軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミリからのメッセージ

詳しい事情は、全員が口を揃えて「頑張った結果です」としか言わなかったので、ケンタウロスとひと悶着あったことしかわからなかった。

全員にスタミナヒールをかけておいたところ、少し落ち着きを取り戻していた。

ピオニア、ニーテ、シーナ三号の三人には、それぞれMPを補給しておいた。シーナ三号の髪は治らなかったけれど、ホムンクルスの自然治癒力があれば、三日もあれば元の長さに髪が戻るそうだが、彼女にしては珍しくかなり落ち込んでいた。

髪は女の命というから、そこは仕方がないだろう。

「……ショートヘア、似合ってるぞ」

と慰めておいた。

ルリーナから一枚の紙を受け取った。

ケンタウロスの被害――もとい、食べた作物の数だ。

トマト百二十個、トウモロコシ七十本、サツマイモ百七十本、バナナ二十房、生姜七本、ニンジン二百六十本、ホウレンソウ三十二束……ケンタウロスが食べた作物の種類と本数が列挙されている紙を見て、俺は頭を抱えて、唸った。

なんなんだ、この数は。

中には茶畑一区画という項目もあった。食事をしたらお茶も飲みたいよね――とかそういう気分で、茶畑一区画丸々食べたというのか、このロバは。

生姜とネギの畑を丸々食い荒らした前科があるのだが、こいつ、ここまで食う奴だっただろうか?

レアメダルの与え過ぎで変な方向に成長していないか?

そんな紙を見て、もしかして、ケンタウロスは意地でもここから出ないんじゃないか? と思ったが、

「マレイグルリについたから出るぞ――ほら、ついてこい」

と言ってみると、案外すんなり俺についてきた。

十分に食べて満足しただけかもしれないが、逆に気味が悪い。

俺、ハル、キャロの三人とケンタウロスはマイワールドから出て、ジョフレたちと合流した。

「ケンタウロス、元気そうだな」

「ケンタウロス、元気そうだね」

ジョフレとエリーズがケンタウロスに抱き着く。

「……はい、とっても元気です」

「……今度来るときがあるとすれば、元気でないときにお願いします」

ハルとキャロがげんなりした口調で言った。

マイワールドの中であったなにかを思い出しているのだろう。

まぁ、ケンタウロスと一緒に旅をするのもここまでだ。なにしろ、ケンタウロスは厩舎に預けるんだからな。

「おや、そのスロウドンキー――」

ちょうどさっき鈴木と話していた男がこっちにやってきた。

「あぁ、このスロウドンキーなんだが――」

「ケンタウロスですね。話は伺っています」

ん? ジョフレとエリーズが事情を説明したのか? と思ったら、係員は赤いリボンをケンタウロスの頭に着けた。

「かわいいぞ、ケンタウロス」

「オシャレな女の子ね、ケンタウロス」

ジョフレとエリーズがケンタウロスを褒める。

そういえば、このロバは雌だったな――と今更ながら思い出した。

「町の中にいる間は、このリボンは外さないでくださいね」

男はそう言って帰ろうとした。

「ちょっと待て!」

俺は男を呼び止める。

「え!? このロバ、町の中に連れていってもいいのか?」

「はい、既に市長から命令が来ています。赤い髪の男と青い髪の女が間の抜けた顔のスロウドンキーを連れて来たら町の中に入れるようにと。市長の命令ですから」

「市長? 市長って、もしかしてダイジロウさん?」

「はい、ダイジロウ様です。門番にも同様の通達が行っているでしょうから、間違いなく町の中に入れると思いますよ」

…… 本当(マジ) か。

「……ジョフレ、エリーズ。お前ら、これからどうするんだ?」

「ダイジロウさんに届け物があるから、それを持っていくつもりだよ」

「大きなトカゲの角だね。飛空艇のドックに持っていくの」

「飛空艇のドックにっ!? 俺も――俺も付いて行っていいかっ!?」

ジョフレとエリーズと関わるのが嫌ですっかり忘れていたが、ふたりはダイジロウに雇われていた。ふたりについていけば、雇い主のダイジロウさんがいる場所に辿り着くのは自明の理だった。

しかし、ダイジロウさんは俺が彼女を追っていることに気付いているだろう。

当然、ジョフレとエリーズにも、俺を案内しないように命令を――

「あぁ、いいぞ」

「うん、いいよ」

――されていないのか?

ジョフレとエリーズはあっさり俺を案内すると約束してくれた。

「いいのか? ダイジロウさんに止められていないのか?」

「いいぞ。特に止められてないし」

「いいよ。フリオくんやスッチーノくん、ミルキーちゃんも待ってるだろうし」

そういや、あの三人もいるんだった。

ジョフレ、エリーズと違い、あの三人はどうでもいいからすっかり忘れていた。

厩舎で男が言った通り、ケンタウロスを連れていたのに、俺たちは碌な審査もなくすんなり通してくれた。

そして、俺たちは町の中に入ったのだが。

「…………」

俺は思わず声を失いそうになった。

「どうしたのですか? ご主人様」

「確かに不思議な街並みですね」

不思議な街並み。そう言われるのも、彼女たちにとっては無理はないだろう。

なにしろ、普通の民家が垣根や石垣、木の壁に囲まれていたりして、しかも屋根には瓦が使われているような町がこの世界にあるとは思えない。

そう、ここは昭和レトロな街並みだったのだ。

「この柱はなんでしょう? 上に鉄線のようなものがありますが」

キャロが円柱状の木の柱を見て言った。

「……たぶん、電柱じゃないかな?」

「でんちゅうってなんだ?」

ジョフレが尋ねる。

「あぁ、電気っていう雷魔法の力を少し小さくしたものを、金属の線で通しているんだけど、直接触ったら危ないから、あんな高いところに線を張り巡らせているんだ」

この世界で本当に電気技術が発達しているのかどうかわからない。

別の何か――それこそ魔力エネルギーとか通しているんじゃないだろうか?

しかし、この和風の街並み、歩いているのは日本人とは違った外見の異世界人。

まるで、日本の保存地区が外国からの観光客に占拠されているみたいな光景だ。

電柱の他にも、銭湯や自転車、さらに地面にはマンホールまであった。下水道が完備されているのだろうか?

「……なんだか、落ち着くな」

懐かしいと思わせる空気――ミリもこの場所を見ているのだろうか?

と思いながら、街を進むと、その姿は一変した。

「こっちは、普通の街並みになったな……どうなってるんだ?」

少し歩くと、急にゴーツロッキーと同じような街並みに変わり、俺は驚いた。

振り返ると和風、まっすぐ見ると西洋風。境界線に見えないゲートがあるみたいだ。

「おや、旅人さんかい? この町は初めてかな?」

お爺さんが声をかけてきた。

「え、えぇ、まぁ」

俺は頷いた。

どうやら、この町に初めて訪れた人は、たいてい町の入り口で、そしてここで驚くらしく、このお爺さんはそんな人に声をかけているんだそうだ。

「この町は三つの区画に分かれていてね。あっちがニホンジン街、こっちがアザワルド街。さらに向こうは魔法街って呼ばれてるんだ。観光を楽しみたいならニホンジン街がお勧めだよ。変わった物がいっぱいあるからね」

「どんな場所が人気なんだ?」

ジョフレが尋ねた。

「そうだね。他の町で見ない施設でいえば、銭湯と呼ばれる公衆浴場や、食堂。あと、寺院と呼ばれる場所が人気だね」

確かに、公衆浴場はこの世界では珍しいよな。

そうか、銭湯があるのか。コーヒー牛乳とかあるのかな?

「あとは――いや、そのくらいだね」

お爺さんはジョフレに何か言いかけて黙った。ジョフレではなく、一瞬その視線は女性陣に向かったように見える。

思考トレースをしてみると、エッチな感情と気まずい感情が入り混じっている。

まぁ、風俗的な場所があるのだろう。

「ありがとうございました。ジョフレ、観光は造船ドックに行ってからだ」

「あぁ、そうだった。爺ちゃん、飛空艇のドックは知らないか?」

場所知らなかったのかよ。

爺さんは丁寧にその場所を教えてくれた。

ちょうどアザワルド通りにあるんだという。

俺たちは教えて貰った通り、道を進んだ。

すると、結構遠くから巨大な施設が見えた。

東京ドームくらいの広さがある、高さ三十メートルくらいのコンクリの建物だ。

あの中に飛空艇があるのか?

とすると、屋根は開閉式なのだろうか?

そう思いながら、俺たちはドックに向かった。

敷地の入り口、建物の入り口の二カ所に見張りがいたが、ジョフレの冒険者カードを見るとすんなり中に行くことができた。

そして、俺たちはドックの中に入った。

「ご主人様――」

ハルが声をかけた。

「あぁ、大丈夫だ」

当然、飛空艇はここには止まっていない。

ドックの中は静まり返ったものだった。

ミリやダイジロウさんもここにはいなかった。

最初から、全てがこの場所で解決するとは思っていない。

ここにはいないが、ドックの職人を探して、ダイジロウさんの居場所やその目的を知るのが俺の目的だ。

奥の方に別の部屋もありそうだからな。

そう思ったときだった。

「……ご主人様――あそこから匂いが」

「ミリのか?」

「恐らく――スパイスの匂いでかき消されてしまって」

ハルが匂いの方向を指さす。

そこはドックの隅だった。

そして、転がっていたのは、ビー玉だった。

なんでこんなところにビー玉が?

「綺麗なガラス玉ですね」

「……ハル、匂いはここから漂ってきたのか?」

「はい、そうです」

「そうか……これは間違いない、ミリのだ」

スパイスの匂いがするビー玉。

その正体は、カレー味のラムネの中に入っていたビー玉に違いない。

カレー味のラムネは決してマズイものではないが、しかし、それをわざわざ異世界で再現して作ろうとする物好きはいないだろう。そんな奇特な人がいるとすれば、それより先にコーラやサイダーが一般的に出回っているはずだ。

つまり、これはミリが日本から持ち込んだものに違いない。

「ん?」

ビー玉には、小さな文字で何か書かれていた。

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