軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドラゴンステーキ食べたい

翌朝。出発前にニーテへの魔力の補給を行っていた。

上半身裸で背中を揉まれていた。

ニーテの奴、かなり疲れた顔をしていた。

魔力が少なくなっている……ということではないようだ。

「どうした? 元気だけが取り柄のお前らしくないな」

「いや、もちろんあたしは元気だけどさ。マスターに事情を聞いてほしくてこんなつらそうな顔をしているんだぜ」

わざとつらそうに見せているのかよ。どんなホムンクルスだ。

まぁ、なにかあったのは確かなようだし、話を聞くのは吝かではない。

「で、どうしたんだ?」

「シーナ三号だよ。あいつが夜中に大音量でアニソンを流してね」

「アニソン……? あぁ、そういえばミリが持ってきたものの中にニャーピースのDVDもあったよな。DVDプレイヤーも」

シーナ三号はあの漫画が大好きだった。アニメがあるのなら、当然見ただろう。

そして、あのオープニング曲は耳に残る曲だった。オープニングだけでなく、盛り上がるシーンでも流れるため、あの曲を聞くと興奮してしまう。

俺も風呂に入ったとき、つい 口遊(くちずさ) んでしまったこともあるくらいに。

「まぁ、そのくらい許してやれよ。同じ部屋で寝ているわけじゃないんだろ?」

ピオニア、ニーテ、シーナ三号。三人は同じ家の中で寝ている。

もっとも、彼女たち三人は寝る必要はない。

シーナ三号は機械人形だから当然だが、ピオニア、ニーテは【状態異常無効】というスキルがあるからだ。この【状態異常無効】、ゲームなどでよくある毒や麻痺といったものだけでなく、病気や睡眠不足ですら無効になる。

特にピオニアはほとんど部屋には戻っていないらしい。

「まさか、シーナ三号のアニソンが某ガキ大将並みに音痴だとか?」

「いいや、むしろ逆だ。シーナ三号のアニソンはまさに完コピと言ってもいい。音量もいたって普通で。まぁ、防音していないから、オシャレなレストランのBGMくらい聞こえる」

「なら、別にいいじゃん。本当にBGMだと思っておけよ」

「――下手なDJみたいなんだ」

「DJ?」

「もっと別の言い方をすれば、壊れたCDだな。時々、同じフレーズを繰り返すようになるんだ。下手に聞いていたらそこが気になってな」

あぁ、それはわかる。下手に聞き入ってしまうと、歌詞を間違えたり飛ばされたり中断されたりすると、そこが気になってしまう。そんなのを一晩中続けられたら確かに気が滅入ってしまうだろう。

「大変だなぁ――まぁ、それが続くようならピオニアに注意してもらってくれ。あいつの教育係はピオニアだ」

俺は教育放棄する。

本当の親はミリであり、俺は関係性でいえば彼女の伯父のようなものだ。伯父が教育に口出すのってどうかと思う……と思ったけれど、シーナ三号を姪と思うのもやっぱりどうかと思うので今の考えは無しということにしておこう。

「わかった……あぁ、マスター。今日はこのくらいで十分だ。もしかしたら老竜と戦うことになるかもしれないんだろ? ならMPは余分に残しておくよ」

「ん? まぁ、もういないだろって噂だけどな。確かに転ばぬ先の杖くらいにはMPが必要か」

俺は昨日の服にさっと 浄化(クリーン) をかけて着る。

思えば、この時のニーテの話を、俺はしっかりと聞いておくべきだったのかもしれない。

※※※

山に近付くにつれて勾配が急になったので、ナナワットに三人で乗って移動することになった。俺の前にキャロが乗り、ハルが俺の後ろに乗る。

三人で乗るにはいささか窮屈だが、ナナワットは大食いだけあってパワーも強く、しっかり三人乗せて走った。

そして、朝のうちに生姜が名物という村に辿り着いた――のだが。

「……あれ?」

村全体が酷く疲れているご様子だった。

まるでさっきのニーテみたいだ。とてもではないが、生姜の種か苗を買って素通りできる雰囲気ではない。

いっそのことなにもせずにこの村に入らなかったことにしようか?

そう思いもしたが、それを実行に移す前にお婆さんに声をかけられた。

「おや、旅のお方ですかな?」

「え……えぇ。生姜の種か苗を買わせていただきたく思ったのですけれど……なにかあったのですか?」

――なにかあったのですか?

この言葉を発したとき、もう自分から事件に巻き込まれに行く覚悟ができていた。

「ええ……旅のお方。悪いことは言わん。生姜の種はお売りするからそのまま引き返したほうがよい」

「近くに山賊でも出るのですか?」

「山賊……そのようなものではないですじゃ」

ハルの問いに、

「出るのはドラゴンじゃ」

「ドラゴン!? って、もしかして、ランドウ山に棲むと言われる老竜ですかっ!?」

「そうじゃ。ドラゴンに襲われ、村の畑も全滅。もうワシらには生きていく方法もありません」

まさか、まだ生きていたのか。

しかも、このタイミングでドラゴンが現れて村を襲ったというのか。

「ドラゴン退治に向かった剣士様と魔物使い様もとうとう帰ってきませんでした」

「ドラゴン退治に向かった剣士と魔物使い!? それって、赤い髪の男と青い髪の女ですか?」

「あぁ――知り合いなのかな?」

間違いない、ジョフレとエリーズだ。

あいつら、やっぱりこの村に来ていたのか。そして事件に巻き込まれたと。

「それはいつのことですか?」

「昨日の昼のことですじゃ」

昨日の昼――真っすぐ来たにしては遅すぎる。

案の定、道に迷っていたらしい。そのまま辿り着かなかったらよかったのに。

「お婆さん、では生姜の種を準備しておいてもらえますか?」

「わかりました」

「その間に、俺たちはパパっと老竜を退治してきますよ」

俺がそう言うと、婆さんが目の色を変えた。

「まさか、旅のお方。あなた方もドラゴンに挑むと仰るのですか?」

「なに、実は竜と戦うのは初めてじゃないんですよ。以前にも一度、竜と戦ったことがあって、あの時は辛くも勝利しましたが、やっぱり圧勝しないと気が済まないんでね」

それに、いくら老竜といえども、レヴィアタンやサラマンダーよりも強いドラゴンってことはないはずだ。今の俺なら魔攻値も以前より遥かに高くなっている。

負ける気はない。

そもそも、最初から老竜と戦う可能性を想定してここに来ているのだ。

それに、いざとなったらマイワールドに逃げるという奥の手があるのも変わらない。三十六計逃げるに如かずだ。

「あぁ、そうそう。まだ生姜が残ってるなら、それも準備しておいてください。みんなでドラゴンステーキを食べましょう」

俺はそう言って笑いかけると、ハルたちに出発するぞとアイコンタクトを送り、ナナワットを走らせた。ナナワットもやる気のようだ。デザートランナーも一応は竜種の端くれだというのに、ドラゴンステーキを食べたいようだ。