軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミルキーの本の在処

「狂乱化の呪い? なんかヤバそうな名前だがどういう呪いなんだ?」

そう尋ねながらハルを見るも、彼女は首を横に振った。

彼女の知識量はキャロには劣るが、幼少期は魔王城で様々な本を読んでいたので、結構物知りだ。しかし、そのハルが聞いたことがないとすると、結構マイナーな呪いなのだろう。

鈴木は俺の問いに答えるように呪いの説明をした。

「狂乱化の呪いっていうのは、その名の通りの呪いだよ。特定の 文言(ワード) を聞くと、職業が 狂戦士(バーサーカー) という犯罪職になって、固有スキルが発動する」

無理やり転職させられるってことか?

確かにいきなりレベル1になるのはめんどうだから、戦闘中に発動すれば厄介そうだ。

しかし、 狂戦士(バーサーカー) に固有スキル……なんか嫌な予感しかしない。

「……その職業、もしかして固有スキル、かなりヤバイものなのか?」

「その通り。 狂戦士(バーサーカー) の固有スキルは二つあって、一つは狂乱――一時間、混乱状態になる代わりにステータスが大幅に上がるんだ。レベル1の狂戦士でも、レベル20くらいの剣士と同じくらいの強さになる。普通の人なら十秒とかからずに絞め殺せるくらいの力が手に入ることになる」

「それは確かに厄介だな」

「厄介なんてものじゃないよ。 狂戦士(バーサーカー) のもう一つの固有スキルは同族殺し――同じ種族を殺した場合、通常の十倍の経験値が手に入る」

十倍――俺の成長速度四百倍に比べれば大した事はない。

しかし、しかしだ。

『やっぱり、人を殺すとレベルが上がりやすいな』

かつて、フロアランスの迷宮で山賊が言っていた言葉が蘇る。

レベル1の狂戦士が暴れ、十人の人を殺したとする。すると、百人を殺したときの経験値が入る。

レベルが上がれば、本当に手に負えない状態になるな。

「人が少ない場所なら犠牲者も少なくて済むけれど、人混みの中で呪いが発動すれば最悪だよ」

「……その呪いは、自然に発症するものなのか?」

「いいや。呪術の心得のある者が儀式を行って発動させる必要がある。人を呪わば穴二つ――そのクラスの呪いとなると、レベルが1になったり職業を失ったり、下手をすれば命すら危ぶまれる。危険な呪いだよ」

「そんな呪いが――」

ハルが知らなかったのも無理はない。

それにしても、混乱か。

俺は混乱耐性はない。

万が一、求職スキルを使ったときに 狂戦士(バーサーカー) が出現しても転職しないようにしないといけないだろう。

「とはいえ、誰に使われたのか分からない以上、探しようもないのは事実だね。衛兵に報告はしておくから、調査はしてくれるだろう」

「任せたよ、男爵様」

「うん、任されたよ、 准男爵(バロネット) 殿」

「なんだ、横文字は少しカッコいいな。えっと、男爵はなんだっけ? 」

「 男爵(バロン) だね」

「そうか、じゃあ任せたよ、 男爵(バロン) 殿」

俺たちはそう言って頷いた。

しばらくするとキャロが帰ってきた。

あと数分、帰りが遅かったら心配していただろう。俺の心を読んでいるかのような見事な帰宅時間だ。

「これがイチノ様の故郷の建築様式ですか。とても機能性に溢れた建築ですね」

キャロはそう言って家を褒めた。うん、日本の建築ってやっぱり、機能美もあるよな。さすがキャロは目の付け所が違う。

まぁ、俺の家はファミリータイプのマンションだったので、こういう機能美の機能の恩恵はあまり受けなかったけれど。

「では、調べてきた資料を提供します。造船所ドックの職員ですが、事務員から情報を集めたところ、彼らが知っているのは経理関係に関する資料のみでした」

「じゃあ、行き先についてはまったくわからず仕舞いってことか」

「いえ、燃料には魔石を使っているのですが、ダイジロウ様が購入なさった魔石の量から鑑みて、飛行可能時間は二週間。他の大陸に渡るのは不可能です。飛空艇が東の町に向かったということですから――スズキ卿、この大陸の地図はおありでしょうか?」

「あ、うん、ちょっと待って」

鈴木は地図を持ってきて、広げた。

「二週間で魔石が補給できる場所。魔石は、ダンジョンの中でしか採ることができません。イチノ様が購入なさったダンジョンの場所が書かれた本と町の位置を考えると、大量の魔石を補給できる町は七ヵ所。そのうち、飛空艇が着陸できる地形、ツァオバールとの友好関係国等を考慮したところ」

キャロは指で三カ所の町をチェックした。

どれも南大陸東部にある港町だった。決してその三カ所は近い距離にあるとは言えない。

しかし――

「その三カ所に絞れたということは、東に向かって飛空艇の目撃情報からどこに向かったかわかるってことか」

「はい、その通りです。勿論、ダイジロウさんがアイテムバッグの中に私的に大量に魔石を所有している場合は東大陸に渡ることも考えられますが」

「最悪は想定しない。そもそも、こっちは徒歩で飛空艇に追いつこうとしているんだからな」

俺はそう言って頷いた。

「すごいね、キャロルちゃんは」

「だろ――戦闘面ではハルが。情報面ではキャロが。どっちも俺にとっては大切な人だよ」

「そうか――桜さんは?」

「んー、真里菜はムードメーカー?」

大道芸人だしな。

それに、俺の目的のひとつでもある。

彼女を日本に戻す――ハルやキャロと出会い、日本に戻らないと決めた俺にとって、彼女の目標は、俺のもう一つの可能性だった。

本当なら、このマレイグルリで真里菜とダイジロウさんを引き合わせて、日本に戻すための手助けをしたかった。そして、その目的はいまでも俺の中に残っている。

「あっと、ごめん。キャロちゃんのお茶を淹れてくるね」

鈴木はそう言って苦笑すると、キャロの分のお茶を淹れに行った。

キャロは鈴木の背を見送ったあと、俺にさらなる報告を続ける。

「それと、ミルキーさんの本についてですが……」

「そっちもわかったのか?」

「はい、ミルキーさんはこの町に残っているそうです。居場所はわかりませんでしたが」

「居場所はわからないのに、この町に残っているってことはわかるのか?」

「はい。もうすぐ、文集を販売するイベントがあり、そこで出品なさるそうです」

文集の販売イベント。

それを聞いて、俺はそのイベントの正体を知った。

間違いない、同人誌の即売会だ。