軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もうひとりの白狼族

とりあえず、魔王竜退治について、マイワールドで全員に話すことになった。

「運がいいですね。東大陸に行く手間が省けました」

「近くの村の人が心配ですね」

ハルは戦いたくてうずうずしているようだ。

キャロは村人の心配をしているけれど、そっちの心配はいらない。

「あの村人たち、老竜を売って得たお金で、村人全員そろって温泉旅行に出かけているそうだから大丈夫だ。傭兵ギルドのマスターから聞いたから間違いない」

「……心配して損しました」

うん、気持ちはわかる。俺も同じように心配して損した気持ちになった。

「魔王竜ですか……」

俺の話を聞いて、ララエルが呟いた。

ララエル、知ってるのか?

「はい。魔王竜――闇の鱗を持ち、二本の赤き角を持つと呼ばれる竜ですね。先々代のダークエルフ族長から口伝伝承されています。遥か昔の話でしたので、もうこの大陸にはいないだろうと言われていましたが、まだいたのですね」

そういえば、ランドウ湖と大森林は近いうえ、ダークエルフたちの寿命は長い。そういう伝承も残っているのか。

「弱点とかはあるのか? 眉間に剣を突き刺したら死ぬとか」

「眉間に剣を突き刺せば大抵の動物は死ぬと思います」

「確かにララエルの言う通りだ……って、ついこの間もこんなやり取りしたな」

ドラゴンは眉間が弱点って情報はこの世界では通用しないのか。

じゃあ、どこか他に弱点があるのか?

逆鱗とか?

あ、あれは触ったら怒りだすところか。

俺とハル、キャロの三人で待ち合わせの場所に向かった。

待ち合わせ場所は傭兵ギルドの会議室。

約束の時間より三十分も前についてしまった。

室内に入ると、約束の時間まであと三十分もあるというのに、先に一組の――四人の冒険者が待っていた。

「「「あっ!」」」

俺たち三人が先に彼らを見つけ、思わず声を上げた

「「「「あっ!」」」」

それに気付き四人もまた声を上げる。

そこにいたのは――

「鈴木じゃないかっ!」

「楠君っ!? そうか、依頼を受けたのは楠君のパーティだったのか!」

俺は鈴木と握手を交わす。

彼は 鈴木浩太(すずきこうた) 。

俺と同じく、この世界に転移してきた日本人であり、かつてダキャットで出会い、魔物のパンデミックを一緒に戦った。

鈴木と一緒にいる三人の女性も全員顔見知りだ。

修道女服を着ているのはマイル。

剣士の女性はキャンシー。

ぬいぐるみを抱く幼女はシュレイル。

マイルの職業が【見習い法術師】から【法術師】に変わっている他は職業は変わっていない。【剣士】と【呪術師】のままだ。

マイルの職業だけではなく、大きな変化がもうひとつ。

全員鈴木の奴隷だ……ったはずだが。

「あれ? 三人とも隷属の首輪を着けていないのか?」

そう、三人とも首がスッキリしていた。

「うん、いろいろとあってね。全員奴隷から解放したんだ」

「そうだったのか。俺の方もそうだ」

俺がそう言うと、キャロがアクセサリーに改造していた隷属の首輪を外してみせた。

それを聞いて、鈴木の仲間の三人の女性は意外そうな目で俺を見た。

三人は俺のこと、ヒモみたいに見ていたから、俺がハルとキャロを解放したと聞いて意外に思ったのだろう。

やれやれ。

約束の時間までまだあるので、とりあえず全員でカップ麺を食べることにした。

以前は鈴木の奴、伸びた麺しか食べられなかったからな。

「シーナ三号がお湯を注ぐデス」

「あぁ、任せていいか? あ、口からお湯を吐くのは無しだぞ。アイテムバッグの中にお湯が入ったポットがあるから、それで注いでくれ」

俺が言うと、シーナ三号は大きく開けた口を閉じた。やっぱり口からお湯を出すつもりだったようだ。

俺も学習しているんだよ。

「って、なんでお前がいるんだよっ!」

粛々とポットでお湯を注ぐシーナ三号に俺はツッコミを入れていた。

「最初からいたデスよ?」

いやいや、そんなわけがないだろ?

「最初からいましたよ」とハル。

「最初からいましたね」とキャロ。

「うん、初めて見る子だとは思ってたけど」と鈴木。

「綺麗な髪だなって思ってました」とマイル。

「あんまり強そうやないからうちは興味なかったけどな」とキャンシー。

「……さっき、飴玉もらった……コロコロ」とシュレイル。

俺だけかっ!?

俺だけ気付いてなかったのか。

ハルたちは、てっきり俺が許可をして一緒に来ていたと思ったらしい。

「本当になにしてるんだよっ!」

「魔王竜の話、聞いていたデス!」

「いや、でもあの時、お前はいなかっただろ」

そっちは間違いない。シーナは自分の部屋で寝ていたはずだ。

「しっかり聞いていたデス」

シーナ三号はそう言って、俺の背中についた機械っぽいなにかを取った。

盗聴されてたっ!?

本当にいろいろな機能がある 機械人形(オートマタ) だな。

「シーナ三号です! これでも 機械人形(オートマタ) デス! 魔王竜は湖の底にいるかもしれないデスから、そっちの調査はこのシーナ三号に任せるデス!」

シーナ三号がみんなに自己紹介をした。

「 機械人形(オートマタ) ? 本当に?」

鈴木は信じられないのか、シーナ三号をじっと見る。

その鈴木の行動を見て、マイルたち三人は不機嫌そうな表情を浮かべた。

たとえ 機械人形(オートマタ) 相手でも、好きな男が自分たち以外の女性を見詰めるのはイヤなのだろう。相変わらずこいつはハーレムしてるな……って、それは盛大なブーメランか。

「本当デス。これが証拠デス」

シーナ三号は自分の首を外して見せた。

やっていることが、スランプばかりしている 博士(ドクター) が作ったロボットと一緒だ。

「本当だ……この世界はファンタジー世界かと思ってたけど、SF要素もある世界なのか。もしかしたら時間移動とかもできるのかな」

鈴木はなにやら考察を始めた。

しかし、このシーナ三号はSFはSFでも、サイエンスフィクションではなく、少しふしぎレベルだ。F先生の世界観の住民だ。やってることはT先生の世界観だけど。

「って、お前、そんなこと言ってる場合じゃないだろ。寝てないとダメじゃないか」

「大丈夫デスよ。話は聞いていたデス。竜核さえ手に入ればシーナ三号の修理は終わるのデスよね? ならば、少しくらいの無茶は無茶に入らないデス」

そりゃそうかもしれない。

それに、湖底の探索には、確かにシーナ三号が役立つのも事実だ。

ただし、魔王竜の探索をさせるつもりはない。彼女には、魔王竜を倒した後、その魔王竜が湖の底に沈んでしまった場合のサルベージを担当させるつもりだ。

「無茶だけはするなよ」

「だから、無茶に入らないデスよ」

シーナ三号はケラケラと笑った。

その顔を見て、

「本当にロボットに見えないですね」

鈴木はそう言って、紅のタヌキを手に持つ。シュレイルとキャロもそれに倣った。

鈴木は天ぷらは後乗せ派らしく、中に入れていない。シュレイルも同様だ。

キャロは先に天ぷらを入れていた。

そして、三人は同時に蓋を開ける。

「イチノ様、先に失礼します」

「あぁ、味わって食べろよ」

鈴木とキャロは器用に箸を使い、シュレイルはフォークでそばを食べ始めた。

「十割そばしか食べたことがなかったけど、これも美味しいね」

鈴木がそんなことを言った。

小麦アレルギーだったため、十割そばしか食べられないのはわかるけど、少しイラっとした。

俺が食べるそばは、スーパーで売ってる三玉九十円のそばばかりだというのに。

と、二分経ったところで、紅のきつねとラ帝も出来上がった。

ラ帝を手に取ったハルとマイルは後乗せのスープを入れて食べる。

「これはとても濃厚な味ですね――ご主人様、干し肉を入れてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、いいぞ」

干し肉を入れても直ぐに出汁が出るとは思えないが、肉が増えると豪華そうに見えるという気持ちはわかるので俺は許可した。

「お、いいな。うちももらっていい?」

「ああ、ハル、たくさんあるから少し分けてやれ」

「かしこまりました」

ハルが干し肉をキャンシーに渡す。

そして、キャンシーは干し肉を食べながら、大きな油揚げを食べた。

「あれ? これ、きつねの肉とちゃうんか」

違うって。キャンシーの奴、きつねうどんのきつねを、きつね肉が入っていると勘違いしていたのか。

油揚げは大豆でできているから、畑のお肉と思って食べてくれ。

そう思って、俺も油揚げを食べた。

出汁がよくしみ込んでいて美味しい。

カップ麺は大量にあるので、少し鈴木に分けてやった。

カップ焼きそばや、カップ油そばなども混ぜておく。

代わりに、シモフリカモという高級鴨肉を分けてもらった。肉の量は三キロぐらいで、これだけで五万センスはするそうだ。

カップ麺と高級肉――なんという高レート取引だろか。

さすがに悪いので、代わりにトマトなどの野菜をプレゼントしておいた。

またみんなで食べよう。

そう思っていたら、ハルの耳がピクっと動き、急に立ち上がった。

「ハル、どうした?」

「この匂い、以前に感じた――」

ハルが扉の入り口を見る。

誰かの気配が近付いてくる。

そして、その人は入ってきた。

「随分といい匂いがすると思ったら、食事中だったか」

白銀の鎧に身を包む大人っぽい女性。年齢は三十歳手前くらいだろうか? 両頬には獣に引っかかれたような古傷があり、チュートゥと違って本物の歴戦の傭兵という雰囲気を纏っている。

そして、一番の特徴――それは彼女が白狼族だったということだ。

後ろで束ねられた白く長い髪、そして特徴的な獣耳。

白犬族という似たような種族があるとすればわからないが、白狼族だろう。

白狼族は魔王側、勇者側に分かれて戦ったという話だから、勇者側についた白狼族が南大陸に残って傭兵をしていてもおかしくないだろう。

職業を見てみた。

【獣戦士:レベル104】

職業はハルと同じ獣戦士だが、レベルが100を超えている。

獣戦士のレベルの上限は100を超えるのか、それとも上限突破薬を使ったのかわからない。

ハルの現在のレベルは85だ。

(地力だけなら、第二職業のステータスがあるハルのほうが少し強いかもしれないが……)

でも、レベルにはない経験を考えると、一騎打ちで戦った場合、ハルが負ける可能性もあるな。

「驚いた。私以外にも白狼族がいるとは思わなかった。しかも、この匂い――その年にして歴戦の戦士の匂いを纏っているな」

「私も驚きました。同じ白狼族に出会うのは十数年ぶりです。ハルワタートと申します」

「私はタルウィだ。貴君たちがイチノジョウとコータだな。ギルドマスターより話は伺っている。どちらも万夫不当の実力の持ち主だとか」

タルウィがそう言って、俺たちと握手する。

シュテファーニアは、俺のことをそんな風に評価してくれていたのか。

二度会っただけなのに、そこまで評価してくれると少し照れるな。

「イチノ様、お耳を拝借します」

キャロが俺の横で囁く。

「傭兵タルウィ。この国で随一の傭兵だと言われています。合戦に出れば、彼女のいる部隊は負け知らず、その記録は八十連勝にも上るとか」

この国随一の傭兵――彼女がか。

「それで、タルウィさん。ひとつ伺いたいのですが、今回の依頼、何故この人数なのでしょうか? 魔王竜が相手なら軍で戦ってもおかしくないですよね?」

鈴木が尋ねた。

そういえばそうだよな。最初に魔王竜を目撃したのはユーティングス侯爵の部隊だ。

それなら、シララキ王国の兵が戦っていてもふしぎではない。

「それは魔王竜の能力にある。魔王竜は一定以下のダメージを無効化する力がある……そうだな、この中では私の他はイチノジョウとコータ、ハルワタート。この三人ならば魔王竜にダメージを与えられるだろう」

「ちょい待ち! うちが弱いっていうんか?」

文句を言ったのはキャンシーだった。

キャンシーは剣士をもうすぐ極めるレベル59。

決して弱くない。

いや、むしろ相当に強いと言えるだろう。

もともと剣闘士をしていたらしく、戦闘センスもあるだろう。

しかし、それでも鈴木やハルと比べれば大きな差があるのは否定できない。

「弱い。たとえどれだけ剣技が優れようと――」

タルウィが言い終わる前に、キャンシーが剣を抜いた。

勝負は一瞬だった。

キャンシーの剣がタルウィが抜いた剣に折られたのだ。

その速度はかなりのものだった。

「圧倒的なステータスの差は翻せない」

ステータスの暴力。

俺が常にやってきたことだった。

キャンシーは折られた自分の剣をじっと見つめ、その場に投げ捨てた。

「…………ちっ、まさかここまでの差があるとは思ってなかったわ。うちの負けや」

キャンシー、自分の実力がタルウィに及ばないことも、その剣がタルウィに届かないことも気付いていたのか。

それでも、自分の実力を確かめずにはいられなかった。

なにもせぬまま逃げ出すことができず、可能な限り自分の実力を示そうとした――ということだろう。

だから、タルウィはキャンシーが剣を抜いてもなにも言わなかった。

彼女にはわかっているのだろう。キャンシーの悔しさを。

「うちはシュレイルとキャロと留守番に回らせてもらうわ。マイルは連れていきや。回復魔法が使える人間は近くにいたほうがいいやろ」

「そうだな――あと、君は人間ではないな。呼吸音、生気がまるで感じられない」

「はいデス! シーナ三号は 機械人形(オートマタ) デス!」

シーナが肯定する。

……凄いな、初見で 機械人形(オートマタ) であることを見破ったのか。

観察力がキャロ並みに優れている。

「そうか、ならば一緒に来てもらおう。 機械人形(オートマタ) の戦い方はぜひこの目で見てみたい」

残念だけど、そいつの戦闘力は皆無です。

一応、思考トレースを使ってみた。

彼女の感情は、期待と闘争心で満ちている。

魔王竜と戦うことを楽しみにしているのだろう。

戦闘直前のハルでも、もう少し様々な感情が入り混じるというのに。

タルウィはハル以上のバトルジャンキーのようだ。

「タルウィさん。魔王竜に魔法は効きますか?」

「タルウィでいい。魔法は光属性、氷属性が弱点。逆に闇属性と火属性には強い耐性を持つそうだ。なんだ? 立派な刀を持っているのに魔術師なのか?」

「剣士四人だとバランスが悪いですからね。俺は後方支援に回ろうと思います」

俺はアイテムバッグからアクラピオスの杖を取り出して言った。

「それは残念だ。君とならいい勝負ができると思ったんだが」

「俺は戦うのはあまり好きではないんで。あぁ、そうだ、今度ハルの相手してあげてください。もちろん、真剣ではなく木刀で」

「そうだな。それもまた一興とは思うが――」

ハルの尻尾がそわそわと動くのを見て、タルウィはため息をつく。

「ハルワタートと言ったね。白狼族たるもの、尻尾くらい自分の意志で動きを制するようにしないとダメだ。いくら強くても、同じ白狼族同士の戦いなら、それだけで思考を読むことができる。その動きを制することができたら戦ってやるよ」

「――っ! ご忠告、ありがとうございます」

そう言って、ハルは自分の尻尾を見ようとしたが、よく見ることができないらしい。

もしかして、ハルのやつ自分の尻尾が動いていることに気付いていなかったのだろうか?

んー、今度訓練のために金属鏡を二枚プレゼントしようかな。俺としては、ハルの尻尾はチャームポイントのひとつなのでこのままでいてほしいが。

「それでは参ろうか」

タルウィはそう言う。