軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダークエルフの枕営業(?)

「って、まぁ、そうだよな」

「肯定します。なにを期待していたのかは理解していませんが、そうです」

「いや、ピオニア姉さん。マスターは絶対あたしたちに体液を搾り取られることを期待していたぞ」

「私たちはマスターの体液を搾り取っていますよ」

「汗を拭いてるだけだよ」

俺は現在、トランクス型の水着だけを着て、蒸し暑い密室で汗を流していた。

ピオニアの特製サウナであり、ここに入ると魔力が汗に混じって流れていくのだとか。

「シーナ三号も頑張ってるデス!」

「あぁ、はいはい、頑張ってるな」

シーナ三号が焼けている石に、魔力の発散を促す特別な水をかけてミスト状にし、大きな団扇で俺の方へと仰いでくる。

まさにサウナのロウリュ状態だ。

それはいい、それはいいのだが、ピオニア、ニーテを見ると、目のやり場に困る。

彼女たちの服装は、下腹部はフンドシ、胸部はサラシ、そのうえにハッピを着ているだけだった。シーナ三号も同じ姿で、団扇に書かれた文字のように祭の衣装だ。

このまま神輿でも担ぐんじゃないだろうか?

「マスター、汗をたくさん出していますね」

「マスター、顔、赤いぞ」

俺の汗を拭って搾り取る作業を続けるピオニアとニーテがそんなことを言ってくる。

「汗が出る原因も顔が赤くなる原因もここが暑いからだ……」

決してこの状況に興奮しているからではない。

魔力も順当に抜け出ているが、本当にこれで高濃度の魔力が供給できるのだろうか?

普通にマッサージしてもらったほうが効率がいい気がする。

ふたりは俺から搾り取った汗を絞りだすと、その場で二人で飲んだ。

汗としては多くても飲み物としては大した量ではないのですぐに飲み終わったが、ふたりの顔色は優れない。

他人の汗を飲んで満足そうにされても困るが。

「……薄いです」

「あぁ、薄い……原因は何だ? 理論ではもっと美味くなるはずなんだが」

「わかりました、原因はこの部屋にあります。この部屋には魔力を発散させる湯気が充満しているため、マスターから拭き取った汗の魔力が空気中に逃げてしまうのです」

「それは迂闊っ!」

ニーテが驚天動地の大事件という感じで叫ぶ。

「設計時点で気付けっ!」

と叫んだが、ニーテとピオニアは俺を見てなにやらよからぬことを話し合った。

「つまり、一度布で拭きとらず、出てきた汗をそのまま飲めばいいわけだな、ピオニア姉さんっ!」

「肯定します、ニーテ。さすがは私の妹です」

「ま、待て、直接飲むって、お前ら、まさか――」

今度ばかりは俺の想像が間違っていると思いたい。

「大人しくしてください、痛くしませんから」

「むしろ気持ちよくする自信があります」

「ま、待て、お前ら! その出した舌をどうするつもりだああぁぁぁぁぁっ!?」

俺はふたりに 気圧(けお) され、シーナ三号に助けを求めるべく手を伸ばしたが――

「温度・熱度が許容範囲を超えたデス……冷却モードに入るデス……」

シーナ三号、いとも簡単にフリーズしてやがった。

精密ポンコツ機械を高温多湿の空間で働かせるなっ!

と叫ぶ暇もなく、俺はピオニアとニーテに捕食されたのだった。

※※※

「酷い目にあった……」

脇の下を舐められたときは本当に意識を持っていかれそうになった。

パンツだけは死守させてもらったが。

ちなみに、魔力の補給を済ませたピオニアとニーテは、フリーズしたシーナ三号を涼しい場所に運んでおり、俺の相手はララエルが引き継ぐことになった。

三つ目の報告がダークエルフ関連のためだ。

「それは災難でしたね。どうぞ、森の果樹から作ったお茶です」

「ありがとう、ララエル……あぁ、美味い」

ほんのり甘みがあるお茶だ。

うまい……はぁ、癒される。

「そんなに嫌なら無理やり逃げればよかったのではないですか?」

「そうしようと思ったけれど、出口は塞がれていたし、短時間で強くなりすぎたせいで、手加減が難しくてな。ふたりを怪我させたら悪いだろ」

「お優しいのですね……さすがはイチノジョウ様です」

「それに嫌ってわけじゃないんだよ。だが、あいつらに手を出すわけにはいかないから、蛇の生殺し状態というか、そういうのもあってな」

「蛇の生殺しですか。イチノジョウ様が望まれるのであれば、我々ダークエルフ一同をお使いください。イチノジョウ様を満足できるように努力いたします」

ララエル、そういうのが辛いって言ってるんだよ。

そりゃララエルは魅力的だけど、でもいまはキャロを待たせている状態だから、他の女性に手を出すつもりはないんだ。

「そうそう、ドクスコに会ったぞ。お前らが死んだと知って、綺麗な墓まで作ってたよ。そんなの作ったって知られたらシララキ王国ではやっていきにくいだろうに」

「そうなのですか……ありがたい話です」

ララエルは少し複雑そうな表情でほほ笑んだ。

ドワーフたちの気持ちは嬉しいけど、彼らを騙しているという事実が忍びない……ってところか。

「そうだ、ララエル。三つ目の報告ってなんだ?」

俺がそう言って話を切り替えようとしたのに、ララエルの表情が沈んだ。

「身内の恥なのであまり話したくないことなのですが……」

あぁ、悪い報告なのか。

「身内って、もう俺も身内のようなものなんだし、恥もなにもないだろ」

「そう言ってくださると助かります。実は、一部のダークエルフたちが枕を所望しておりまして」

「枕? 枕って隠語じゃなくて、普通に寝るときに使う道具って意味の枕だよな?」

「はい……その枕です。一部の者たちがピオニア様とニーテ様に枕の制作を要求しておりまして、現在、イチノジョウ様の承認待ちなのです」

「あぁ、そんなことか。枕くらい好きにすればいいじゃないか」

「その枕……は問題ないと思うのですが、カバーの方が問題がありまして」

「カバー?」

カバーくらいすぐに作れそうだけどな。

さっきも器用に祭りの衣装とか作っていたし。

「これが試作品なのですけれど……」

「試作品までできてるのか」

折りたたまれた枕カバーを手に取った。

肌ざわりはいい、確かにこれならいい夢が見られそうだ。

でも、枕カバーにしてはちょっと大きい気がする。

「ん?」

俺は嫌な予感がして、枕カバーを広げた。

「………………っ!? おい、これはなんだ?」

「枕カバーです」

「枕カバー?」

「抱き……枕カバーです。イチノジョウ様の等身大の」

そう。枕カバーにはおそらく俺をモデルとしているのであろう(本物よりもイケメンだし、鏡と違い左右反対ではないので本人が見ると違和感がある)イラストが描かれていた。

しかも、表面は俺の普段着の衣装、裏側は俺の上半身が裸になっている……本人よりも筋肉の量が多い。

「…………なあ、こんなことを聞くのはアレだが、ダークエルフたちはバカなのか?」

「こういうことを言うのはアレですが、ニーテ様に毒されたのかと。よく話していますから」

「……あぁ、なんかすまん」

「……いえ、私も済みません」

とララエルが謝ったところで、彼女が持っていたなにか紙が落ちた。

「ん? これは――」

「あ、イチノジョウ様、それはっ!」

「予約者リスト?」

そう、それはまさにダークエルフたちの抱き枕カバーの予約者リストだった。

まだ製作も決定していないのに予約開始してるのか。

「……ララエル、なんでお前も注文しているんだ?」

「……そ、それは……」

「しかも、三つも」

「……観賞用と保存用も必要だって抱き枕営業担当のリリアナが言うので……」

「そうかそうか……布教用がないだけマシだと思っておこう」

俺はそう言うと、笑顔で言った。

「でも、抱き枕は却下だからな。これも没収な」

「そ、そんな! お願いです、その試作品の抱き枕を使った日は緊張して眠れなかったのですが、朝はスッキリ――」

「眠れないならダメだろっ! そして使ったのかよっ!」

それでも却下だと言い切ったら、俺に忠誠を誓うと言ったはずのダークエルフたち、俺の抱き枕製造中止の命令に、奴ら全員分の署名を集めて歎願してきた。

その後、ララエルを含めたダークエルフ数名との話し合いが進んだ。

結果、俺をデフォルメ化したクッションカバーを作るという妥協案で話はまとまった。

ドクスコ……お前が心配していたダークエルフたち、かなりおかしな方向に行っている気がするけど、元気でやってるからな。