軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ビーフショック

「ここが傭兵の国、ゴーツロッキーか。マスター、まずはなにか買い食いしていこうぜ! そこの店から旨そうな匂いがするからな」

「本当にお前は元気だな。まずは買い物からだ」

「下着だなっ!」

「それはお前に任せた。俺は本を買ってるよ」

なんという偶然か、この町では服屋の横に本屋があるではないか。

役割分担をするという体裁で、俺を伴って下着を買おうとするであろうニーテの逆セクハラを防ぐことができるわけだ。

というか、一定数いるんじゃないだろうか? 女性の服の買い物を待っている間、隣の本屋にいる男性って。カップルの場合はいろいろと男性に問題があるそうだが、やはり女性服とか下着とかの売り場に男性がいるのっていたたまれないんだよな。

「ニーテ、一応紙幣と貨幣両方持っていけ」

「紙幣?」

「この国の中で流通している金だよ。ギルドがメインのこの国では、傭兵は仕事が終わればすぐに金が欲しいんだけど、金貨や銀貨ってすぐに用意できないから、国が保証する紙幣制度を導入してるそうなんだ」

「なら、紙幣を先に使ったほうがいいんじゃないか? こういうのってインフレが激しくて、気付けば紙屑程度の価値になったりするだろ」

「うっ、確かによくありそうな話だが、大丈夫だって。ほら、そこに売ってる串肉だって、昨日と一緒で一本100ゴーツ……じゃないな」

値段が100ゴーツから、500ゴーツに値上げしていた。

一日でインフレ率五百パーセントだ。

いやいやいやいや、普通に考えて、昨日安売りしていただけだろう。

「おっちゃん! この串肉、昨日は100ゴーツだったよな」

「おう、そうだぞ。だからなんだ?」

「やけに値上げしてると思ってな」

「なんだ、わからないのか? 言っておくが、これは正当な値段だ。理由が知りたければ串肉を買いな」

「……わかった、二本買うよ」

まぁ、日本の出店でも牛串一本500円とかで売っている店もある。1ゴーツって、だいたい1円くらいだから、味さえよければ、ちょっと高いくらいの感覚で買える。

昨日の100ゴーツを見ているから信じられないと思うだけだ。

「おう、まいどあり」

百ゴーツの紙幣を十枚渡して、串肉を受け取った。

「で、質問だけど……この国ってそんなにインフレが激しいのか?」

「いや、違う。ゴーツの価値が下がったインフレじゃない、ただ、肉不足だ」

「肉不足?」

「この近隣の牧場でスーギューが二週間前に次々に殺されてな。お陰で肉が手に入らなくなったんだよ」

「でも、昨日は安かっただろ。スーギューが盗まれたのなら、昨日も肉は高いままじゃないのか?」

「盗まれてねぇ、殺されたって言ったんだ。なんかよくわからんが、スーギュー病とかいう病気のせいで牧場にいる九割ものスーギューが殺されたんだ」

スーギュー病というのは、スーギューにしかかからない病気で、罹患すればかなりの高確率で死に至る病気らしい。

感染リスクも高いため、罹患したスーギューの殺処分は致し方なかったのだそうだ。

「食べるには問題ないというわけで、昨日まではその時に殺された肉を串肉として使って、昨日は腐らせる前に在庫処分の安売りをしていた。今日はその在庫がないのでこうして値上げしたってわけだ。売り上げは落ちるのに利益が出ないから、こっちは大赤字だよ」

病気……か。

そう言う理由なら仕方ないよな。

「確かな診断なのか?」

「ああ、確かだよ」

「そりゃ災難だったな。悪い、さっきはいちゃもんつけて。もう二本買うよ」

「おう、少しまけておいてやるぜ」

俺は串焼き屋のおっちゃんに礼を言って、本屋を目指すことにした。

「旦那様、塩コショウ貰っていいか?」

ニーテが俺に塩コショウを要求してきた。

旦那様って……あぁ、ハンムノの町と同じく夫婦の設定なのな。

「お前、今の話きいていたのかよ。貴重な牛串なんだから、大事に食べろよ」

と言いながらも、言われた通りアイテムバッグからガラス瓶に入った塩コショウを渡した。ニーテは塩コショウを振りかけて牛串を食べる。

「あむあむ……あぁ、聞いたぞ。スーギュー病か。まだあったんだな」

「知ってるのか?」

「スーギュー病は確かに死に至る病気だが、その病気は野生のスーギューの生存本能の一部が壊れ、肉食獣等が襲ってきても反撃もしなければ逃げることもなくなるっていう、安全にスーギューを殺すために人工的に作られた病気なんだ。野生のスーギューが感染すれば肉食の魔物に食べられ放題だから、死に至る病気っていうのは間違いじゃないけどな」

「人工的に作られた病気だって? 本当なのか?」

だとしたら、誰かが病気を広めたってことか?

なんのために?

誰かがこの傭兵の国を兵糧攻めするつもり……だとか?

いやいや、兵糧攻めにするにしても、牛を殺すのは効率が悪いだろうし。

「あたしの予想だと――」

「ニーテの予想だと?」

「養豚場の陰謀だな。牛がいなくなれば豚の需要が上がるだろ」

「…………真面目に聞いた俺がバカだった」

豚肉を売るために牛の細菌兵器みたいなものを用意するとか、どんな犯人だよ。

コンビニ強盗するためにロケットランチャーを用意するようなものだぞ、それ。

「そもそも、さっきの串肉の店でも豚肉売ってなかったからな」

「そうだな。それに、あたしは豚肉より鶏肉派だから、旦那様が捕まえてきた鶏を捌くのがいまから楽しみで夜しか眠れないよ」

「夜に眠れたら十分だな」

とバカな話をしたところで、俺たちは本屋と服屋のある通りに辿り着いた。

ニーテには銀貨が入っている巾着を渡し、人数分の下着等を買ってもらうことにした。

その間に、俺は本屋に入っていく。

本屋の中は薄暗く、大量の本が山積みになっている。一冊本を抜けば雪崩が起きそうだ。

この世界の文字は、共通言語把握スキルのお陰で読むことができるが、共通言語以外の言葉もあるようで、それらは表紙を見てもなんの本なのかわからない。

「いらっしゃい、どんな本をお探しかね?」

片眼鏡の男の老店主が俺にそう言った。

「あぁ、えっと、レベルアップ以外の方法で就職できるようになる職業の一覧が掲載されている本ってありますか?」

「伝承ボスに関する本と、あとは職業講習に関する本だね。300センスと200センス、合計500センスだな」

「500センスってことは、5万ゴーツでいいですか?」

俺は1万ゴーツ札を五枚渡したが、爺さんは渋い顔をし、

「悪いがうちはこんな紙切れで大事な本を売るつもりはないよ。信用できないんでな」

紙でできた本を扱っている店で紙幣お断りか。

国の中のすべての店で使えるって聞いたんだが、それについてここで問答するつもりもないので、俺は銀貨五枚を渡した。

「ああ、これでいいよ。この二冊だ」

老店主は杖をついて立ち上がると、山積みされた本から目的の本を一瞬で見つけ出すと、杖を構えた。

(あの構えはっ!)

まさに、侍の居合い切りの構え……ってこの爺さん――

【侍:Lv32】

うわ、凄腕の侍だった。

でも、なんでこんなところで居合切りを?

そう思った瞬間、爺さんは杖を抜いた。

すると、平積みにされている本の中から一冊が飛ばされ俺の方へと飛んできた。だるま落としみたいに上の本がそのまま落ちた。

凄い技術だ。が、それ以上になんて無駄な技術だ。

それに、大事な本なんじゃなかったのか?

いや、本には傷らしい傷はついていない。

【伝承ボス全集】【新たな道を目指すためのステップブック】

確かに俺が望んでいそうな本だ。

「……あの、他に女性に人気の本などもあれば欲しいんですけど。1万センス分くらいで、完結済みの本のみお願いします」

と金貨一枚を取り出す。

「それなら――」

と店主は次々に本を打ち抜いて俺に渡していった。

本当は一万センスを少しオーバーするらしいけれども、すこしまけてもらった。

そのため、合計百冊の本を購入、爺さんに追加で一万センス――金貨一枚渡した。

「ふぅ、久しぶりに体を動かした」

「店主さん、昔は凄腕の傭兵だったのか?」

「昔のことだ。魔王に単身戦いを挑み、破れ続けた愚かな男だ。いま思えば、儂はあの魔王に惚れていたのかもしれん」

爺さんはそう言って俺に写真立てに入った一枚の絵を見せた。

黒髪の美人の絵だ。

「魔王ファミリス・ラリテイの肖像画だ。魔王城に攻め込んだ際に勝手に持ち出した」

「これが――」

ミリの前世――魔王ファミリス・ラリテイか。

ミリとは似ても似つかないな。

でも、これを見たら子供のころのハルが尊敬していたという気持ちもわからなくない。肖像画なので何割かは威厳マシマシで描かれているだろうけれど、それでも教科書に載っている偉人よりも立派な雰囲気だ。

「凄い美人だろ。これは売らんぞ。儂の女だからな」

「……もう死んでますよね? その魔王」

本当は「俺の大事な妹をあんたみたいな爺さんにやらんっ!」と怒鳴ってやりたいんだけど、それをしたら変な男になってしまう。

「あぁ、死んださ。でも、儂ももうすぐ死ぬからな。死んだ先で会ってみせるさ。もっとも、そう簡単に死ぬつもりはないがな」

死ぬのか死なないのかどっちだよ。

あと、死後の世界にファミリス・ラリテイはいないからな。とっくに俺の妹として生まれ変わっている。

それも言わないけれど。