作品タイトル不明
ビーチバレー
「ララエル様がんばってー」
「ボールそっちに行きました」
「あぁ、惜しいっ!」
現在、マイワールドではビーチバレーが一大ブームとなっていた。
娯楽の少ないマイワールド。本を買ってきたり、美味しい食べ物を研究したりしていたが、ダークエルフたちにとっては体を動かす遊びのほうが性に合っていたらしい(若干一名、引きこもって本を読んでいる者もいるけれど、彼女は例外ということで)。
そのため、温泉施設の隣に卓球場、浜辺にビーチバレーのコートを建造した。ピオニアとニーテが作ってくれた。天地創造の書を使えば、MPと引き換えに施設を作ることができるのだけれども、最近、天地創造の書で行っていることといえば農作物や発酵食品の育成促進くらいなものだ。
生姜とネギもたった一時間で種から収穫できた。
ちなみに、ボールは獣の皮から作られたものをゴーツロッキーで買っておいた。
俺は浜辺に建築された海の家で、陰に入りながらそのビーチバレーの様子を見ていた。
水着姿の褐色美人たちのバレーボール風景。
「……ボールがひとつ、ボールがふたつ……」
ララエルが跳ぶとボールのような大きな胸がふたつ大きく揺れる。
「ご主人様、ボールはひとつしかございませんよ?」
背後で下ごしらえをしてくれていたハルが声をかけ、俺は思わず背筋を伸ばした。
「あ、いや、ビーチバレーが人気だから、あとボールをふたつくらい買っておいてもいいかなって思ってな」
「なるほど、そうでしたか。あ、今度はシーナさんが参加するみたいですね」
ハルの言う通り、ララエルたちの試合が終わり、メンバーが入れ替わった。
シーナ三号がボールを手に、相手選手を指さす。
「ビーチバレーは九回二アウト、ロスタイムからが勝負デス!」
……いろいろ混ざってるなぁ。それに、そのセリフは試合開始前に言うセリフじゃない。たぶん、日本の漫画の俄か知識を使ったせいだろう。暇があれば漫画やアニメばかり見ていたからな。
「さて、そろそろ仕上げといくか」
俺はハルが切ってくれた野菜をフライパンの上に乗せ、
「プチファイヤ」
竈の中に威力を減らしたプチファイヤを作って固定させる。
最近はこうした魔法の使い方にも慣れてきたな。
魔法の熟練度もかなり上がってきている。いまいち恩恵を感じづらい熟練度だが、しかし上がって損することはないだろう。
それより、料理だ料理。
猪肉、野菜、麺、塩コショウに中濃ソース。うん、いい香りになってきた。やっぱり海の家といえば焼きそばだよな。
紅生姜を作るには赤梅酢がなかったので、生姜の酢漬けを代用することになった。ミリが持ってきた紅生姜をそのまま使ってもよかったんだが、ここはせっかくだからマイワールド産の生姜を使うことにした。
「ご主人様、危ないっ!」
「――っ!」
ハルの声に俺は自然と振り返り、コートから跳んできたそれを受け止めた。
「ボールをこっちに飛ばすなよ……あれ?」
ふとコートを見ると、ダークエルフたちは呆然と俺の方を見ている。そして、ボールはコートに落ちていた。
あれ? ボールはひとつしかないよな。
それに、砂浜に首のないシーナが横たわって……え?
「間違えたデス」
「うわっ!」
手の中から聞こえた声に俺は思わず声をあげた。
なぜなら、俺がボールと勘違いして受け止めたそれは、シーナの頭だったから。
「お前、大丈夫なのか? 昔のギャグアニメみたいなことやってるけど、壊れてないのか?」
「大丈夫デス。このくらい日常茶飯事デス」
「茶の時間、飯の時間に首が取れる日常を俺は知らない」
ともかく、俺はシーナの頭を、長い髪の毛を挟んでしまわないように注意しながら、首に嵌めた。暫く動く様子はなかったけれど、彼女の指が動いたと思ったら自分の足で立ち上がった。
「再起動完了したデス。音声再生機能、録音機能、記憶機能、視覚機能、自爆機能、聴覚機能、超絶マッサージ機能問題ないデス」
「そりゃよかった……ん? ちょっと待て、いま聞き捨てのならない機能があったぞ!」
「マッサージ機能があるのですか?」
ハルが尋ねた。肩が凝っているのだろうか? もしもそうだとしたら、俺がマッサージしてあげるのに。
って、いやいや、ハルさん。たしかに俺も超絶マッサージ機能は少し気になったけれど、そこじゃないでしょ?
「自爆機能があるのか?」
「はいデス」
なぜか自慢げにシーナ三号は頷いた。
怪人の秘密基地じゃあるまいし、そんなものなんのためにあるんだ?
暴走したときのための安全弁みたいな役割なのかもしれないが、しかし自爆機能って。せめてこの前一緒にいたときに取り除いておけよ。
「シーナ三号の頭の中には賢者の石が使われているので、自爆の破壊力はマスターの魔法にも勝るデス」
「賢者の石って、錬金術師の最高峰のアイテムだよな。なんという無駄遣い……」
いや、でも日本の最新鋭技術でもここまでの人工知能は作れない。さらには魂まで宿っているそうだ。そう考えると、賢者の石くらいレアアイテムを使っているのも当然なのだろうか? まぁ、作ったのがミリ(正しくはミリの前世であるファミリス・ラリテイ)だというのなら、賢者の石のふたつや三つ使われていたとしても、流石妹、略してさすいもで納得してしまう。
「無駄遣いとは酷いデス! 賢者の石を動力にするシーナ三号は無敵デス! 五桁の掛け算も二秒で解けるデス!」
それ、百円ショップで売っている計算機でも一瞬で解ける計算だよな? 電池ひとつで可能だ。
やっぱり賢者の石の無駄遣いだと思った。
「これが、ヤキソバ……このソースの香り、何種類もの香辛料と野菜、果汁が使われているのですね。とても素晴らしいです」
ララエルがソースの香りを絶賛するけれど、ソースは市販の品だ。ソース、自作できるだろうか?
牡蠣を入手したから、オイスターソースくらいなら作れそうな気がするけれど。
香辛料の種とか、ミリが持ち込んでいた品物の中にあっただろうか?
ワサビならヨミズキで手に入れたんだけど。そういえば、前にベラスラで胡椒を買ったことがあったな。
「キャロ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「前に胡椒を買ったことがあったけれど、胡椒の種って簡単に手に入るのか? というか、あのときに買った胡椒を植えたら発芽するのか?」
「交易商に売っている胡椒は黒胡椒です。黒胡椒は未熟果の皮と実を剥いだものを乾燥させていますので、発芽能力はございません。また、アランデル王国では、香辛料の栽培には国の許可が必要あり、一般人が種を入手することはできません」
そうか、入手できないか。
いや、でもなにか裏ワザみたいな方法で入手できないだろうか?
自生している胡椒の実を見つけるとか、それが無理なら、そうだ、貴族に繋がりがありそうなゴルサさんに頼んでみてもいいかもしれない。
「……って、ソースまで自作するようになったら、本当に俺はどこにむかってるんだってなるよな」
「いや、ソースを作らずとも、本当にどこに向かってるかわからないぞ」
ニーテが箸を使って器用に焼きそばを食べながら言う。
「そういえば、アダマンタートルは大丈夫か? これまでの宝石亀シリーズは全員ウミガメだったが、アダマンタートルは淡水亀だろ? 海に入れて大丈夫なのか?」
「否定します。あの亀はリクガメなので、浜辺で育てることになりました」
今度はピオニアがヤキソバを食べながら言う。
「育てる必要があるのか? 卵もあることだし、大人の亀はいまから解体してもいいと思うが」
「否定します。アダマンタートルは定期的に脱皮します。現状のアダマンタートルでしたら、あと数日で脱皮すると思われますので、マスターは脱皮した甲羅を使ってマスターハルワタートの武器を作ってください」
そうか、亀だから脱皮するのか。
それを考えたら、確かに殺すのは勿体ないな。
「それよりマスター。心配するのはアダマンタートルではなく、シーナ三号の方だと思うぜ」
「ん? あぁ、またシーナ三号のアニソンが煩いのか。ピオニア、悪いがシーナ三号に注意してやってくれ」
「いや、それはいいんだ。むしろ歌わせてあげようと思うんだ」
「――? やけに優しいじゃないか」
どういう心境の変化か?
まぁ、問題が解決したならそれでいい。
やっぱりラブ&ピースが大切だよな。
「ってあれ? それじゃあシーナ三号のなにを心配したらいいんだ?」
俺は尋ねた。
そして、ピオニアの返答はとてもわかりやすく、それでいてシンプルなものだった。
「シーナ三号はこのままでは一カ月以内に稼働停止します」