軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎の美女

俺はひとり、ミルの宿の部屋で休んでいた。

マイワールドのベッドの方が質もいいのだけれども、ひとりで考え事をしたい時はこちらの方が落ち着く。

「結局、無職に戻らないといけないのか……やっぱり俺は無職を辞められない運命なのかな」

無職スキルにこれまで散々助けられてきたのだ。

しかし、職業が無職であるという事実が、俺の自信の無さに繋がっているのも事実だ。

もしも俺が自信過剰な人間だったら、きっとマイワールドは俺のハーレムになっていることだろうな。

……って、そんな自分、想像もできない。

俺は苦笑した。

「その前に、責任はしっかりとらないといけないよな」

俺はハルのことを愛している。彼女が奴隷じゃなくなったいま、結婚も視野に入れようと思っているくらいに。

だが、それと同時に、キャロのことも大切に思っている。

これまで子供にしか見られなかったが、しかし無人島で二人きりになったとき、俺と彼女の関係性は少し変わったと思う。時折見せる、少女ではなくひとりの女性としてのその顔に、俺はドキリとした。

「……今度キャロと会うときまで、しっかり責任を取らないとな」

そう思ったときだった。

突如、目の前に光が現れた。

これは――転移陣!?

誰かがやってくる――直感的にそう思った。

そして、それは間違っていなかった。

突然、人影が現れたのだ。

そこに現れたのは俺の見たことのない黒いドレスを着た女性だった。

紫色の髪の色っぽい女性で、彼女の瞳を見ると、そのまま吸い込まれてしまいそうになる。

「誰……なんだ……?」

これまで見た誰よりも美しいその女性を見て……これはまずいと思った。

今すぐここから逃げ出さないと――

「イチノ様、どうぞこちらに」

彼女がそう言うと、俺の先ほどまでの意志はどこへいったのか彼女が微笑むだけで心臓が鷲掴みにされる気持ちになった。

わかっている、これが異常なことくらい。

しかし、もうひとつわかっていることもある。

これが魅了の魔法などではないことに。

俺は彼女に好意を抱いていた。

でも、何故、出会ったばかりの女性にこんな好意を?

美人だからという理由だけでは済ませられない何かが彼女にあった。

「イチノ様」

彼女が俺の手を握ると、一気に力が抜けた。

「かしこまらないでください、イチノ様。なにをしてもいいのですよ。お好きなように」

彼女がそう言うと、俺の手を握り、自分の豊満な胸へと誘った。

……柔らかい。なんて柔らかさだ。

まるで夢のような……あれ?

急に柔らかさがなくなった。いや、柔らかいんだけど、なんだろ、ボリュームが圧倒的に足りないというか。

「……え?」

俺は思わず自分の目を疑った。

俺の、そう、日本一高い富士山級の胸を触っていたはずのその手は、いまは日本一低い……あれ? 日本一低い山って天保山だっけ? もう変わったんだっけ? って、混乱するな、俺! とにかく、まっ平に近いものを触っていた。

そして、目の前にいたのは……

「……あれ?」

先ほどの美女とは似ても似つかぬ、いや、面影ははっきりとある少女がそこにいた。

もっと正確に言えば――

「イチノ様に胸を触られて……魔法が解けてしまいました」

「……あれ? なんで……」

――そこにはキャロがいたのだ。

何故?

「キャロ……さん?」

「はい、キャロです」

「本当に?」

「本当です」

俺は信じられず、キャロのほっぺを突いた。ぷにぷにしていて気持ちいい。

「うん、この柔らかいほっぺの感触、間違いない、キャロだ」

「イチノ様、キャロの頬にそこまで造詣が深かった記憶はありませんが」

この冷静なツッコミもまさにキャロだ。というか、彼女が俺のことを「イチノ様」と呼んだ時点で、あの美女がキャロだと気付くべき……って無理に決まってるだろ!

全然違うじゃないか。

「キャロ、どうやってここに来たんだ?」

「ええと……詳しく説明する前に、キャロの職業を見ていただけますでしょうか?」

「職業?」

キャロの職業は行商人だったよな? 第二職業は採取人だったっけ?

職業鑑定では第一職業しか見ることができないが、とりあえず見てみた。

【夢魔の女王:Lv1】

……そこには、俺の知らない職業があった。

夢魔? 夢魔って……なんだ?

もっと俺の知っている言葉で教えてほしい。

その願いが通じたのか、キャロが俺にとってわかりやすい言葉で教えてくれた。

「イチノ様。どうやら、キャロはサキュバスの女王になってしまったようです」

……しかし、わかりやすい言葉が俺の望んでいた言葉であるとは限らなかった。