軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

無職のご帰還

村に戻ると、ふたりの爺さんがそれぞれ、ネギの種と生姜の種を持って俺を出迎えてくれた。

ひとりは俺たちが訪れた村の村長、ひとりは隣村の村長らしい。

「旅のお方、なにからなにまでありがとうございます。どうか、これをお持ちください」

よし、職奪の宝玉も手に入ったし、アダマンタートルに加えネギ、生姜の種が手に入った。目的を達成しオマケまで手に入れたのだから大成功と言ってもいいだろう。

「しかし、まさか、ドラゴンの素材まで提供してくださるとは」

「提供するなんて一言も言っていませんが」

俺は間髪容れずに言った。

「いやぁ、ドラゴンの素材がなければ作物が全滅したため、村は滅ぶしかなかったところです」

脅しか? 脅しなのか?

いや、ドラゴンの素材に拘りがあるわけではないが、こんなに露骨に要求されると素直に素材を渡すのが憚られる。

恩人に対して感謝の念というか、「あとは自分たちでなんとかします」という気概はないものか。

「あ、あの、イチノ様。ちょっといいですか?」

キャロが俺を手招きして呼んだ。

「どうしたんだ?」

素材を提供しろってことか?

まぁ、村が滅びない程度なら提供をしても――

「この村の畑なんですが、ドラゴンに焼き払われたとかそういう話ではなく、一晩のうちにすべての作物が食べられてしまったそうなのです。生姜もネギも。スーギューは湖から離れていないから、これはドラゴンに違いないという噂が広がったそうです」

「そうか――まぁ、あの巨体を維持するにはそのくらい食べないといけないよな」

草食のドラゴンなのだろうか?

それとも、スーギューを食べたあとのおやつ代わりだったのかもしれない。

「……それで、キャロはその畑を見たのですが、ドラゴンの足跡はありませんでした。代わりに――スロウドンキーの足跡がありました」

「……え?」

「ハルさんにも調べていただきましたが、ケンタウロスの臭いが残っていたそうです」

……あぁ、そういうこと……。

ドラゴンだというのは村人の勘違いだったということか。

別にケンタウロスは俺が飼っているロバというわけではない、ロバというわけでもないのだが。

俺は村長さんに向かって言った。

「ドラゴンの素材――提供させていただきます」

こうして、俺は老竜の素材の約半分を提供することになってしまい、一応約束だったドラゴンステーキをみんなで食べることにした。

ドラゴンステーキに使う肉は、村へ提供した分から使わせてもらうことになったので、せめて腹がいっぱいになるまで食べさせてもらおう。

シーナ三号を先にマイワールドに戻した後、俺たち三人は、ゴーツロッキー付近まで戻った。

そして、岩陰からマイワールドに移動する。

これから、職奪の宝玉を使うことを、たまたま近くにいたニーテに告げた。

「それにしても、職奪の宝玉って凄い魔道具だよな。相手の職業を奪うだなんて。使い方を誤らなければ最強じゃないか?」

「人間相手なら、と制約がつくがな」

「……なぁ、ニーテ。これをお前に使えば、神の人形から無職になれるんじゃないか?」

ニーテとピオニアは「神の人形レベル0」というスキルの効果で、様々な恩恵を得ていると同時に、いろいろと制約を課せられている。

神の人形から無職になることができれば、普通の人間に生まれ変われるんじゃないかと思った。

もちろん、彼女が望むなら、だ。

「いや、あたしの固有スキル、【転職不可】の効果で職奪の宝玉で奪うことはできないよ。マスター、諦めたらどうだ?」

「しかし、これは最強の武器にもなると思うんだ。いわば、人類の宝だ。なにしろ、相手の職業を奪うってことは、相手が勇者であっても魔王であっても関係なく弱体化できるってことだろ?」

俺が思ったことを口に出すと、ハルが告げた。

「ご主人様。かつて、教会側は魔王様に対し、職奪の宝玉を使って失敗しております」

「……そうなのか? あぁ、そういうことか」

疑問に思ったが、逆に納得いった。

ミリからかつて聞いたことがある。

ファミリス・ラリテイというのは前の魔王の名前であったが、その本当の名前はかぐやだった。

しかし、その名前は世間には浸透していない。というより、もしかしたらミネルヴァ様のような女神様しか知らないのかもしれない。

そのため、職奪の宝玉を使う条件として必要なのが「正しい名前」を呼ぶことであるとするのなら、当然不発に終わる。

前に、ポートコベで真名とかそういう話をしたことがあった。

そうか、あいつはこういうことを警戒して、名前を伏せていたのか。

「まぁ、ともかく、マスター。職業を奪って無職にするぞ?」

「あ……あぁ。そうだ、奪われた職業はどうなるんだ?」

「宝玉の中に封じられるさ。スキルも使えなくなる。それで、宝玉を持っている人間が代わりにそのスキルを使えるようになるんだ」

「つまり、奪われる職業は、できるだけ使わない職業にしたほうがいいってことか。もしくは別の人に使ってもらいたい職業にしたほうが」

「いや、職業を奪っても、宝玉を壊せば、無職のまま再度その職業に転職できるように戻るからな。平民で十分だろ」

「職奪の宝玉を壊さずに使いまわすことはできないのか?」

「できねぇな」

それはなんか勿体ないな。

しかし、このままうだうだ言っていても始まらないか。

「よし、決めた! 俺を無職にしてくれ!」

俺はそう言って、職奪の宝玉を差し出した。

「……その言葉だけ抜粋すると、とんでもない台詞だよな」

ニーテが半眼で言った。自分でもその通りだと思う。

「では、僭越ながら、私が使わせていただきます」

ハルが職奪の宝玉を手に取った。

そして、彼女はその宝玉を掲げた。

「イチノジョウ様」

……ハルに名前を呼ばれて少しドキっとした。

できることなら、そっちじゃなくて、イチノスケと呼んでもらいたい。

あれ? でもなにもおこらないぞ?

ステータスを確認しても前のままだ。

「ハルワタートさん、マスターへの敬称は無しで頼む。様まで認識してしまって、本名じゃないと判定されたみたいだ」

ニーテが不発の理由を言った。

ポンコツAIみたいな判定基準だな。

「敬称無しですか……それは難しいですね」

ハルが真剣に悩む。

いやいや、全然難しくないだろ。

むしろ、俺はそっちのほうがいい。

「ハルさん、キャロが代わりましょうか?」

「いいえ、これもご主人様のためです。では――」

再度、ハルは宝玉を掲げた。

「イチノジョウ…………様」

あぁ、また様を付けちまった。

……と思ったが、

【職業:平民が奪われた】

今回は成功のようだ。

ハルが持っている職奪の宝玉も淡い光を浮かべた。

ステータスを確認すると、第一職業が【無職:Lv109】に戻っていた。

やっぱりお前は俺についてくるんだな……はぁ、本当の意味で無職を辞められるのは、無職を完全に極めてからか。

ミリからもらった限界突破薬のおかげで、レベル1000まで成長するだろうから、先はまだまだ長いな。

「ありがとうな。そうだ、ハルとキャロにもうひとつだけお願いがあるんだが、いいか?」

「はい、ご主人様の頼みでしたら」

「もちろん、キャロにできることだったらなんでも仰ってください」

まだ内容も聞いていないのに、ふたりとも二つ返事でOKをしてくれた。

なに、別に難しいことを言うわけではない。

「俺のこと、今日だけでいいからイチノスケって呼び捨てで呼んでもらえないか?」

一気に変更は無理だろうけれど、練習を兼ねてな。

いつまでも主人と奴隷の関係だった頃の呼称を続けられるのもな。

「……それは……少し難しいですね」

「……イチノスケ様、ではダメでしょうか?」

何故かさっきはふたつ返事でOKしてくれたのに、ふたりとも俺のことを呼び捨てにすることだけは断ってきた。

頼んだらおっぱいだって触らせてくれるのに……何故だ?

その後、職奪の宝玉は砕かれ、俺の元に職業【平民】が戻ってきた。