作品タイトル不明
蕎麦の流儀
どうも、マレイグルリには昔から転移してきた日本人や、日本人の子孫が住む町らしく、戦争時にも中立都市として自治を保っていたらしい。その裏には、日本人から受け継がれてきた技術、そして天恵を持つ転移者の存在があったのだろう。
ファミリス・ラリテイが元々日本人だったため、同郷に甘かったという可能性もあるかもしれない。
魔王との戦闘が終わり、日本人のダイジロウが都市長になっても、その自治はいまだに続いている。
そのため、ショーワ通りには様々な日本の文化が根強く残っている。
なにが言いたいかというと――
「最高だ。ビバ、日本」
俺は客室として宛がわれた和室の中で、ハルとキャロの艶やかな浴衣姿を見て言った。
さっきは着物姿だったけれど、着付けに時間がかかったのと、動きにくいということでハルとキャロは少し不満そうだった。俺はあのままでもよかったんだけど。結局、浴衣姿になったが、これはこれで最高だった。
着物は貰ったし、キャロが着付け方法を完全にマスターしたので、また着てもらおう。
「これは動きやすくていいですね。あとでピオニアに尻尾を出すための穴を開けてもらいましょう」
ハルがそう言って軽く動く。
でも、ミニスカ浴衣のため、あまり動き回るとブルマが見えそうだ。
まぁ、それはそれで楽しみだ。
俺はハルの動きを邪心を含めて見ていると、彼女が上段蹴りの動きを見せた。
そのとき、事件は起こった。
「――ぶっ!」
俺は思わずお茶を吹き出し、
「ハ、ハル……」
「どういたしました? ご主人様」
「お前、ブルマはどうした?」
「……? キャロの情報によると、浴衣や着物を着るときは下着は着用しないと伺いましたので」
俺はキャロを見た。
すると、キャロは魅了変化のスキルを使ったのか、大人の姿になっている。
「もちろん、上も着けていません」
キャロはそう言って、浴衣の前襟をちらりと引っ張った。
浴衣から二つの山が零れ落ちそうになっている。
俺はもう一度「最高だ。ビバ、日本」と呟いた。
でも、外に出る時はパンツだけは着用してもらうように頼んだ。
そして、俺たちは浴衣のまま食事に向かった。
「やっぱり女の子の浴衣姿はいいね。食卓に花が咲いたみたいだよ」
鈴木は自然な口調でハルたちの浴衣姿を褒める。
ハルたちも褒められてまんざらではなさそうだ。
「鈴木、ハルたちを邪な目で見るなよ」
「見てないよ。友達の彼女を取るつもりはないって」
そうだよな、こいつには既に三人も彼女がいるもんな。
もしかして、ラナも鈴木ハーレムのひとりなのだろうか? そのうち、ポチも人化の術を覚えて鈴木ハーレムの一員になるのだろう。
なにしろ、こいつは主人公補正を持っている根っからの主人公体質だからな。
そう思っていたら、その鈴木ハーレム候補のラナが料理を運んできた。
客人である俺たちの前に料理が並んでいく。
出てきたのは、ざる蕎麦だった。
わざわざ、竹簾が敷かれているあたり、こだわりを感じる。
「十割蕎麦だよな」
「うん、小麦アレルギーも克服できたから、二八蕎麦も食べてみたかったんだけど。ほら、うちの料理はラナさんが作ってくれているから、レシピの変更はラナさんを混乱させそうだからね」
「それは言えてる」
俺は苦笑して言った。
キャロとハルが、十割とか二八蕎麦とかどういう意味なのか尋ねてきたので、辞書に書かれている程度の説明をした。
そして、四人で蕎麦を食べる。
鈴木は音を立てずに静かに食べていた。カップ麺を食べるときは豪快に音を立てていたくせに。
音を立てて豪快に食べたいところだけど、ハルとキャロも慣れない箸を使って静かに食べているし、郷に入っては郷に従え、俺も静かに食べることにしよう。
「 沈黙の部屋(サイレントルーム) 」
口元に魔法を使い、豪快に啜った。
音がないと、やっぱり少し物足りない気がする。
鈴木は苦笑していた。
彼が音を立てずに食べるようになったときも、俺と同じ気持ちだったのだろう。
「鈴木、この蕎麦汁……ちょっと味が変じゃないか? 色も黒くないし」
「うん、どうしても蕎麦汁の味が再現できなくてね。醤油も味醂もないんだよ」
鈴木は残念そうに言った。醤油も味醂もないのに、この蕎麦汁……。
そういえば、航海中、久しぶりに醤油の匂いを嗅いだって言っていたし、ドクスコも清酒のことを幻の酒だって言っていた。
発酵技術があまり発達していないのかもしれないな。
せっかく日本文化なのに勿体ない。
ここは、あいつに頼むとするか。