軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夕食前のあれこれと、守命剣

「イチノ様、一式買いました。あと、没食子と硫化鉄も買っておきました!」

「あ、そういえば硫化鉄もいるんだった。忘れてたよ」

没食子の印象が強すぎた。

「ていうか、よく買えたな。お金足りたのか?」

「はい、半分ほど余りました」

「半分も?」

俺は店長のおばあさんを見ると、かなり疲れた顔をしていた。

どうやら、かなり無茶な交渉をしたらしい。

「大丈夫ですよ、しっかり店側にも利益が残る計算にしています。さすがに恨まれる商売はしたくありませんから」

つまり、恨まれる覚悟があれば、さらに値引きできたってことか。

本当に末恐ろしい。

お婆さんに悪いので、キャロには内緒でマナグラス等の薬草の種をいくつか買っておいた。

これで、マイワールドでのマナグラス等の薬草栽培も余裕だろう。

「『乾燥』。いやぁ、思ったより使えるスキルだな。てっきり干し肉とか干物を作る、または雨の日に濡れた服や靴を乾かすくらいしかできないと思っていたが」

夕食前。マイワールドのログハウスの自室で、促成栽培した薬草に、俺は乾燥を使った。

本来なら数日掛けて乾燥させないといけないが、乾燥のスキルのお陰でいとも簡単に乾燥させることに成功した。

ハルも俺と同じくこのスキルを使うことができるそうなので、今度仕事を手伝ってもらってもいいだろう。

そう思っていたら、扉がノックされた。

「入っていいぞ」

誰が来たのかは聞かなくてもわかる。

俺の声を聞き、扉を開けて入ってきたのはキャロだった。

いつもの服とは違い、下着に近いネグリジェ姿だ。

「お待たせしました。イチノ様」

「悪いな、待たせてしまって」

「いいえ。待っていないと言えば嘘になりますが、待ってくださったのはイチノ様も同じです。イチノ様が待ってくださっているとわかっているだけで、キャロは幸せでした」

キャロがニッコリと俺に微笑みかけた。その笑みは見た目通りの幼い少女の笑みではなく、十七歳の乙女の笑みのように思えた。

「では、失礼します」

そう言うと、キャロの姿が変わっていく。

大人バージョンのキャロへと。

「……それではイチノ様――」

「キャロ――」

俺はキャロをベッドに誘い、隣同士に座ると、誘われるようにキャロの胸を触った。

とても気持ちいい、柔らかい。心臓がドキドキと激しく鼓動する。

だが――

「やっぱり違う」

「何が違うのですか?」

「俺はキャロのことが好きだ。でも、俺が好きなのはいまのキャロじゃないんだよ」

俺はそう言うと、彼女を抱き、懇願するように言った。

「いつもの姿に戻ってくれ」

「ずるいです、イチノ様。この姿のとき、キャロのことをずっと子供のように思っていたのに」

キャロの姿が元に戻っていた。

再び心臓がドキドキとする。

「悪かった。でも、気付いたんだ。俺が好きだったキャロは、俺がいつもドキドキさせられたキャロは、やっぱりこのキャロなんだ」

「たとえどんな姿をしていようと、キャロはキャロですよ」

「そうだよな。でも、俺は思っていたよりも最低らしい。どんな姿をしているキャロよりも、いまのキャロのほうが好きだったようだ」

「…………本当にズルいです……イチノ様は」

キャロは俺の耳に囁くようにそう言うと、俺の耳たぶを甘噛みしたのだった。

【イチノジョウのレベルが上がった】

【遊び人スキル:芸術魔法を取得した】

【職業:博徒が解放された】

※※※

その日の夕食後、遊び人で覚えた魔法――芸術魔法という魔法を使ってみた。

魔力がインクのように変異したので、慌てて紙を取り出してその上にインクを垂らした。すると、そのインクは俺の思った通りに動き、自在に動く。

(これって、もしかして頭の中で思い浮かべたものが絵になるとか、そういう魔法か)

遊び人のスキルとしては非常に勿体ない、むしろ芸術家が覚えるべき魔法な気がする。

こりゃ漫画家にとっては夢のような魔法だな――なんて思ったところで絵が完成し、俺は思わずその絵をふたつに折りたたんだ。インクが滲んで絵が台無しになっていないことを祈る――いや、むしろ台無しになっていてくれ。

なんで、キャロの裸婦画が完成するんだよ――いや、原因はわかっているけれど。

ハルとの初めても結構散々だったが、キャロとの初めても悲惨とまではいわないがいろいろと大変だった。どう大変だったのかはご想像にお任せする。

……夕食前にするもんじゃないな。

キャロ、たぶん今日は歩けないだろうし。回復魔法をかけようかと言ったけれど、断られたから、せめて夕食だけでも部屋まで運んであげよう。

そんな経験だったが、恥ずかしさ以上に幸せ者だと実感させられた。

そう思っていると――

「ご主人様、少しよろしいでしょうか?」

とハルの声が聞こえた。

「あ、待ってくれ――うん、いいぞ」

俺はふたつに折りたたんだ絵をアイテムバッグの中に入れてハルを招き入れた。

「ご主人様、実は相談があるのです」

ハルはそう言って、俺に相談を持ち掛けた。

キャロのことではない。キャロとふたりであったことは、先ほど、話す前にハルから祝福されてしまった。俺の匂いがキャロについていたからわかったらしい。ちゃんと浄化で綺麗にしたはずなのに、一体なぜ匂いが残っているのかは俺にもわからない。

ともかく、いまはハルからの相談だ。

俺はハルからの相談を聞いた。

「たしかに、だいぶすり減ってるな」

彼女はこれまで、ショートソードと火竜の牙剣を使っていたが、そのショートソードに問題があった。手入れはされているが、しかしだいぶ摩耗しており、切れ味も鈍っているそうだ。

いったい、どういう使い方をすれば僅か短期間でこれだけ剣を摩耗させられるのかと気になったけれど、まぁ、ハルだしな。本当に無茶な戦いをしたのだろう。

「わかった。じゃあ、明日、出発前に武器屋に行って新調するか」

「あの……できることならば、ご主人様に作っていただきたいのです」

「俺に?」

「ご主人様が腰に差している剣――それはご主人様が作られたのですよね?」

彼女はそういい、俺の腰の刀を指さした。

「剣じゃなくて、一応は刀だけどな」

俺はそう前置きを入れ、その刀を抜いた。

ハルをイメージして作った、ハルと同じように美しい刀を。

「あぁ、俺が作ったんだ。ドワーフの村で」

「とても美しい刀身です」

「あぁ、自慢の逸品だ。でも、よくわかったな。これが俺が作ったものだって」

「魂……といえばいいのでしょうか? そういう力が込められているように感じました」

銘入れのことだろうか?

この刀の名前は「白狼牙」という銘がある。

ハルをイメージして作った刀、決して折れない俺の剣という意味のその名前。

確かに、この刀には俺のそういう想いというか、魂のようなものが込められている。

ハルはそれを、スキルでもなければ得意の嗅覚でもない。心で感じ取ったのだろう。

などと、それらしく解釈する。

「でも、素材がなぁ」

ここにある金属といえば、マイワールドで採れるのは銀。あとダークエルフたちが持っているミスリルくらいか。銀だけで武器を作っても彼女が満足できる素材になるとは限らないし、ミスリルは鉱石から製錬するための錬金術師としてのレベル。そしてミスリルを鍛えるための鍛冶師としてのレベルがまだ足りない。

玉鋼があっても刀は無理か。

彼女は刀装備のスキルを持っていない。

「……よし、わかった。でも、素材を集めたいから、すぐには無理だぞ」

俺はそう言うと、以前、鋼鉄の剣を作った時に用意していた鍛冶師の道具一式をアイテムバッグから取り出し、即席で鋼鉄の短剣を作った。

最後に、銘を入れる。

間に合わせとはいえ、この剣はハルの命を守る剣だ。

生半可な思いで剣を作ったりはしない。

「ハル、これを使ってくれ」

「これは――」

ハルが鋼鉄の短剣を見つめた。

「ご主人様、この剣には不思議な力を感じます」

「銘は【 守命剣(しゅめいけん) 】。ハルと俺の命を守る剣だ」

「ご主人様の命を守る剣――」

ハルはその剣を見て、涙を浮かべた。

……え?

待て、なんで泣く?

「ご主人様は私が思っているよりも遥かに強くなってしまいました。私は不安でした。本当にご主人様は私を必要としているのかと。ですが、ご主人様は私にこの剣で自分の命を守ってほしいと仰られました。それが嬉しいのです」

「ハルは本当に大袈裟だな。一応、銘入れを行ったことで普通の鋼鉄の剣よりかは強力になっているけれど、本当に間に合わせの材料で作った剣だから、あんまり大層に思ってもらっても対応に困るんだよ」

「――そんなことはありません。この剣は私の家宝とし、ご主人様を守れなかったときはこの剣を以て自刃する覚悟でございます」

「大袈裟過ぎるわっ! てか、命を守る剣で命を絶たないでくれ」

あと、家宝にするのも勘弁だ。

ハルと結婚したら、俺が一分で作った剣を家宝にしないといけないことになる。

――あぁ、これは失敗だったかもしれない。

はやく、ハルのために新しい剣を作らないといけないな。