軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

生命の女神、テト。

女神の中で唯一、自分の迷宮をたったひとつしか持たない女神でもある。

その理由は、彼女の仕事の量にあった。

彼女はひたすら現れては消えていくこれらの本を読み続けなければいけないからだ。

それは終わりのない途方もない作業である。

そのため、迷宮踏破ボーナスや迷宮の管理に費やす時間をほとんど取れなかった。

もっとも、とある事情により迷宮をひとつも持たないことはできないため、一番安全な場所に迷宮をひとつ持っている。

そんな彼女の世界に、ひとりの来客が訪れた。

「……ミネルヴァ、来たの」

その来客の存在を知り、テトは小さな声で言った。

「はい、仕事が終わった報告に来ました」

いつもは死にたがりのミネルヴァだが、彼女の前では死にたいとは口にしない。

それどころか、その言葉は非常に丁寧だった。

テトは、ミネルヴァにとって上位の存在であると言えるからだ。

本来、六柱の女神の間には先輩後輩の関係はあっても、上位下位という決まりはない。

しかし、二人の間にはそれがあった。

二人しか知らない理由であり、ミネルヴァは決してテトには逆らわない。

「……報告にしては遅かったわね」

「すみません」

女神の間では読心術は使えないが、しかし、予想はできる。

「……ごめん、コショマーレに怒られた?」

「いいえ、ライブラちゃんに」

「……あぁ、ごめん」

テトは謝罪した。

ミネルヴァがライブラに怒られた原因は、テトがミネルヴァに頼んだ仕事にあるからだ。

それは、ミネルヴァの持つネクタルを、イチノジョウという少年に届けさせることだった。

本来、女神は迷宮踏破ボーナス以外、人に道具を渡すことを禁じられている。

かつて、トレールールにもホムンクルスの核をイチノジョウに届けさせたことがあったテトだったが、そのときはトレールールは規則の穴――つまりただ貸し与えただけという屁理屈を述べて説教から逃れたことがあったが、ミネルヴァはそうはいかなかったらしい。

「でも、必要なことだったのですね?」

「わからない……メティアスの残したメモにはそう書いてあった」

メティアス。未来と知識の女神。

そして、運命の女神。

失われた七柱目の女神――否、一柱目の女神の名だ。

彼女が遺した、世界を守るために女神たちに課せられた課題。

そのうちのひとつが、イチノジョウにネクタルを届けることだった。

「あの、テト様。みんなに協力してもらったらもっと早く仕事が終わるんじゃない?」

「……ダメ……メティアスがいなくなった原因がわかるまで、決して他の人を頼ることができない」

テトが言った。たとえ、他の女神でも――否、読心術の通じない他の女神だからこそ信用することができないと。

「……私一人でも頑張る」

「あの、テト様。私は?」

「……私一人でも頑張る」

テトは決意新たにそう言うと、黙々と本を読み進めた。

来るべきその日を、来させないために。