軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シーナ三号の寿命

海の家からこっそりと出た俺、ピオニア、ニーテは三人で近くにある造船所に向かった。その造船所のテーブルでシーナ三号の設計図らしきものを広げられる。

正直、なにが書かれているのはチンプンカンプンだ。

「マスターがわからないのも無理はないぜ。一応あたしたちもシーナ三号の体を調べてみたが、正直理解できたのは七割程度。三割はなんのためにあるかわからないんだから。これを作ったやつは紛れもない天才だぜ」

それはわかっている。

いくら魔法の力がある世界とはいえ、地球の科学技術を以てしても成し遂げることができなかった、人間と変わらない人工知能を作っているのだから。

そして、その製作者が天才であることもまた疑う余地がなかった。

「それで、なんでシーナ三号の稼働が停止するんだ?」

「魔力が足りないんだ。どうもシーナ三号は空気中の瘴気を魔力に変換し、それを動力に変えているらしいんだ」

「瘴気をエネルギーにしてたってことか」

「肯定します。効率は決してよくありませんが、しかし彼女にとって本来、それは永久機関ともいえる方法だったのです」

ピオニアの言う通りだ。

彼女は数百年もの間、南の島にある人工迷宮の中で過ごしていた。

人工迷宮の目的は周囲の瘴気を魔物という形にして集め、罠を使ってその魔物を殺すことによって瘴気を散らすことにある。

そのため、瘴気を魔力に変換し、それを自分の力とするシーナの力は、エネルギーを確保するだけでなく瘴気を散らすという目的の手助けにもなる。良いことばかりだ。

だが、それは迷宮の中にいるからこそ使えるエネルギー補給方法。迷宮の外に出たら瘴気が薄くなる。

「でも、それならミリが気付くだろ。シーナを作ったのはあいつの前世なんだから」

「予想していなかった――いや、知らなかったんだ。マスター、普通にしていたら、迷宮にいる間に貯めこんだ魔力だけで数年動くことができたはずなんだ。それが、たった一カ月程度でここまで動けなくなったのはマスターの妹さんにも想定外だったろう。だからこそ見落とした」

「予想できなかった?」

「この世界の存在です。マスターがマイワールドと呼ぶこの世界――女神の世界と同じこの世界には、瘴気というものがほとんど存在しないのです」

――はっ!?

そうだ、この世界は生まれて間もない。最近こそダークエルフたちという住民が増えたが、それまでは俺の仲間十人弱しか中に入ることができなかった。

そんな世界で、十分な瘴気が生まれるわけがない。

「傍若無人魔王はそのくらい予想していたと思うデスよ」

「シーナ三号っ!? お前、どうしてここに」

「シーナ三号の耳は地獄耳デスからね」

シーナ三号は笑って、そして俺に言った。

「たとえわかっていたとしても、シーナ三号の構造を作り替えることは不可能デスよ。私の身体は全盛期の傍若無人魔王の力があってこそ完成させられたのデス。それに、たとえ迷宮の中にいたとしても、シーナ三号は数年で壊れていたデス。あちこち部品が劣化しているデスから。発声機能もそうデスが、手首が外れたり、首が外れたりも劣化が原因デス」

「もしかして、俺が湖に潜らせたり無茶させたからか?」

「そうデスね。マスターが原因デス」

シーナ三号が言い切ったとき、ニーテが彼女につかみかかった。

「シーナっ!? てめぇ言うに事欠いて――」

だが、拳が前に出ない。

そんなニーテの様子をみて、シーナ三号は微笑み、話した。

「シーナ三号は本来、レヴィアタンが復活する時期に、迷宮と一緒に壊れていたはずなのデス。そして、もともとの耐用年数もレヴィアタンの封印が解けるときまでに設定していたようデスから」

シーナ三号はさらに話を続けた。

彼女を、そして人工迷宮を作ったファミリス・ラリテイは、レヴィアタンが復活したとき、自分が駆けつけて再封印を施すよりも先に人工迷宮のある島がレヴィアタンに滅ぼされることを覚悟していた。

だから、その管理者である 機械人形(オートマタ) の寿命もその時期まででいいと思っていた。ファミリス・ラリテイにとって、現在はシーナ三号と名付けられている 機械人形(オートマタ) の価値はその程度だったのだ。壊れれば人工迷宮を造り直し、代わりの機械人形を置けばいい程度にしか思っていなかったのだろう。まぁ、 機械人形(オートマタ) に魂が宿ったことも予想できなかったようだし。

「だから、私がこうして寿命を迎えることができたのはマスターのせい――いえ、マスターのお陰なのデス。いまの私はサッカーで言うならロスタイム――サービスタイムのようなものデス。これ以上望めません。もうシーナ三号は勝ち組ですから、延長戦はないのデスよ」

「勝ち組って、お前――いいのかよ、それで」

「いいのデスよ」

「海賊王になるんじゃなかったのかよ」

「あれは冗談デス」

知ってるよ、冗談だってことくらい。

「そうデスね……では、マスター、耳を塞いでもらっていいデスか?」

「耳を……? わかった」

よくわからないけど、耳を塞いでみる。

ニーテとピオニアはその場を去った。

俺とシーナ三号をふたりきりにしてくれたようだ。

シーナが口を開くかと思ったが、なにも言わない。

「なぁ、もういいか」

俺が尋ねると、シーナは頷いた。

「これでシーナのやりたいことは終わりデス」

「やりたいことってなんなんだ?」

「マスターの悪口を散々言ったので満足したのです」

「なっ、お前っ!」

俺のことも傍若無人魔王みたいな悪口を言ったっていうのか。

こいつは 機械人形(オートマタ) だから、わざわざ口を開けて喋る必要はなかったのか。

あぁ、もう。なんでもうすぐ動かなくなるっていうのに、こいつは平然でいられるんだ。本当に勝ち組みたいな顔でいられるんだ。

「では、シーナ三号はビーチバレーの続きをしてくるデス! 人生はロスタイムでも、ビーチバレーはまだまだ決着がついていないデスから」

シーナ三号はそう言って、ビーチへと走っていった。本当に楽しそうに。

そして、残された俺のところに、ピオニアとニーテが戻ってきた。

「ピオニア。シーナ三号を修理することは可能か?」

「肯定も否定もしかねます。彼女の体の造りは謎が多いですから。しかし、可能性はあるとすれば、賢者の石を用意する必要があるでしょう」

「賢者の石はどうやったら作れるんだ? 上級錬金術師で作れるようになるのか?」

「否定します。賢者の石を作るには条件が三つあります」

「三つ?」

「まず、錬金術Ⅲのスキルが必要です」

「それは持っている」

「次に、レシピは迷宮のクリア報酬として極々稀に手に入るそうです」

「クリア報酬……」

いきなり運要素か。

「最後は素材だな。あたしも詳しくは知らないが、賢者の石を作るための素材はどれも国宝級のものばかりらしいぞ」

ニーテが言った。

「でも、作らないわけにはいかないだろ!」