作品タイトル不明
大漁
ランドウ山の手前で俺たちは降りた。
無人になった村を歩き、畑の方に行くと、以前になかった大きな麻袋が置かれていた。
その中になにが入っているのか、その大きさから想像がつく。
魔王竜にやられたのだろう。
俺たちは合掌し、黙祷した。
タルウィだけは興味がないのか、黙祷せずに村の方を見ている。
「イチノジョウ准男爵っ!」
シララキ王国の兵が俺のところにやってくる。
見覚えはあった。
大森林を抜けて、ドワーフの村に行く途中の詰め所で俺を呼び止めた兵だ。
「なんでここに?」
「老竜が討ち取られたという話を聞いて、近くにいた私たちもその素材を運ぶために来たのですが、そこで魔王竜が現れて――」
「そうなんですか――」
そうか、魔王竜を目撃したユーティングス侯爵の兵っていうのはこいつらだったのか。
「あなたたちは無事でよかったです」
「いえ、魔王竜が現れた後、ランドウ湖に向かったので、幸い犠牲者は出ずに――」
「犠牲者が出ず? でも、あの麻袋は?」
畑に置かれている人間サイズの麻袋を指さして俺は尋ねた。
「あぁ、あれは村人に頼まれて持ってきた肥料ですよ」
「紛らわしいわっ!」
俺たち、肥料に向かって合掌していたのかよ。
タルウィは臭いでわかったから合掌しなかったのか。
「ハルは気付いていたのか?」
「はい。ご主人様はコショマーレ様に天恵を頂いていたから、てっきり肥料に手を合わせることで農耕の女神でもあるコショマーレ様への祈りをなさっているのかと思っていました」
そんなわけないだろ。
コショマーレ様が農耕の神とか、いま言われて思い出したわ。
心の中ではオーク女神様としか言ってなかったからな。
「魔王竜はランドウ湖にいるのか?」
「ええ。湖の奥に入ってから上がってきません」
「湖の底――もしくは湖からランドウ山の中にある洞窟にいるということか」
俺たちはランドウ湖に向かった。
マイルはここで待ってもらうことにする。
翼を畳んでよちよちと歩くポチが少し可愛いと思った。
湖は相変わらずスーギューが水草を食べていたが、しかしおかしい。
「数が減っている」
明らかにその数が減っていた。
前の三分の二くらいだろうか?
「血の臭いが残っています」
「私も感じる。魔王竜によって食べられたのだろうな」
ハルとタルウィが敏感にも臭いを感じ取って言った。
「でも、魔王竜に仲間が食べられたっていうのに、なんでここのスーギューたちは逃げないんだろ? 普通は逃げるよね?」
鈴木が尋ねた。
しかし、その答えはもう出ている。
「スーギュー病だよ。スーギューにのみ感染する病気で、その病気になれば恐怖心が無くなるそうなんだ。たとえ目の前で仲間が食べられてもスーギューが逃げることはない。どうだ? ポチの餌にしたら。食べる分には無害だそうだぞ?」
「……いや、やめておくよ。ここで食事をして魔王竜を刺激したくない」
鈴木は首を振った。
まぁ、そうだよな。
俺も冗談で言った。
だが、シーナ三号だけは冗談と取っていなかったようだ。
「牛鍋デス! ざんぎり頭を叩いてみれば文明開化の味がするデス!」
「おまえは本当に鍋が好きだな」
「ははっ、文明開化の味か。元ネタは『半髪頭をたたいてみれば、因循姑息な音がする。総髪頭をたたいてみれば、王政復古の音がする。ざんぎり頭を叩いてみれば、文明開化の音がする』だよね?」
鈴木が訂正を入れる。
そんなに長い詩だったのか?
俺は最後のざんぎり頭の部分しか知らない。
「どういう意味なのですか?」
ハルが尋ね、鈴木が答える。
「これは人間の凝り固まった風習を変えるのには相当な苦労を必要とする、とうたう詩なんだよ」
「確かに、古い体制を変えるのは大変なものだ。新しいなにかを作るということは、いまあるなにかを壊さないといけないからな」
タルウィがわかったようなことを言う。
なにかを壊す必要がある……か。
わざわざ壊さずとも、修理して使えるのならそれでいいと思うんだけどな。
「さて、ではまずはその 機械人形(オートマタ) に湖を調べてもらうか」
タルウィが言ったが、俺が否定した。
「いや、まずは湖の上から俺が調べるよ」
俺はそう言うと、
「アイスっ!」
湖のうち、スーギューがいない場所を部分的に凍らせて、その上に飛び乗った。
そして、鷹の目を発動させる。
視点が水中へと切り替わる。
「おい、なにをしているのだ?」
タルウィの声が聞こえてきた。
「俺のスキルで水中を観察してる……あっ!」
「楠君、なにか見つけたの?」
鈴木の声が聞こえる。
そこにあったのは、スーギューの骨や一部の肉。
原型が残っていて、ほとんど腐敗していない。
食べられたばかりだろう。
「魔王竜の食べ残しを見つけた」
どうやら、魔王竜がここにいるのは間違いないようだ。
俺はさらに湖を注意深く見た。
すると、大きな横穴があり、そこにもスーギューの食べかすが残っている。
この横穴は老竜がいた場所とは別の穴だった。水草に隠れていたせいで前回調べた時は見つからなかったのか。
「横穴があった」
俺は視点を戻し、風魔法を使って氷を動かして横穴の入り口があった場所の真上に行く。
さらに奥を見ようとした、その時だった。
見つけた。
「いるぞっ! 魔王竜だっ!」
水中で動く影が見えた。
「私の出番のようデスねっ!」
シーナ三号が荒縄を自分の体に括りつけて、腕には偽装するためだろうか水草を巻き、そんなバカなことを言う。
「今回はジュエルタートルのときとは違うんだぞ」
「大丈夫デスっ! シーナには緊急時の脱出手段があるデス!」
俺が止めるのも聞かず、シーナ三号が湖に飛び込んだ。
あのバカっ!
「ハル! 鈴木! すぐに引き上げろ!」
俺はハルと鈴木、シーナ三号に指示を送ろうとするが――あれ?
誰も荒縄を持っていない。なら、誰が荒縄を持っているんだ?
「って、ポチかよっ!」
シーナ三号の奴、よりによってポチの尻尾に荒縄を括ってやがった。いったいいつの間に。
ポチが急上昇した。
と同時に、湖底から気配が近付いてくる。
ポチに引っ張られ、シーナ三号が急浮上してきた。しかし、俺が感じた気配はシーナ三号のものではない。シーナ三号は 機械人形(オートマタ) なので気配を感じることができないのだ。
とするのなら、俺が感じた気配は魔王竜しかいない。
「来るぞっ!」
俺はそう叫ぶが、妙だ。
近付いてくる気配はひとつじゃない。三つある。
まさか――魔王竜が三匹もいるのだろうか?
次の瞬間、シーナ三号がそれを持って急浮上してきた。
「よくわからないものとったどーデス!」
シーナ三号は高らかに宣言した。
――ケンタウロス、ジョフレ、エリーズを連れて。
「なんでお前らが釣れてるんだよっ!」