこか別の場所に隠しているのでしょう」

通信札は音を相互に伝えるのに対し、発信札と受信札は、音を一方的に伝えるだけの札だ。

「なに、我々が徹底的に調査をしています。ご安心ください」

「そうですか――では、私はこれで失礼します」

「そうですか。フェリーチェ君、彼を送ってくれたまえ」

「かしこまりました、副市長」

「いえ、遠慮します」

俺は即答で断った。

「そうはいきません。イチノジョウ殿はいまやこの町の英雄。その英雄が、役所からの帰り道になにかあれば私の次期市長の夢が……ごほん、万が一のことがあったら困りますから」

強制らしい。

断る理由も見つからず、俺はため息をついた。

俺は鈴木の家まで案内される。

フェリーチェがなにかしてくるということはない。きっちり三歩分後ろをついてくる。でも、後ろにいられるのは怖い。

じっと俺をみつめてくるのがわかり、先ほどから鳥肌が止まらない。

なんなんだ、この展開は。

これなら、カネーシャやクイーンスパイダーと戦っているほうがまだマシだ。

そういえば、フェリーチェと腕を組めばミルキーが現れるんじゃないか? ってキャロが冗談で言っていた気がするが、流石に冗談……だよな?

「あ……そうだ、思い出した。これ、フェリーチェさんのだよな?」

俺はそう言ってアイテムバッグからミルキーの本を取り出した。

一応中身をチェックしたけれど、特にミリから伝言らしきものはなかった。一応、複写しておいたので、返すことにした。

「あ、それは――洗濯屋に鞄を預けたときに内ポケットに入れたままになっていたんですね」

フェリーチェさんは本を受け取り、

「これは騒ぎが起きる前、一人の桃色の髪の少女から『あなたは素質がある』と言われて手渡された本でして、私に恋愛の在り方を教えてくれた 聖典(バイブル) なのですよ」

それって絶対ミルキーじゃねぇか。

あいつ、なにやってるんだよ、マジで。

「ありがとうございます、イチノジョウ殿!」

フェリーチェはそう言って俺の両手を握った。

近い近い、顔が近い。

「――尊い」

声とともに、誰かが倒れる音が聞こえてきた。

振り返ると、桃色の髪の少女、ミルキーが鼻血を出して倒れていた。

血文字で、『私に紙とペンを』と書いている。

現れたよ、本当に!

これまでの苦労はいったい何だったんだよ。

お陰で呪術師の居場所の特定はできたんだけど。

「あなたは師匠――っ!? 危ない、下がってください、イチノジョウ殿! 突然鼻血を吹いて倒れるとは、何かの病気に感染しているかもしれません。移る可能性があります」

「あぁ、大丈夫です。こういう人なんで」

「大丈夫ではありませんっ! 安心してください、あなたのことは私が命にかけても守ります」

「本当に大丈夫だから。むしろ、そんなこと言ったら悪化する奴だから」

さっきからミルキーの鼻血の量が止まらない。

ダメだ、このままこいつと一緒に居続けたら、ミルキーから話を聞く前に、彼女が出血多量で死んでしまう。

俺は彼女を背負うと、

「悪い、ちょっと用事ができたから――」

「あ、お待ちください、イチノジョウ殿」

フェリーチェが呼び止めるのも聞かず、俺は全力で走った。

「イチノジョウ殿ぉぉぉぉっ!」

背後から聞こえるフェリーチェの声に恐怖を感じながら。