軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猫電話

査察官に俺が生きていることを知られてはいけないような気がする。可能ならば、門から入りたくはない。幸い、マイワールドの出口を最後に作ったのは鈴木の家で俺たちが借りている部屋だ。

俺とハルは、 拠点帰還(ホームリターン) を使い、一度マイワールドに戻ってから、部屋に出た。

幸い、部屋にはキャロが待っていた。

「イチノ様、お疲れ様です。災難でしたね」

「あぁ、本当に疲れた。あ、ハル。ここは和室だから靴を脱いでくれ」

畳の上で靴を履いているのは落ち着かないので俺はすぐに靴を脱いだのだが、ハルは靴を履いたままだった。

「いや、慣れないことはするもんじゃないな。情報収集はキャロに任せればいいって思ったよ」

「キャロに集められる情報は集めます。でも、役割分担は大切ですが、丸投げしないでくださいね。イチノ様にはイチノ様にしか得られない話があるはずですから」

キャロは優しくも厳しいな。

確かに、テト様から聞いたメティアス様関係の話はキャロに調べてもらうわけにはいかない。無職スキルとは違って、信用できる人になら話してもいいという許可ももらっていないし、情報と呼ぶには突拍子がなさすぎる。

世界は滅びに瀕していて、それを回避するために異世界人を召喚している。それでも終焉は先延ばしになっているだけで、結局終焉を免れたわけではない……と。

「それで、キャロ。一万二千の軍が迫ってきているって言うのは本当なのか?」

「はい。詳しくは情報提供者の話を聞いてください。キャロは信じられる情報だと思います」

キャロは「この家に来ていますので」と俺に案内する。

鈴木はまだ帰っていないらしい。

あいつにも心配をかけているだろうな。

「お待たせしました」

キャロがそう言って扉を開ける。

ってあれ? ここは台所じゃないか?

応接間じゃないのか?

俺は訝し気に思いながら中に入るが、誰もいない。

「イチノ様、この方です」

え? この方?

あぁ、このパターンは大人と思ったら子供だったというパターンか。

それとも 小人族(ミニヒュム) なのか?

と視線を落とすも、誰もいない。

「イチノ様、もっと下です」

え? もっと下?

俺は視線を落とすと、そこにいたのは一匹のトラ柄の猫だった。

上から見ても、屈んで視点を落としても猫は猫だ。

「もしかして、ケット・シーか?」

「いえ、イチノ様。この猫はこの家で飼っている猫です」

「この家で飼っている猫が……もしかして、キャロ。ついに猫からも情報が得られるようになったのか? 悪いが、俺は鳥の声はわかっても猫の声はわからないんだ。できることなら通訳してもらえると助かる」

『いや、通訳の必要はないぜ』

突然、猫が喋りだした。

なんだ、これは。

『久しぶりだな』

「喋る猫に知り合いはいないはずですが」

『おいおい、つれないな。俺の漫画を三冊も買ってくれただろ』

ん? 漫画を三冊?

この世界で本屋に行ったことは一度しかない。

あの時の本屋の爺さんは死んだし、買ったのは漫画じゃない。

いや、待て――もしかして――

「お前、もしかして、猫漫画使いかっ!」

『違う! 俺の名前は――』

「ニャンテンダー先生だろ?」

『それはペンネームだ! 俺の名前は――』

「それより、なんなんだ? お前、猫の呪いでとうとう猫になっちまったのか?」

猫漫画使いは、勝手に自分の職業を猫使いに変えられたせいで、ケット・シーを恨んでいた。

ケット・シーに復讐しようとして、逆に呪いを受けたのか?

『いや、これは猫使いスキル、猫鈴通信だ。猫使いスキルに通信鈴作成というものがあってな、この鈴を猫に取り付けることで、好きに通信できる。あんたの顔も猫の目を通じて見えているぜ』

なにっ!?

猫通信はテレビ電話なのか!?

伝令、眷属伝令、通信札。

最近、いろいろと遠く離れた人と話すためのスキルや道具を手に入れてきたが、一番使い勝手がいいんじゃないか?

『猫使いの呪いを受けた者は、このスキルを使い、世界中の独自の情報網を持っているんだ』

「女湯を覗いたりしてるのか?」

『ちなみに、この鈴は明日から行われる即売会で勇者先生に本を買いつけてもらうために渡しておいた』

俺の質問には答えないのか。

図星だな。

「ハル、キャロ。これから猫の前で着替えたりするのは禁止な。どこに猫漫画使いの猫が潜んでいるかわかったもんじゃない」

『猫使いだ! それより、聞け。猫使いの情報網は広い。ケット・シーは世界中の隠れ里に住んでいて、あいつらが独自の情報を集めているからだ。ほとんどは、『山のネズミが減った』とか『今年は嵐が多くて不漁だったから魚の値段が去年の二割増し』だとかくだらない話ばかりだが、たまにとんでもない情報を掴み、猫通信を使って世界中の猫使いに情報を送ってくるからだ。その情報によると、明日、ツァオバール軍の兵一万二千がマレイグルリを包囲するという情報を掴んでいる』

「確かなのか?」

『あいつらの情報はバカな情報が多いが、ガセは一度もない。勇者先生にも、今回のD(同人誌)はいらないから避難するように伝えてくれ。悪い、MPがそろそろ切れ――』

猫漫画使いの通信が切れ、猫は不思議そうに首を傾げると、マイペースに台所においてある猫用の水を飲み始めた。

通信が切れたのだろう。

「一万二千の軍、普通なら猫漫画使いの情報だしな……と信用したくないところだけれども」

通信だったせいで、思考トレースを使っても猫の感情を読み取ることはできなかったから、スキルによる真偽判定はできない。

でも、今回の件、タルウィの話と合致する。

マレイグルリの破滅――か。

「ご主人様、どうなさいます?」

はぁ、もう戦争とか軍とか面倒だから、いますぐ町を出てミリを追いかけたい。

しかし、ミルキーの本を手に入れるには、そうするわけにもいかないか。

【イチノジョウ様、ララエルです。先ほど、悪魔族の少女が目を覚ましました。いまは落ち着いていますが、このままではすぐに混乱状態になります。いますぐ来ていただければ助かります】

そうか、目を覚ましたのか。

「悪魔族の女の子が目を覚ましたらしい。軍が動いた件については、俺の口から町にいる人に伝えても、信用されないか混乱になるだけだろうな。ハル、鈴木の匂いを追って、できるだけ早く伝えてもらってもいいか? タルウィのことも一緒に頼む。ただし、査察官――は会ったことがないのか。変な笑い方をする太った男と一緒にいるときは近付かなくていい。俺はその間にマイワールドに行って、悪魔族の女の子の治療をする」

「はい、お任せください」

ハルはそう言うと、台所の勝手口から外に出た。

俺とキャロは自分たちの部屋に戻り、マイワールドに戻る。

「お待ちしておりました、マスター」

今日はピオニアが迎えにきてくれた。

悪魔族の女の子は家にいた。

茶色い髪の白い肌の少女だ。

俺の住んでいるログハウスではない。石造りの家だ

「…………こんな家、あったっけ?」

「否定します。急遽建造しました。ゲストハウスです」

「わざわざ作ったのか……」

俺はゲストハウスの中に入る。

彼女は帯で縛られていて、ララエルとルリーナ、ニーテの三人で見張っていた。

悪魔族の少女が恨めしそうに俺を見る。

「待たせたな。状況はわかっているか?」

「状況は聞いている。あなたを殺そうとしたことも、少し覚えている」

「なら、そんな目で俺を見ないでほしいな。俺はあんたの敵じゃない。俺の名前はイチノジョウだ。あんたは?」

「フルート」

「そうか……フルートか。ルリーナ、準備はできているな」

ルリーナが頷く。

「フルート、パーティ登録させてもらうぞ」

「選択肢はないのだろ? 好きにしろ」

彼女は頷いたので、ルリーナがさっそくフルートを一時的にパーティに入れた。

「ステータスを見せてもらうぞ」

「好きにどうぞ」

投げやりな態度で彼女は言った。

「ステータスオープン、フルート」

……………………………………………………

名前:フルート

種族:悪魔族

職業:邪狂戦士LV12

HP:219/220

MP:23/80

物攻:299

物防:51

魔攻:33

魔防:24

速度:195

幸運:0

装備:麻服 布靴 ダークエルフの帯

スキル:【投石】【槍装備】【俊足】【飛翔】【幻影魔法】【羽休め】【剣装備】【斧装備】【破壊】

固有スキル:【背水】【狂乱化】【同族殺し】

取得済み称号:無し

転職可能職業:邪狂戦士 Lv12 盗賊Lv1 狂戦士Lv1 贖罪者Lv1

……………………………………………………

やはり攻撃と速度がかなりのものだ。

狂乱化でステータスを増強させたらかなり強くなる。

それに、背水――ダメージを力に変えるスキルと見て間違いない。

投石は平民のスキルと見ていいだろうが、飛翔か。

悪魔族は空を飛ぶこともできるのだろうか?

幻影魔法は、おそらく翼や角を隠すために使っていた魔法だろう。

キャロの魅了変化のような魔法だろうか?

犯罪職になったせいで、通常の職業への変更はできないか。

とりあえず、贖罪者に転職させる。

「これで当面大丈夫だ」

「……いったい、なにをした。力が抜ける」

「自分のステータスを見たらわかるよ。お前のためにしたことだ」

「……ステータスオープン」

フルートは懐疑的な目で俺を見つつも、自分のステータスを確認する。

「……なっ!?」

どうやら、フルートは自分の職業が贖罪者になっていることに気付いたらしい。

「いったい、なにをした?」

「悪いが教えることはできない。そして、事後承諾になるが、暫くの間、フルートにはここにいてもらう。衣食住は保障するし、普通の生活に戻れるように、贖罪者のレベル上げも手伝うつもりだ。ただ、お前が生きていることがバレたらまずい。あと、ここのことを他の誰かに話されても困るんだ」

「確かに、滅んだと噂されているダークエルフが生きていることを知られるわけにはいくまい」

それだけじゃないんだよな。

マイワールドのことも知られるわけにはいかない。

「あぁ、とりあえずなにかいい方法を考えるから、フルート。家族はいるか? お前が生きていることくらいは知らせておくことができるぞ」

「言うわけないだろ」

「なんでだよ。家族が心配しているだろ」

せめて無事だけでも知らせたら安心するじゃないか。

「イチノジョウ様。悪魔族は 人間族(ヒューム) の中に混ざって生活をしています。イチノジョウ様のことを完全に信用していない状態で家族のことを聞きだすのは難しいと思います」

そうか、どこから情報が洩れるかわからないだろうから、言えるわけないか。

実際、今回の事件で悪魔族であることが発覚した者は教会に送られてしまったと聞いている。

「悪い、俺の思慮が足りなかった」

俺は謝罪し、帯を解く。

「ララエル。フルートを案内してやってくれ」

「いいのか? 逃げるかもしれないぞ」

「逃げられるものなら逃げてみろ。ただ、危険な場所もあるから、先に話くらい聞いておけ」

マイワールドから脱出する手段は、俺とハルにしかない。

逃げようと思って逃げられるものではないし、贖罪者である彼女のステータスは無職にも劣る。たとえ彼女が武器を使って不意を突いたとしても殺せる人はここにはいない。

「……あぁ、そうだ。これだけは教えてほしい、狂乱化の呪いが発動するための文言は結局なんだったんだ? 世界のきゅうとか聞こえたけど」

「世界の救済……確か、あの男はそう言った。それを聞いて私の精神は破壊された」

「世界の救済……」

タルウィが言っていた言葉だった。

世界の破滅と救済。

そして、世界の終焉。

いったい、これはどういう意味なんだ。

世界規模の話なんて、俺となんの関係があるっていうんだよ。