軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黄金樹の結実

「トラップドール?」

当然、初耳だ。

レアモンスターというから、珍しい魔物であるということはわかる。

「トラップドールはダンジョンのあちこちに罠を張り巡らせる人形型の魔物です。しかも、トラップドールが死んでも仕掛けた罠は残ります。十数年前に一度、上級者向けダンジョンに出現しており、過去に討伐が遅れたダンジョンには数千もの罠が仕掛けられており、全ての罠を撤去するのに長い年月を要したそうです

キャロがトラップドールについて説明した。

つまり、かなり厄介者ということか。

「罠については、罠師の職業を持つ人がいれば発見、解除は可能でしょう。罠師になるには、冒険者ギルドで講習を受ければ誰でもなることが可能です」

「しかし、いまから講習を受けるのもなぁ」

「それでしたら、ダークエルフの中から罠師が持つスキルを持っている人を連れてくるのはどうでしょう?」

ハルが思わぬ提案した。

しかし、それはまずいだろう。ダークエルフは対外的には全て教会に滅ぼされたことになっている。

誰かに出くわしたとき、彼女たちがまだ生きていることが知られたら厄介なことになる。

そう言おうと思ったが、

「それがいいでしょうね」

キャロがハルの意見に同意した。

「え? いいのか?」

「はい。さすがに特徴的な耳をそのままにするわけにはいきませんが、帽子を被っていればダークエルフとは気付かれることはまずありません。それに、上級者向けのダンジョンは入る人は少なく、他の冒険者と出くわすことも稀ですから」

「そういえば、俺もダンジョンの中で他の人と出会うことはあまりないな」

そうか、問題ないのか。

さすがに大勢のダークエルフを連れて歩くのは目立つので、誰かひとり頼むことにしよう。

ダンジョンの小部屋からマイワールドに戻った。

薄暗いダンジョンの中から移動したので、マイワールドの光が眩しく、俺は目を細めた。

トンネルを抜けて雪国に突入した運転手の気分だ。

誰かいないかなと思っていると、デザートランナーのナナワットが一番に俺に近付いてきた。

俺の前で頭を下げるので、頭を撫でてやり、アイテムバッグの中から精肉を取り出して与えた。

ナナワットは一瞬でその肉を平らげると、俺に乗るようにと横を向いて屈んだ。

俺が乗ると、ナナワットはゆっくりと立ち上がる。

「とりあえず、誰かいる場所に連れて行ってくれ」

俺がそう言うと、ナナワットは勢いよく出発した。

暫く走ると、牧草地でのんびりと草を食べるスーギューたちとフユンがいて、セミロングくらいに髪が伸びたシーナ三号がピッチフォークを使い、厩舎に干草を運んでいた。

しっかりと働いているようだ。

彼女は俺を見つけると、ピッチフォークを放り投げてこちらに走ってきた。

「マスター、お帰りデス! 魔力の補給をお願いしたいデス」

「魔力の補給って、前にしただろ?」

「髪を伸ばすのにだいぶ使ってしまったのデス」

「魔力で伸びるものなのか」

まぁ、植物も伸びるくらいだし、髪も伸ばせるのか。

ケンタウロスを連れてきたのは俺の責任なので、今夜魔力を与えることを約束した。

さすがに、この場所で背中を見せてマッサージしてもらうつもりはない。

シーナ三号にダークエルフたちはいないのか? と尋ねると、今日はダークエルフたちは休みをもらい、黄金樹の前で祈祷をしているという回答をもらった。ちなみに、ピオニアは現在は酒蔵で日本酒を作っているらしい。

俺はナナワットに乗り、黄金樹がある森へと向かった。

いつもは森林の前にはスーギューや鶏、他にも海辺にいるジュエルタートルたちが誤って森に入り込まないための巡回が行われているはずなのに、今日は誰もいなかった。

なにか特別な日なのかと思いつつ、黄金樹のある場所に向かうと、そこでは奇跡的な光景が広がっていた。

光り輝く黄金樹が、さらに強く輝いていたのだ。

その黄金樹を取り囲むようにダークエルフたちが舞っている。

「祭りか?」

俺がそう呟くと、ダークエルフたちがこちらを見た。

全員が緊張した面持ちだったが、俺の顔を見て表情を崩した。

「悪い、邪魔したか」

「いえ、イチノジョウ様ならば問題ありません」

ララエルが微笑み、黄金樹を見上げた。

「見てください、黄金樹が結実したのです」

彼女の言う通り、黄金樹には大玉スイカくらいの大きさがある大きな木の実が輝いていた。

木の実の重みのせいで枝が大きくしなっている。いまにも折れそうだ。

「あれが黄金樹の実か――ララエルたちがあの実を食べたら子供ができるのか? 実ができるのはまだまだ先だって話だったが」

ダークエルフたちは黄金樹の実の種を食べることで懐妊する、女性しかいない種族だ。

もしも黄金樹がなくなれば、彼女たちは滅ぶ運命にある種族だ。

そのため、彼女たちにとって黄金樹は自分の親でもあり、神にも等しい存在でもあるのだ。

「いいえ、あの実は大地の実と呼ばれ、黄金樹が成樹になるよりも前に生まれる魔力の固まりのようなものです。その実を落とし、大地に魔力を満たすことで次世代の黄金樹を育てるための土壌を自らの力で育てるのです。中に種はありません」

ララエルがそう言ったとき、ダークエルフたちから声が上がった。

大地の実の重さに耐えられなくなって枝が折れたのだ。

ダークエルフたちは実の方に集まり、数人で落ちてきた実と枝を受け止める。

「大丈夫なのか?」

「はい、私も直接見るのは初めてですが、大地の実はこのように枝が折れるそうです。実に栄養が吸われ、枝も脆くなるのだそうです」

「凄い仕組みだな――折れた場所が心配だから、植物回復のスキルを使おうか?」

「お心遣い感謝します。ですが、農家スキルを育てている者はダークエルフの中にもいますから、心配には及びません」

職業、農家は下級職だから成り手も多い。

黄金樹の世話をするためにも必要な職業だから、植物回復スキルが使える者がいるのは当然か。

実際、若手のダークエルフが黄金樹の幹に触ってスキルを使っていた。

どうやら、実が落ちてきたところで儀式は終わりらしい。

「でも、大地の実ができたのがこの時期でよかったな。もっと早かったらケンタウロスに食べられていたかもしれないぞ」

「いえ、それが不思議な話なのですが、そのスロウドンキーが黄金樹の前に立ったと同時に、大地の実が結んだのです。それまでは兆候もなにもなかったのですが」

「え? そうなのか?」

ていうか、ケンタウロスの奴が黄金樹の前まで来たのか?

そんな報告は受けていなかった。

「スロウドンキーは実が結んだのを見届けると、静かに去っていきましたので実害はありませんでした。スロウドンキーが止まるのが遅ければ、ハルワタート様の剣がスロウドンキーの首に突き刺さっていたでしょう」

なんてことだ、かなり危ないところまで迫っていたらしい。

「ララエル様、大地の実です」

ダークエルフのひとり――ユリスラが枝から切り取られた大地の実をララエルに渡した。

先ほどまでの輝きは消えたが、金と同じように煌めきがある。

実際、金の成分が含まれているのではないだろうか?

「イチノジョウ様、こちらをどうぞ御納めください」

「え? でもこれって大事なものなんだろ?」

「いえ、大地の実は次世代の黄金樹が育つための環境を整えるためのものですが、この世界ではどの場所でも黄金樹が育つための栄養がありますから」

そう言われたらその通りだ。

でも、これって美味しいのだろうか?

貴重なアイテムには変わりないだろうから、食べるのはやめて、ミリを助けてから彼女と相談しよう。

そう思い、アイテムバッグに大地の実を入れた。

「イチノジョウ様。それで、何か御用があったのではないのですか?」

「あぁそうだった。罠師の職業を極めている者がいたら協力してもらおうと思ってたんだ」

俺はララエルに事情を説明した。

すると、ダークエルフの中に、罠師を極めている人が五人もいた。

密猟者をとらえるために、罠の設置技術が必要なのだそうだ。

その五人のうちのひとりはララエルだった。

「そういう事情であれば私が同行しましょう」

「大丈夫なのか?」

「はい、儀式も終わりましたし」

うん、ララエルが来てくれるのならありがたい。

ついでだから、ルリーナに頼んで、ララエルを俺のパーティのひとりに加えてもらった。

これで彼女にも経験値が入ってくるだろう。