軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

樽の中の少女

森は、俺がこの世界に初めて来た時の森のように鬱蒼と茂っている様子はない。

だが、奥に走れば元の場所にすぐに戻れるか心配になる。

最終的に元の道に戻るにはハルの嗅覚が頼りだ。

獣剣士のスキルとして嗅覚強化を取得しているらしいから、先ほどの馬車の匂いを追って次の町に行くのは余裕だろう。

だから、今は帰り道のことよりも、目の前の人を助けることに集中しよう。

「ご主人様、血の匂いが強くなっています」

ハルの尻尾がピンっとなり、スカートが少し捲りあがる。

…………。

「もう少しだな」

「はい、もう少しです」

ハルの尻尾は血の匂いに反応してさらに上にピンっと立ち、スカートが徐々に捲りあがってきて、

「……見えた!(ブルマが!)」

「はい、見えました!」

「……え?」

前を見ると、冒険者風の男が巨大な熊に殴り飛ばされていた。

熊だけじゃない、狼もそこにいた。その数は、熊は10、狼は20、フィッシュリザード程ではないが、それでも多い。

同じ種族の魔物が群れで一人を襲うことはあるかもしれないが、複数の種類の魔物が手を組んで一組の冒険者を襲うなど、あり得るのだろうか?

殴り飛ばされた冒険者だけではない、他にも五人の冒険者が倒れているが、全員事切れているだろう。

魔除けの香というアイテムがあったから、魔寄せの香みたいなアイテムでもあるのだろうか。

そんなものを使って殺されていたら目も当てられないが。

「俺は熊を倒す、ハルは狼を頼む」

俺はそう言って、剣を抜く前に、二本の腕で、スラッシュを放つ。

熊の胴体にXの傷が刻まれ、地に倒れる。

迷宮の魔物と違い、地上では魔物は死んでも消えてなくならない。

死んだかどうか確認するのが大変そうだ。

俺は剣を抜き、二体いる熊の間に入り込み、

「回転切り!」

回転切りで二体の熊の胴体を真っ二つに切り裂こうとした――が、剣が重い。

一体の胴体を切り裂いたところで、威力が激減し、二体目の熊の身体に剣が食い込み、剣が抜けない。無理に抜いたら剣が折れてしまいそうになる。

その時、体を半分斬られたはずの熊が、その左腕を俺に殴りつけようとしてきて、俺は咄嗟に後ろに飛んだ。

なんだ、あいつら、俺や倒れた冒険者よりも、地面を掘りだした。

あの中になにかあるのか?

……違う、何かがあるんじゃなくて、何かがいるんだ。

気配探知に反応している。

よく見ると、あそこの土、一度掘り返した後があり、周りにスコップが置かれている。

冒険者が掘ったのか?

いや、違う、掘り返した後があるってことは、冒険者が誰かを埋めたってことか?

魔物を? それとも人を?

そして、魔物達はそれを掘り返そうとしている?

熊だけではない、狼も一緒になって掘り返そうとしている。

おかげで、こっちも相手にする魔物の数が少なくて助かるんだが。

さて、遊びはここまでだ。

「スラッシュ!」

手刀でスラッシュを放ち、さらに1頭の熊を倒し、1匹の懐に潜りこみ、掌底を放ち、跳び膝蹴りを熊の顎にうちつける。

合計五匹の熊が倒れたことで、残り五匹の熊は土を掘っている余裕はないと思ったのか、こちらめがけて突撃してきた。

だが、固まっているのが運の尽き――いや、俺に出くわしたことで、お前たちはもう死んでいる!

「ファイヤ!」

職業を魔法特化に代え、最大火力の魔法を放った。

その攻撃で熊4頭が炎に包まれた……が1頭が炎の範囲の外にいたためか、こちらに突撃してきた。

だが、ハルの二本の剣が熊の身体を切り裂いた。

「ご主人様、差し出がましい行い、申し訳ありません」

「いや、助かったよ」

倒れる熊を見て、俺は素直にそう言った。

【イチノジョウのレベルが上がった】

【魔術師スキル:水魔法が水魔法Ⅱにスキルアップした】

【剣士スキル:二刀流を取得した】

途中で職業を入れ替えながら戦ったが、そこそこレベルが上がった。

だが、スキル取得は2つだけか。

そして、先ほど殴り飛ばされた冒険者を見る。

……やはり、絶命しているようだ。脈を確認し、死んでいることを確かめる。

「……結局、誰も助けられませんでしたね」

「いや……まだ一人助けられるかもしれない」

俺はそう言うと、スコップを取り、土を掘り返した。

ハルも血の匂いのせいですぐには気付かなかったが、俺の行動でわかったようで、掘り返すのを手伝う。

そして、土の中に、樽があった。

大きな酒樽だ。

「……おい、誰かいるのか?」

「……誰? 誰かいるんですか?」

樽の中から聞こえてきたのは、幼い女の子の声だった。

その時、ハルが立ち上がり、尻尾を立てる。

「ご主人様、魔物がこちらに向かってきています」

「早く! 早くキャロをここから出してください!」

魔物が来ると聞いて慌てたのか、樽の中から声が上がった。

言われなくても、と俺は樽の蓋を開けてやる。

樽の中にいたのは、黒いドレスを着た、紫色の髪の――少女だった。

12歳くらい……ミリと同い年くらいじゃないだろうか?

そして、首には、ハルと同じ、隷属の首輪がつけられている。

こんな小さな子も奴隷なのか。

それより、早くここから逃げないと。

「……ご主人様、魔物の動きが止まりました……どうやら、去っていくようです」

「そうか……助かったな」

俺は安堵し、少女を見た。

魔物が去ったと聞いたのに、うつむいたままの少女……あぁ、そうか。

そうだよな、俺達が樽を掘り返したってことは、彼女はもう理解しているのだろう。

どういう理由で少女を土の下に埋めたのかはわからないが、彼女が奴隷ってことは、殺された冒険者の中の誰かがこの子の主人だったってことか。

「悪い、お前の主人たち、守ってやれなかった」

「そのようですね……だからキャロは言ったのに」

だから言ったのに?

まるで、男達が死ぬのを最初からわかっていたような言い方に、俺は疑念をいだいた。

そして、恐らくキャロという名前の少女は俺の目を見て、懇願するように言った。

「どこのどなたか存じませんが、お願いです……キャロを……私を殺してください」