作品タイトル不明
預かるのは大変そうだ
「楠君、聞きたいことがあるんだけど、その召喚魔法って、仲間なら誰でも召喚できるの?」
鈴木が尋ねた。
「誰でもってわけじゃない。いまのところ召喚できるのは、ハルとキャロだけだな」
マリナや他の人が召喚できるかどうかはわからない。
彼女が眷属になっているかどうかわからないからだ。
ハルとキャロはステータスを見て確認したから眷属であることは確実なんだけどな。
一応、ふたりの周りにいる人も一緒に召喚できるんだけど、実際に使うのは眷属召喚のスキルじゃなくて、引きこもりスキルだから、それは黙っておく。
「そうか……じゃぁ、ダメかな」
鈴木が残念そうに言う。
「あぁ、マレイグルリについてからマイルたち三人を召喚してくれって言おうとしたのか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
鈴木はパンを食べるジョフレとエリーズを見た。
二人を召喚?
いや、違う――そうか。
「ケンタウロスか」
「うん、さすがにロバをポチの背中に乗せるのは危ないかなと思って」
「檻に入れて運ぶとかしかないんじゃないか?」
「……魔王竜に体当たりで打撃を与えるロバを閉じ込める檻って、そう簡単に手に入るとは思えないよ」
確かに……少なくとも木の檻くらいなら簡単に破られる。
そういえば、大森林北の詰め所からも逃げ出した前科があった。
俺も、こいつが暴れたら無傷で取り押さえることはできそうにない。
それで、召喚魔法というわけか。
……仕方がないか。
「ちょっと出発を待っていてもらっていいか? ハルたちに預かってもらえるか聞いてくる。人間なら無理だが、ケンタウロスなら、ハルと一緒に召喚できると思う」
俺はそう言うと、四人から離れた場所に移動すると、マイワールドに移動した。
移動してすぐ、俺は、ハル、キャロ、ピオニア、ニーテ、シーナ三号、そしてダークエルフを代表してララエルに集まってもらった。
「ということで、俺がマレイグルリに移動するまでの三日間、ケンタウロスという名前のスロウドンキーを、ここ、マイワールドで預かってもらおうかと思ったのだが、大丈夫だろうか?」
「「…………っ!」」
ハルとキャロが言葉を詰まらせた。
表情の変化の乏しいハルですら、その事態の大きさに戦慄を覚えているような表情を浮かべた。
それとは逆に事情を詳しく知らないピオニアたちは不思議そうだ。
「なぁ、マスター。あたしもいろいろと話は聞いてるが、所詮はロバだろ? わざわざ全員集める必要があるのか?」
ニーテが尋ねた。
事情を知らない者が聞いたらそうなるだろうな。
「ケンタウロスを甘く見てはダメだ。アイツの食欲はナナワットの比じゃない。しかも草食だ」
「それなら、私たちが襲われることはありませんね」
ピオニアが言った。
「シーナ三号は腕を噛まれたデスよ?」
「それはお前が手に水草を巻きつけていたのが原因だ」
シーナの言葉を俺は突き放し、まだ事情を飲み込めていないであろう皆に言った。
「ララエル、俺はわからないが、黄金樹の葉はロバにとって美味いと思うか?」
「…………っ!?」
現在のマイワールドにとって象徴的な植物ともいえる黄金樹。
その葉を奴が美味しいと思ったらどうなる?
「ケンタウロスに対し、交渉は可能だ。奴に毎日トマト五十個、ニンジン五十本与えるから黄金樹に手を出すなと言うことも可能だろう。しかし、その理性よりも黄金樹を食べることを優先しないとは限らない」
「……イチノ様、ケンタウロスを預からないという手段はないのですか?」
キャロが言った。
そこまでリスクを冒す必要があるのか? と言いたいのだろう。
「俺もそれがいいとは思っているが……ケンタウロスと一緒にポチの上に乗るのも怖いんだよ」
鈴木によると、ワイバーンは上空二千メートルあたりを飛行するらしい。東京スカイツリーの三倍以上高いそんな場所で万が一のことが起きたら……俺はなんとかなるかもしれないが、他の奴は無事では済まない。
「ハル、お前に頼みがある。お前にしかできないことだ」
「なんなりと」
「ケンタウロスが黄金樹に危害を加えようとし、どうしようもできない事態が起きた場合、奴を止めてくれ。最悪、足を折るなどしてもいい……できるだけ殺さないでほしいが」
「手加減して勝てる相手とも思えませんが、かしこまりました。ご主人様の剣の名に恥じぬ戦いを、この守命剣と疾風の刃に誓います」
「できることなら戦わずに済むよう、俺も努力するつもりだ」
そのための作戦をこれから考えないといけない。
その後、俺たちの話し合いは一時間も続いた。
「嘘みたいデスよね、これ、ロバを預かるだけの話なのデスよ」
シーナ三号が他人事のように言った。