軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幻影変化

謎の美人が現れたと思ったらキャロだった。

しかも、そのキャロの職業が、「夢魔の女王」になっている。

「さっきの姿って一体なんなんだ?」

「あれはですね――」

キャロはベッドから立ち上がった。

すると、彼女の体がみるみると成長し、先ほど見た美女の姿へと早変わりした。

「……変身した?」

「変身ではなくて、幻影です」

「幻影? でも、さっきのキャロの胸の感触は確かに――」

柔らかかった――と言おうとして俺は口を噤んだ。

そんなことを言ったら、普段のキャロの胸が柔らかくないと言っているのと同義だから。もっとも、口を噤んだところで手後れだったらしい。

「……確かにキャロの胸は飛び跳ねても揺れたりしませんけど――そうですね、わかりやすく言いますと、イチノ様、キャロの頭に手を乗せて下さい」

「あぁ、わかった」

今の彼女の身長はハルと同じくらいだ。だから、彼女の耳を撫でるように、俺はキャロの頭を撫でた。

彼女の顔がみるみる赤くなる。

「乗せてくださいと言っただけで、撫でてくださいとは言っていないのですが」

「あぁ、すまん」

「いいえ、嬉しかったです。では、目を閉じて、キャロが動いても手を――正確には腕をそのままにしてください」

目を閉じて腕をそのまま?

それでなにが判明するのかわからないが、言われた通りにしてみる。

「いいぞ」

薄目も開けていない。

手を動かさず、ただキャロの柔らかい髪の感触だけを楽しむことにした。キャロの長い髪の感触、嫌いじゃない。いや、むしろいい。

ハルの髪も好きだし、俺はもしかしたら髪フェチなのかもしれない。

そう考えると、この時間は至福だった。

「目を開けてくださっていいですよ」

至福の時間は一瞬で終わるらしい。

目を開けると、キャロが元の姿に戻っていた。

それ以外何も変わっていない。

「気付きましたか?」

「そうだな、キャロは大人の姿でも子ど――いつもの姿でも髪がサラサラしているってことは気付いたな」

「そうじゃなくて、イチノ様、腕を動かさないでくださいって言いましたよね」

言われた。だから言われた通り俺は腕を動かさず――いや、待て。

いまのキャロの頭の位置はだいぶ下に下がっている。当然、俺の手の位置も下がっている。腕がそのままだったら、手の位置が変わることなんてあるわけがない。

「無意識に腕を動かしてたのか?」

「いいえ、そうではありません。イチノ様は最初からその位置でキャロの頭を撫でていたのです」

最初からその位置で?

しかし、キャロは背が高いから肩より上の位置に手が、いや、さっきのあれは幻影であり、髪を触ろうと思えばやっぱりいまの状態に。

つまり、俺は腕を上げているつもりが、実は腕を下ろしていた。

幻影により自分が腕を上げていると勘違いさせられていたということか。

「……凄いな――見た目を変えるだけとか、それこそ変身とかよりもさらに凄い」

見た目を変えるのではなく、認識を変える。

そこにあると思い込ませる。

相手の精神を置き換えるスキル。

そんなスキルがあるなんて――と思ったが、しかし、誘惑士だった頃の彼女が使ったスキルこそ、魔物の精神を――好意を置き換えるスキルだったじゃないか。

「そのスキルは、レベル1から使えるのか?」

「はい。夢魔の女王の固有スキルの効果です。夢魔の女王はレベル1から使える固有スキルがふたつあります。昨日、ご主人様の下に現れたのは、夢渡り――眠る直前や泥酔状態、つまり意識が朦朧としている意中の人の下に転移する魔法のようなものです。誰のところでも転移できるというわけではなく、いまのところイチノ様の下にしか転移できないみたいですけれど。そして、いまのスキルの名前が魅了変化です」

「固有スキル……」

かつて、キャロは誘惑士の固有スキル、月の魅惑香に苦しめられた。

今でこそ彼女はその呪縛から解き放たれたが、しかし、だからすべてなかったことになるわけではない。

「その、大丈夫なのか?」

「はい、このふたつは固有スキルといっても、パッシブスキルというわけではありません。効果が発動すれば、ちょっとエッチな気分になるだけです。さっき頭を撫でられた時も、少し変な気持ちになりました」

キャロが自分から俺の手を取り、胸に手を当ててきた。

あれもいままでのキャロの行動からすれば、大胆過ぎる行動だったが、スキルの影響だったのか……いや、待て。キャロはこれでいて、一緒にお風呂に入ってくるなど大胆なところがある。少なくとも、俺の前に現れたとき自らスキルを解除して説明しようとしなかった彼女の行動はスキルだけでは説明がつかない気がする。

「……えっと、見た相手を魅了する――みたいな効果はないのか?」

「ございません。レベルを上げたら、もしかしたらそういう職業が手に入るかもしれませんが。ところで、イチノ様――その、昨日のキャロの姿を見てどう思いました?」

「……あぁ、とても綺麗だったよ。もちろん普段のキャロも可愛いけれど、とても魅力的だった」

「そうですか、よかったです。それでしたら――」

キャロはそう言うと、再度スキルを使い、大人の姿になった。

「イチノ様、この姿ならキャロの初めて、もらっていただけますか?」

「と、とりあえず、ハル、キャロ、突然いなくなった。心配してる」

緊張して変な言葉になっている。助詞が行方不明だ。

「キャロが突然いなくなって、ハルが心配しているだろ」と言いたかった。

大人キャロが怒って頬を膨らませる。普段もたまに見せていた顔だが、大人バージョンでのその顔はギャップで可愛らしい。

キャロは元の姿に戻り、少し不機嫌そうな顔を一瞬見せたが、すぐに笑顔になった。

「では、マイワールドに参りましょう」

「あぁ、でもその前に――」

そして、少し膝を折り、キャロにキスをした。

機嫌取り、先送りにした謝罪、そんな意味を含んでいないといえばウソになるが、単純にそうしたかった。

キャロは驚き目を開いたが、しかしそのまま自然と目を閉じる。

時間は十秒にも満たなかっただろう。

「おかえり、キャロ」

「ただいま、イチノ様」

はにかんだ笑みを浮かべるキャロは、照れるように続けた。