軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

目を覚ましたとき、すべて終わっていた。

倒れた魔王竜の後始末は、兵たちとタルウィが行ってくれたようだ。

シーナ三号によって爆破された魔王竜は原形を留めておらず、素材としての価値はそれほど高くないそうだが、俺が仕留めた魔王竜は国宝級の宝になるそうだ。

その死骸は、ユーティングス侯爵が買い取る形になり、俺に渡される竜核を除き、そのまま彼の屋敷に運ばれるそうだ。

ユーティングス侯爵にまたひとつ貸しを作ってしまったが、返してもらうとすると無理やり昇爵されそうなので、全部パウロ伯爵の手柄にするように頼んでおいた。

「楠君、これ――シーナさんから預かったもの。楠君に渡してほしいって。あと、これは彼女が落としたんだ」

鈴木から、シーナ三号が遺したヒヒイロカネと、彼女が落としたという一枚のディスクを受け取った。

『ニャーピース』のDVDを違法コピーしたものだろう。

本来は処分するべきなのだろうが、これもシーナ三号の形見の品だ。

捨てることはできない。

「すまない、楠君。僕が弱かったばかりに」

「いや、お前はよくやったよ」

魔王竜が二匹いることなど、誰も予想できるわけがない。

「ジョフレとエリーズも助かった。お前たちがケンタウロスに乗って距離を稼がなかったら全員死んでいた」

「……ジョー、大丈夫か? 泣きたい時は泣いていいんだぞ?」

「……ジョー、大丈夫? 辛かったら胸を貸すよ」

「バカか。俺はあいつを褒めてやるんだよ」

シーナ三号の行いは正しい。あのままあいつが何もしなかったら、彼女だけでなく、こいつらも死んでいた。

「楠君。タルウィさんがこれは楠君に渡すようにって。氷を削って取り出してくれたんだ」

「……あぁ」

受け取ったのは、金色に輝く丸い玉。

竜核だった。心臓という話だったが、臓器としての心臓ではないようだ。

それとも、竹取物語に出てきた龍の首の玉のようなものだろうか?

でも、いまさらこんなものもらったって、意味がないんだよ。

そんなことを思いながら、俺たちは鈴木のワイバーンに乗ってゴーツロッキーへと帰った。

ポチに乗ってマレイグルリまで連れて行ってもらう約束を取り付け、キャロと合流。

一度三人でマイワールドに戻った。

ピオニアたちへの報告はハルからしてくれるということになり、俺はログハウスに戻ってベッドに倒れこんだ。

枕に顔を 埋(うず) め、独り言ちる。

「……ダメだな、俺は」

ハルに一番辛い役目を任せてしまった。

俺はあの時となにも変わっていない。

両親が死んでしまってから何年経っただろうか? その間、俺は強くなったと思っていた。しかし、その実は全然成長していない。

子供(ガキ) のままだ。

「……本当に、俺は弱い……こんなんで本当にミリを助けられるのかよ」

俺はそう呟き、シーナが鈴木からもらったヒヒイロカネと、ディスクを見た。

ヒヒイロカネ――俺が欲しいって言った金属だ。

たしか、シーナ三号にとって大切な部品だというが、ただの金属のカードのように見える。

「俺が欲しいって言ったから遺したのか」

こんなもの貰ったってなんの意味もないのに。

そして、今度はディスクに視線を向ける。

〈あれ?〉

このディスク、DVDじゃない。

DVDは二重構造になっており、CDとは見た目が若干異なる。

確か、ミリが持ち込んだアイテムバッグの中には、空のDVD-Rだけでなく、CD-Rも混ざっていた。

これはCDの方だ。

(ということは音楽データか?)

情報データの可能性もあるが、シーナ三号はニャーピースのオープニング曲にはまっていた。もしかしたらそれをコピーしたのかもしれない。

しかし、なぜかは知らないが、俺はベッドから起き上がると、徐に発電機の置いてある部屋に向かい、ポータブルDVDプレイヤーにそのCDを入れた。

ポータブルDVDプレイヤーでも音楽の再生は可能だからだ。

そして、流れたのは――音楽ではなかった。

『だから、私がこうして寿命を迎えることができたのはマスターのせい――いえ、マスターのお陰なのデス。いまの私はサッカーで言うならロスタイム――サービスタイムのようなものデス。これ以上望めません。もうシーナ三号は勝ち組ですから、延長戦はないのデスよ』

これが、シーナが遺した音声データ?

シーナの寿命が残り僅かだって知った時のシーナと俺の会話だ。

なんでこんなものが残ってるんだ?

『勝ち組って、お前――いいのかよ、それで』

俺の音声データも記録されているようだ。

『いいのデスよ。勝ち逃げは女のロマンです』

『海賊王になるんじゃなかったのかよ』

『あれは冗談デス』

『じゃあ、お前はなにをしたいんだ? できることがあれば俺が叶えてやる」

『そうデスね……では、マスター、耳を塞いでもらっていいデスか?』

『耳を……? わかった』

そうだ、この後、シーナ三号は俺の悪口を散々言うんだったな。

あの時は耳を塞いでいて何も聞こえなかったが、しかし、その音声データはしっかりと残っていた。

『マスター……私の願いはマスターと最後まで一緒に冒険をすることです。試合終了のサイレンが鳴るその日まで……それからも』

音声はそれで終わっていた。

俺の悪口なんかじゃないじゃないか。

なんで、こんな時だけしっかり発音できてるんだよ。

サイレンって、高校野球じゃないんだから、そんなの鳴るわけないだろうが。

涙が零れ落ちた。

なんだよ、こんなの反則じゃねぇか。

せっかくここまで泣かずにいたのに、俺の努力を返しやがれ。

ていうか、最後まで一緒にいたいのなら、そうしてくれよ。

俺と一緒にいたら、お前は死ぬことはなかっただろうが。

俺が守ってあげられただろうが。

「…………?」

待て、シーナはその後なんと言った?

試合終了のサイレンが鳴るその日まで…… それからも(・・・・・) ?

俺は手の中にあるヒヒイロカネのカードを見た。

カードの側面に継ぎ目のようなものが見える。

もともと二つに割れるようになっているようだ。

「まさか――」

俺は爪を隙間にいれ、力を込める。結構硬い、普通なら爪が割れてしまうだろうが、職業を物理系に変更し物防値が1000を超えている今の俺の爪は鋼よりも硬い。

「も、う、す、こ、しっ! よしっ!」

金属片がパカっと二つに開いた。そして――

「これはっ!」

俺は急ぎ、部屋を飛び出し、最初に見つけたキャロにピオニアの居場所を尋ねた。

作業小屋にいると聞き、事情を聞いてくるキャロには「後で話す」と言って作業小屋に向かった。

「ピオニアっ!」

作業小屋では、ピオニアがシーナ三号の予備ボディを木の箱に入れているところだった。

「マスター、申し訳ありません。僭越ながら、シーナ三号の予備ボディを使用し葬儀をしようとしておりました」

「葬儀の前にこれを見てくれ」

俺はふたつに割れたカードを見せる。

そこには文字がびっしりと書き込まれていた。

「これ、魔記者が使うアレだろ?」

「肯定します。魔記者が使う文字です。情報を蓄積するための魔法が込められています」

「情報を蓄積? それってつまりは――」

「賢者の石に人間でいうところの心臓と胃腸の役割があるとすれば、このヒヒイロカネのカードは脳の役割を担っています。恐らく、シーナ三号の記憶が保存されているのでしょう」

「ならば、これをこの予備ボディに組み込めば、シーナを生き返らせることができるんじゃないか?」

「…………」

ピオニアはなにも言わない。

珍しく悩んでいるようだ。

「ピオニア、どうなんだ?」

「……否定します。マスター、シーナ三号はそれでは直りません」

「なんでだ?」

「魂がないからです。シーナ三号の記憶があっても、ボディが完全に再現できたとしても、魂のない状態では、それはもうシーナ三号ではありません。別のなにかです」

魂がない。

魂がないから、もう戻れない。

いや、そんなわけがない、と俺は否定した。

「シーナ三号の魂は絶対にこの中に眠っている」

「何故そう思われるのですか?」

「あいつは言ったんだ。試合終了のサイレンが鳴っても、俺と一緒にいたいって。そんなあいつが、俺にこれを遺したんだ。このヒヒイロカネには、シーナの魂が――いや、シーナそのものが残っている。俺はそう思う」

俺が言うと、ピオニアは顔を伏せた。

そして、顔を上げると俺の目を見て言った。

「演算結果では、シーナ三号が生き返る確率は十パーセントにも満たないでしょう」

「ロスタイムや九回裏で逆転することを考えれば十分な確率だよ。少なくとも、十パーセントの勝利を放り捨てて試合を諦める高校球児を俺は知らない」

「わかりました」

ピオニアはそう言うと、俺から竜核とヒヒイロカネを受け取った。

アダマンタイトで作られた容器の中にネクタルを入れ、その中に竜核を沈めて蓋をする。まるで子供の工作のような作業だが、ピオニアの目は真剣そのものだ。

ヒヒイロカネを組み込む。

しかし、シーナ三号は動かない。

「そういえば、このままではダメなんだよな。たとえ賢者の石を埋め込んだとしても、それは瘴気を魔力に作り替える機能になるだけで、エネルギーにはならない」

「肯定します。そこで、マスターにお願いがあります」

「お願い?」

「シーナ三号を私の妹にすることを許可してください」

「妹……まさかっ!?」

俺はアイテムバッグからトレールール様から預かった試験管を取り出した。

その中にはホムンクルスの卵が入っている。

「ホムンクルスの卵は、孵化した後、女神テト様によって転生した者の魂が入り生まれます。しかし、シーナ三号の魂がこのヒヒイロカネにあるというのなら、彼女の魂はこのホムンクルスの卵に宿ります」

「それって、最初からホムンクルスにシーナ三号の魂を宿らせれば解決したんじゃないのか?」

「否定します。シーナ三号の魂は、突然変異により発生した魂――機械の補助がなければ生存できません。この卵を組み込み、魂を宿らせることで、 機械人形(オートマタ) でもなければホムンクルスでもない、新たな生命――マスターの世界の言葉で言うのなら 機械人間(サイボーグ) として生き返ってもらう予定でした」

「それって失敗したらどうなるんだ?」

「どうもなりません。機械人形の体は、普通の人間の魂の器としては不適切です。卵に魂が宿らず、すぐに腐って消滅するでしょう」

「それって、つまり、成功しても失敗しても、これから生まれてくるはずのお前の妹がいなくなるってことじゃないのか?」

だって、ピオニアにとってニーテと、この最後の卵から生まれてくるホムンクルスは妹だ。

その妹を犠牲にして、シーナを生き返らせて本当にいいのだろうか?

「マスター。マスターは勘違いしています。私にとって妹はニーテだけではありません。シーナ三号もまた、私にとっては手のかかる妹です。妹が十パーセントの確率で生き返られるというのに、存在もしない妹のことを気に掛けることはできませんよ」

ピオニアは続けた。

「これまで、年齢だけはシーナ三号のほうが上でしたが、これで名実ともに私が姉になります」

「……そうか、わかった。お前みたいな姉ちゃんがいるんだ。絶対にシーナ三号は生き返る。頼む、やってくれ」

「かしこまりました」

彼女はそう言うと、シーナ三号の予備ボディの口を開いてその中に、ホムンクルスの卵を入れた。

口は自然と閉じる。

だが、なにも起こらない。

口が開かない。

指が動かない。

眉が上がらない。

「シーナ! 頼む。返事をしてくれ。これはマスターの命令だ!」

俺の声が作業小屋に響いた。

その時だった。

「978-4-7753」

その声は……その数字は……。

「――マスターと仰るなら答えて欲しいデス」

シーナ三号が目を開き、微笑んで言った。

覚えていたその数字を。

「1417-3だ」

「マスターと認識したデス」

シーナ三号は上半身を起こし、

「おはようございます、マスター。では、さっそく、マスターを篭絡する任務に移行するデス」

「バーカ」

俺はシーナ三号を抱きしめて言った。

「もう、篭絡されてるよ。ただし、今日だけな」

おかえり、シーナ三号。

こうして彼女の試合は延長戦に突入したのだった。