作品タイトル不明
その背には乗らねぇっ!
結構険しい山道になったので、途中で仕留めたそこそこ大きな野鳥を与えて、ナナワットをマイワールドに戻した。
俺は思わずその目を疑った。
ランドウ湖――ランドウ山の麓にある湖に、スーギューの群れが集まっていたのだ。
間違いない。キッコリたちとゴーツロッキーを目指すときに見かけたスーギューの群れだ。
なんでこんなところにいるんだ?
キッコリは、ランドウ湖には絶対に来ないって言っていたのに。
「この風景を見ていると、ドラゴンがいるなんて嘘みたいですね」
キャロがスーギューたちを見ながら言った。
「確かに、牧歌的な風景だよな」
暑いから水浴びとかしてみたい。
……あ、水浴びがしたかったら、いつでもマイワールドで海水浴を楽しめばいいんだった。そうだな、この事件が終わったら、グラスト様から情報が入るまでの間、海水浴でも楽しむか。海の家を作るのもいいかもしれないな。
「ハル、ジョフレとエリーズの臭いはするか?」
「ええと、あっちの崖に続いています」
ハルが言った先は
「まさか、崖から落ちたのか?」
「いえ、崖の下に続いていますが、また別の場所からも臭いがするので、おそらく生きているようです」
「……道無き道を進んでいるのか」
あのバカたちが想像できない行動をしていることが想像できる。言葉の矛盾があるが間違っていない。
こりゃ、あのふたりの臭いを追って見つけるのは無理だ。むしろふたりを無視して山頂を目指したほうがいいだろう。
ということで、俺たちは山頂を目指した。途中、鷹の目を使って上空からドラゴンやジョフレとエリーズを探すのも忘れない。
「大丈夫か? キャロ」
「はい……大丈夫です」
とはいえ、少し遅れている。
やっぱり子供の足と大人の足では歩幅が違うか。
「キャロ、大人の姿になって歩幅を変えることはできないのか?」
「イチノ様、あれはあくまで幻影でそのように見えるだけですから」
「――あぁ、そうだった」
んー、あまり遅れてジョフレとエリーズに万が一のことがあったらな。とはいえ、キャロの観察眼と知識もまたドラゴン探しに役立つ。
ならば、手段はひとつしかないな。
「キャロ、おんぶするぞ」
「……わかりました」
自分が足手まといと思うのが嫌なのか、子ども扱いされるのが嫌なのか。キャロは少し不満そうだったけれど、しかしそれがいいのだと思って従った。
「よし、行くぞ」
キャロがしっかり掴まったのを確認し、俺はハルと一緒に速度を速めた。
「イチノ様」
「キャロ、喋ってると舌を噛むぞ」
「伝えることを忘れていましたが、キャロの幻影変化のスキルは全身だけでなく、一部の変化も可能なのです」
「一部の変化?」
「たとえば――」
たとえば、どこが変わるんだ?
俺が尋ね終わる前にその変化が起こった。
背中に大きな膨らみがふたつ感じられた。
「キャロ、なにか当たってるんだけど」
「当たっているのではありません、当てているのです」
「……いまは集中してくれないか?」
「安心してください、キャロはしっかり探索していますよ」
俺が集中できないんだけどな。
ロリ巨乳ってリアルではあまり見かけない。その手が好きな人にとっては最高のシチュエーションなのだろうな。俺がその手が嫌いだとは一言も言っていないけれど。
「イチノ様っ! 左に洞窟があるかもしれません」
「洞窟?」
キャロが言った方向を見てもここからではよく見えない。
しかし、彼女が間違えるとは思えない。
「大きさは?」
「わかりませんが、何者かが出入りしているようです」
「それだけ聞けば十分だ」
俺たちが山頂に向かっていたが、そこにドラゴンがいるからではない。城の一番奥で魔王が待っているのはゲームの中だけだ。
もともと山頂を目指していたのは、そこから山全体を見るためだった。山頂にドラゴンがいるのなら、とっくにドラゴンが見つかっているだろう。
きっと、ドラゴンは人目に付かない場所に巣を作っている。財宝があるとしたらその場所だろう。そう思っていた。
たとえば、洞窟のような。
「イチノ様、あちらです」
「ハル、こっちだっ!」
キャロに案内され、俺はハルとともにその洞窟を目指した。
キャロの言う通り、そこには大きな穴があった。
「登山道からは完全に死角だったはずなのに、なんでわかったんだ?」
「足跡です」
「足跡?」
見ると、消えかかっているが地面に何か動物のようなものの足跡があった。
これは――?
「コボルトの足跡です」
コボルト――二足歩行の犬のような魔物だな。この世界に来て、俺が最初に倒した魔物だ。
「コボルトの? でも、ドラゴンが棲んでいるから魔物は近付かないんじゃないのか?」
「ええ、普通の魔物は近付きません。だからこそ、他の魔物からも狙われるような弱い魔物がドラゴンの巣の近くに巣を作るのです」
「共生ってやつか」
「共生とは違いますね。コボルトもドラゴンに食べられてしまいますから。苦肉の策と言った方がいいです」
確かに、共に生きていくという間柄ではないか。
「ご主人様。血の臭いがします」
「血っ!? 人間のものか?」
「いえ、獣の臭い――おそらくコボルトのものかと」
コボルトがやられてる?
ただコボルトが事故かなにかで怪我をしただけか、それともドラゴンに食べられたのか、またはジョフレとエリーズに倒されたという可能性も一応はある。
「ジョフレとエリーズの臭いはしないか?」
「すみません、この洞窟の中は血の臭いが満ちていて他の臭いが感じ取りにくくなっているんです。ただ、ジョフレさんとエリーズさんの臭いは入り口からはしません」
他の場所から入った可能性もあるか。女神の間すらボス部屋を通らずに入ってくる奴らだからな。
とりあえず、入っていくか。
おんぶはここで終わり。
ハル、キャロ、俺の順番に入っていく。
洞窟はそこそこ広いが、ドラゴンが入るには少し狭いように思える。
本当にこの奥に老竜がいるのだろうか?
少し不安になってくる。
「ご主人様、気をつけてください。血の臭いが近いです」
「わかっている――気配も近付いてきている」
暗くなってきたのでプチライトの魔法を使い、光源を確保する。
敵に気付かれるだろうが、闇の中で戦うよりかは遥かに楽だ。
「……死んでるな」
何か大きな物に体当たりでもされ、壁に激突したのだろう。コボルトの後頭部と壁に血がついている。
「妙ですね」
「ハルさんもそう思いますか?」
ハルとキャロが何かに気付いたようだ。
なにが妙なんだ?
「ご主人様、私たちはコボルトを退治したのはドラゴンかジョフレさんたち、どちらかだと思っていました」
「そうだな」
「ですが、このコボルトは剣や鞭で倒されたものではありません。そして、ドラゴンが倒したにしては、この通路は狭いですし、なによりコボルトの体がそのままあるのはおかしいです」
「そういえばそうだな。って、それはつまり――」
俺の気付きに、ハルが頷いて答えを言う。
「ここにはドラゴン以外の怪物がいる可能性があります」
ドラゴン以外の怪物か。
俺が銅貨を投げたら、フロックボアを粉々にする威力がある。それを考えると、体当たりでコボルトを倒したといっても、原形をとどめている以上、その体当たりの威力は俺の投げ銭よりも低いと思っていいだろう。
その怪物の体当たりが全力ではなかった可能性もあるから、一概には言えないが、必要以上に臆病になることはないだろう。
さらに洞窟を奥に進むと、コボルトが襲い掛かってきた。
「スラッシュっ!」
先頭を行くハルがスラッシュでコボルトを一撃で倒す。
【イチノジョウのレベルが上がった】
【上級錬金術師スキル:錬金術Ⅱが錬金術Ⅲにスキルアップした】
【レシピを取得した】
上級錬金術師のレベルが二になって、錬金術Ⅲになり、レシピも取得できた。
確認は後回しでいいだろう。
「死体はそのままでいいか?」
「はい、コボルトの毛皮はあまり高く売れませんから解体する必要もないでしょう」
キャロが言う。
俺はモラルとか環境とかの点で問題があるかどうか聞いたんだけど、まぁ、放置でいいか。
「……ご主人様――」
「あぁ、なにかいるな」
気配を感じ取った。
「コボルトか?」
「違う……と思います。コボルトの血の臭いがします」
「怪物の方か……」
俺は白狼牙を、ハルは火竜の牙剣と守命剣を抜く。
「三、二、一で俺から行く。キャロ、お前は俺の攻撃が防がれたら魅了が効くかどうか試してくれ」
「わかりました」
「ハル、キャロを守ってくれ」
「かしこまりました」
そして、俺はカウントする。
「三、二、一……いまだっ!」
俺は一気に飛び出て、銅貨を使って投げ銭を――投げようとして見てしまった。
(嘘……だろっ!)
俺の手は止まらない。
が――軌道は変えられる。
俺が投げた銅貨は目標から大きく左に逸れ、岩壁に激突し、砕いた。
よかった、落盤に繋がることはないようだ。
俺は安堵のため息をつき、刀を鞘に収めた。
「ご主人様、これは――」
「ハル、考えるな。頭が痛くなるぞ」
気持ちはわかる。
でも、本当に考えるだけ無駄なんだ。
ジョフレとエリーズのことをバカと評するとしたら、こいつはまさに奇想天外だからな。
「イチノ様、どうやらコボルトが夏の間にため込んだ食料を目当てに入り込んだようです」
「そのようだな……」
俺たちはコボルトがため込んでいたであろう木の実を食い漁るスロウドンキー――ケンタウロスを見て、そうため息をついたのだった。
「ハル、キャロ、少し離れていてくれ」
俺はふたりに距離を置いてもらうと、トマトを取り出して地面に置いた。
直後、ケンタウロスが一瞬で俺と距離を詰め、トマトにかぶりついた。
「よし、ケンタウロス。あとトマトを五個やる。だから、いまは俺の言うことを聞け。わかったら二度首を縦に振るんだ」
俺がそう言うと、ケンタウロスは俺の目をじっと見た。
「あの、イチノ様?」
「十個だ」
キャロがなにを言いたいかわかるが、俺はそれには取り合わず、ケンタウロス相手にトマトの数を釣り上げる。
すると、ケンタウロスは二度、首を縦に振った。
「いいか、俺の手を噛むんじゃないぞ。俺の手を噛んだら二度とトマトをやらんからな。ゆっくり食べるんだぞ」
俺はそう言って真っ赤に熟したトマトを十個、並べた。
ケンタウロスは黙々とトマトを食べはじめた。
「ご主人様、動物と会話できるスキルをも身に着けられたのですか?」
「いんや。俺は鳥の声はわかるようになったが、それ以外の動物の声はまったくわからん。ケンタウロスが勝手に理解してくれるんだ」
食べ物への執着の為せる業だろう。
凄い奴だ。
「人間の言葉を理解する魔物は伝承にも数多く登場しますが、しかしこれほどまでに人間の言葉を理解するスロウドンキーは恐らく長い歴史を紐解いても、このケンタウロスだけでしょう」
キャロがトマトを食べ終えたケンタウロスを見て言った。
長い歴史を紐解いても、ここまで食い意地の張ったスロウドンキーもこいつくらいだと思うけどな。
「ハルは、さっきケンタウロスが食べていた木の実の匂い、気付いたか?」
「いえ、あまり匂いのある木の実ではないので。嗅覚強化スキルを使って、さらにコボルトの血の臭いがなかったとしても外からでは気づかなかったでしょう」
「そうだよな。それが普通だ。でも、ケンタウロスは気付いた。こいつの嗅覚は凄い」
俺はケンタウロスに尋ねた。
「ケンタウロス。お前に聞きたいことがある。この洞窟の中に巨大な生き物がいる場所はないか? その場所に案内してくれたら、トマトを二十個やる。わかったら二度頷け」
俺がそう声をかけると、ケンタウロスは二度首を縦に振った。
そして、自分の背に乗れと、俺の前で屈むが――
「絶対に乗らねぇ」
俺は断固拒否した。