作品タイトル不明
うみゅぅ
すっかり忘れていたジョフレとエリーズのことを思い出した。
そのことをハルたちに伝えたのだ。
「「ジョフレさんとエリーズさんが村にいるのですか」」
声を揃えてハルとキャロが言った。
……あいつらのことをバカと言った俺も俺だが、それでしっかりとふたりのことが伝わってしまうのも凄い。
「いや、まぁその村に向かったのは確かなんだが、数日前の話だし、あいつらのことだから真っすぐ村に辿り着けたのかもわからん。地図も忘れていったし」
そう、さっき俺が持っていた地図というのが、ジョフレとエリーズが忘れていった地図だった。ダイジロウさんが用意した地図なのだろう。
どうやって用意した地図かはわからんが。
「とりあえず、あいつに返せるようにしておくか」
俺はそう言うと、一枚の紙を取り出し、二つのスキルを同時に使った。
芸術魔法だ。
魔力が絵具に変わり、その絵具が地図のイラストに……
「ぐあっ」
「どうなさいました、ご主人様」
「い、いや、なんでもない」
描かれたのは地図ではなく、今度は何故かエリーズが扇情的な水着を着ている絵だった。恐らくかなり想像が入っているであろうそのイラストを慌てて手の中に生み出したプチファイヤで焼却処分する。
百歩譲ってキャロやハルのエッチなイラストは許容できる。
だが、他の人間のものはマズイ……くそっ。
恐らく、直前に考えていた女性のエッチな絵ができる――という魔法なのだろう。
なんてバカな魔法なんだ。さすが遊び人のスキルだな。応用がまるで利かない。
仕方ない、真面目に描き写すか。
ということで、その日は村ではなく、マイワールドに泊まることにし、翌日に村に立ち寄ってからランドウ山に向かうことになった。
その間に、寝室で地図を書き写す。
「よし、描けた」
俺は完成した地図を見て満足気に頷いた。
「もう描けたのですか?」
ベッドで既に待っていたハルが尋ねた。
今日はハルが俺の部屋にいる。
ハルとキャロの間で話し合いが行われ、俺がひとりになりたい、または三人で一緒に寝たいと望んだ日以外は交代で寝ることに決まったようだ。
その話し合いに呼ばれなかったけれど、でも呼ばれなくてよかったと思った。
三人で一緒に寝たいと思う日? 当分来ないだろう。来るとしても、その日は遊び人が必要ない日になるだろう。
「三分も経過していないように思えますが」
ハルが俺の後ろに立ち、覗き込むように地図を見た。
薄着姿のハル――その胸が俺の顔の横で小さく揺れる。
効果音は絶対に「ぽよん」だよなと少し思った。
「ご主人様、この地図はまったく同じものに見えるのですが――」
「全然違うぞ。ハルならわかるだろ?」
「私なら……あっ!」
ハルは思い出したようにスキルを使ったのだろう。
「本当ですね。こちらがご主人様が描かれた地図ですか」
「正解! 贋作作成っていうスキルを使ってな」
贋作作成を作れば、まるで自分がコピー機になったかのように地図を書き写すことができたのだ。
ただ、完全に同じものでもやっぱり贋作鑑定があったら見破ることができたのか。
「もしかしたら、あの偽札も贋作作成で作ったのかもしれないな」
「そうですね――不思議なことに紙の質感、匂いも全く同じように思えます。私も贋作鑑定がなければ見破ることができなかったでしょう」
「そうか、ハルがそう言うのならそうなんだろうな」
恐るべし、贋作作成だ。
実際、描き写しを始めてから二分後に贋作作成スキルを思い出した。実際、地図を描き写すのに十秒程度しかかかっていない。
手が機械のように動いた。しかも、黒いペンしか使っていないので白黒コピー状態だけれども、それ以外は見事に完ぺきに再現されている。
ハルが見分けが付かないといったのも無理はないだろう。
(贋作――恐るべしだ)
でも、お陰でひとつわかったことがある。
ハルの贋作鑑定――思った以上に重要なスキルだ。
俺の作った贋作作成は、あくまで全く同じ物を作るスキルだ。
しかし、このようなスキルがある以上、たとえば偽の書類、命令書、そういうものを本物と見間違える精度で作ることができるスキルがある可能性がある。
俺も成り行きとはいえ準貴族となった。そして、シララキ王国とニックプラン公国の戦争のとき、俺ひとりの戦力が戦局を大きく左右することになることもわかった。
俺は戦争なんてどうでもいい。あの時の戦争は、ダークエルフを助けるためにやむなく参加したけれど、あれは例外だ。
だが、それでもきっと、俺はパウロ伯爵に頼まれればある程度のことはするだろう。俺はあの伯爵のことを気に入っているのだ。
貴族なのに全然偉そうじゃないし、領民にも慕われている。ミリも世話になった。なにより、ウナギ好き仲間だしな。
だから、俺が一番恐れたのは、パウロ伯爵からの手紙を偽造されることだ。偽の命令書によって利用されることが怖い。
でも、ハルがいるのなら命令書が偽造されても見破ることができるだろう。
「ハルがいて本当によかったよ」
「……? そう言っていただけて嬉しいです」
さて、仕事も終わったし――
「ご主人様。ずっと我慢していたことがあるのですが」
ハルが恥ずかしそうに言う。
あぁ、気持ちはわかる。俺もずっと我慢していたからな。
「ああ、言いたいことはわかる。じゃあ、早速――」
「はい、では早速――」
ハルは笑顔で俺にそれを差し出した。
――日本酒の小樽を。
「え?」
「お酒を飲む訓練はご主人様と一緒の時しかしてはいけないというご命令でしたので」
「あ……あぁ」
そっちね――と俺は少し残念に思った。
しかし――
「うみゅぅ」
顔を真っ赤にし、まるで猫みたいな声を出して俺の膝を枕にしているハルを見て、これはこれでいいと思ったのだった。
ギャップ萌えの極致だった。
ちなみに、ハルは酔いが覚めるのも早いので、
【イチノジョウのレベルが上がった】
遊び人のレベル上げを楽しませてもらった。