軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

また緊急事態

「しばらくはハルとキャロ、ふたりで戦ってくれ」

「ご主人様は戦わないのですか?」

俺が第二職業を法術師に変更しながら提案をすると、ハルが不思議そうに尋ねた。

「とりあえず三階層までは戦わないつもりだ。ハルとキャロの強さを知っておきたい」

キャロの強さが少し不安だ。いくら彼女が第二職業まで解放されていて、ふたつの職業のステータスが合算されているとはいえ、薬師は非戦闘職だし、夢魔の女王も魔法職である。

物防値がハルの三分の一にも満たない。

「キャロは俺が渡した火の指輪と魔法の攻撃を使ってもらう。決して魔物に近付かないように。そうだな、どうせならゲーム形式で行くか」

「ゲーム形式ですか?」

「約三メートルだ。魔物や魔物の攻撃がキャロから約三メートル以内に近付けば俺が動く。俺が動くようなことがあればハルとキャロの負け。逆に俺の出番がないまま全部終わればハルとキャロの勝ちだ。ハルとキャロが勝ったらご褒美っていうのはどうだ?」

「「やりますっ!」」

ふたりの目が強い光を放つ。

あ、あれ?

そこまでやる気になるなんて不安なんだけど? この前、シーナ三号と一緒に作ったパンケーキが好評だったから、今度はドーナツを揚げようかな? とか考えていたんだけど、それだけでは済まされない雰囲気だ。

迷宮の一階層、いきなり登場したのはスライムだった。

しかもただのスライムではない。通路がスライムで埋まっている。しかも、スライムの体は半透明ではあるが分厚すぎて、目視では核がどこにあるかわからない。

スライムは物理攻撃は効きにくいから、ハルには戦いにくいか?

と思ったら、スライムから触手が縦横無尽に伸びて俺たちを襲ってきた。

いくら狭い通路とはいえ、通路の幅は五メートル近くある。短剣で全てを切り落とすのは無理だろう。

早速俺の出番か? と思ったら、ハルが一瞬にして触手を全て切り落とした。

疾風の刃と炎の竜牙の効果により、風炎の刃が巻き起こり触手を焼き切ったのか。

しかし、このまま短剣の魔力を使っていていいのか?

短剣の魔力は無尽蔵ではない。スライムがこの先出る可能性を考えると、やはり一度下がったほうがいいのではないだろうか?

新たな触手が生えてきてうねうねと動いている。

そう言おうとしたときだった。

「 眠り(スリープ) !」

キャロが魔法を唱えた。

すると、触手の動きが止まった。

眠りの魔法か。

そして――

「 悪夢(ナイトメア) 」

キャロがさらに聞いたことのない魔法を唱える。

しかし不発だったのだろうか? なにも起こらない。

だが、それは間違いだった。

すでに魔法の効果は発動していた。

【イチノジョウのレベルが上がった】

そう、俺のレベルが上がった――つまり、スライムが死んだのだ。

それが証拠に、スライムの体はダンジョンに呑み込まれるように消えていき、大きな魔石とスライムの核らしき大きなゼリー状の玉だけがその場に残った。

「キャロ、いまのは?」

「眠っている相手のMPを奪う魔法です。魔法生物は魔力がなければ生きていけませんので。奪うとはいいましたが、キャロのMPが回復するわけではありません。以前、イチノ様が竜を倒したときに覚えました、夢魔法のひとつです」

夢魔の女王のスキルらしい。

「証拠も残らないし、暗殺向きだな。もしかして、最強じゃないか?」

「普通の生物なら、魔力枯渇にはなっても死ぬことはありません。それに、ゴーレムやガーゴイルは眠ることはありませんから」

「え? ゴーレムって眠らないのか? 笛の音色とかで」

「眠りませんね。そもそも眠るという機能が存在しないのかもしれません」

そりゃそうか。ゴーレムがいびきをかいて眠るって考えてみればシュールだ。

「ピオニアさんたちが眠らないのと同じでしょうか?」

「ピオニアさんたちは眠る必要がないだけで、眠ることはできますから違いますね」

そうだな、いまごろニーテもスイートルームのベッドの上でごろ寝しているだろうし。

ただ、あいつらは状態異常無効のスキルがあるから、スリープは効かないだろう。

スライムを倒したあとさらに進むと、宝箱があった。

THE・宝箱という感じの宝箱だ。

魔物の気配はない。ミミックってことはなさそうに思える。

それにしても、宝箱か。

「キャロ、宝箱って初めて見るけど、あれって誰が置いてるんだ?」

「宝箱を生み出すのは迷宮です。上級者向けの迷宮のように最下層までたどり着くことが困難な迷宮にのみ存在します。人間に迷宮に入ってもらわないと、瘴気の循環が難しいですから、そのためだと言われています。ちなみに、中には宝石の原石や貴重な鉱石が入っています」

なるほど、俺が宝箱をいままで見たことがないのは、俺が攻略した迷宮の中に上級者向けの迷宮がなかったからだろう。

「開けてみますね」

ハルがそう言って宝箱に手をかけた。

「罠が仕掛けられている可能性は?」

「低階層の宝箱に罠が仕掛けられていることはまずありません」

キャロがそう言ったとき、ハルの手が動いた。

「ハルっ!? なにがあったんだ?」

「宝箱から矢が飛び出してきました。なんとか掴み取ることができましたが――」

「そんな、低階層の宝箱に罠があるなんて」

キャロはそう言って宝箱を見た。

宝箱の中にはトパーズの原石と一緒に、ボウガンのようなものがあった。

宝箱を開けたら矢が放たれる仕掛けになっていたようだ。

「イチノ様――これは緊急事態です」

「あ……やっぱりそうなんだ」

俺はそう言ってボウガンを取り外す。

うん、これはこれで売れそうだ。

なんか、最近緊急事態ばっかり起こって胃もたれしそうなんだけど。

「はい。第一級討伐対象のレア魔物――トラップドールが発生している可能性が高いです」