軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドワーフの酒宴

ドクスコは酒蔵から、話に出てきたアブサンを含めた複数の酒樽を取り出しては、俺のアイテムバッグに入れ、共に酒場に向かうことになった。

なんのために刀を打ったのかわからないことになったが、刀を貰ってしまった手前、飲みの誘いを断りにくい。NOと言える日本人になりたいと言ったのに、全然NOと言えていないな。

ということで、さっき通り過ぎた飲み屋に向かった俺たち。

店に入る前から酒臭い。

「おーっ! ドクスコ! お前も来たのか」

「ほら、駆けつけ一杯!」

「その若いのも駆けつけ一杯だ!」

自己紹介をする前から酒を振舞われそうになる。

アブサンか? 幻覚作用とかないよな?

「安心しろ、外の奴に振る舞うのはラガーと決まっている」

「ラガー? エール酒じゃないのか?」

「まずは飲んでみろ」

ドクスコはそう言って、俺に空のジョッキを渡して飲み物を注ぐ。

それは、まさに日本のビールのようだ。しかもキンキンに冷えている。

「どうだ? 凄いだろ。ダイジロウが作った『レーゾーコ』という魔道具のお陰で、キンキンに冷えたラガーが飲めるんだ」

「……うまいな……日本のビールよりもフルーティーだ」

甘味が強いのだろうか?

「あまり驚かないんだな――さては、お前、ラガーを飲んだことがあるのか?」

「いや、驚いているよ」

枝豆とから揚げが欲しくなってくる。

前に揚げたポテトチップス海苔塩味でもいい。

そう思ったのは俺だけではなかったようだ。

「イチノジョウ。何か酒のあてになる料理はないか?」

「……あぁ、妹が持たせてくれた食べ物なら大量にあるけれどな。酒に合うと言えば、これだな」

俺はアイテムバッグから卵を一個取り出した。

「ゆで卵か?」

「ああ、ゆで卵だ。アヒルのな」

「……塩を振って食べれば確かに美味いが、酒の肴としてはどうなんだ?」

「まぁ、食べてみろって」

俺は皿の上に卵を置き、スプーンの丸いところで叩き割った。

中から白身ではなく、スープのようなものが出てくる。

「うおっ、これは……」

「結構凄いだろ。ホヴィロンっていうんだ」

「食えるのか?」

ドクスコが驚くのも無理はない。

なぜなら、それは孵化しかけのアヒルを茹でた卵であり、中は雛の形になっている。

ゲテモノ料理が好きなミリのお気に入りのひとつであり、家にはホヴィロンの買い置きまであった。

「俺が初めてこれを食べたのは五年前だったな。食べるまでに十分間葛藤したけど、食べてみたらうまいんだよ」

このホヴィロン、アイテムバッグの中になぜか五千個くらいあった。

いったい、どこで買い占めたのやら――と思ったが、よく見ると購入日が違う。ミリの奴、日本に居た頃から空間魔法を使って食料などを備蓄してやがったのか。たしか、ミリの空間魔法による異次元収納とやらもアイテムバッグと同様に中に入れているものが腐ったりはしないんだったよな。

なにはともあれ、ホヴィロンは大量にあるので、ここで少し振舞うくらいは問題ないだろう。

「グロテスクだが、うまいんだよ。まぁ食べてみろって。ほら、塩とライムもあるから」

塩はデイジマの港で買ったし、ライムはハンムノの町で買ったものが残っていた。

「……食べないとダメか?」

「つまみが欲しいって言ったのはドクスコだろ? 騙されたと思って騙されてみろ」

「それだと結局騙されてるだろ」

ドクスコはそう毒づきながらも、卵の殻をむいていく。

皿の上に漏れた汁は飲むつもりはないようだ。

塩を振ったが、スプーンに載せたまま動かない。食べる踏ん切りがつかないようなので、もう一個ホヴィロンを取り出して、俺も同じように割った。

ミリが俺に食べさせたゲテモノ料理を俺はかなり食べさせられてきた。なかには見た目以上にマズイ食べ物も山のようにあった。しかし、これの見た目のグロテスクさは五本の指に入るが、だが、味もまた五本の指に入るともいえる。良い意味でだ。

結局、見た目の気持ち悪さ以上に味の良さが勝ってしまい、俺のお気に入りの食材のひとつになった。

殻から出したホヴィロンに塩を振って食べた。

「うん、この味だ。うまい」

鶏肉とも茹で卵とも違うこの味は、一度食べれば癖になる。

東南アジアでは普通に屋台で売られている庶民の味だそうで、それも頷ける。

いつの間にか、俺たちの周りにはドワーフたちのギャラリーができていた。

ゲテモノ料理であるが、未知の料理に興味があるのだろう。

俺が食べたのを見たドクスコは意を決したのか、目を閉じてホヴィロンを口の中に入れた。

最初は恐る恐る口を動かしていたドクスコだったが、すぐに目を開き、噛むスピードもあがる。

そして、飲み込んだ。

「……うまいな、本当に。それに、確かに酒に合う」

「だろ? もう一個食うか?」

「ああ、もらおう」

ドクスコはそう言ってホヴィロンを受け取った。

それを見ていた他のドワーフたちも、

「おいにも一個くれや!」

「そんなに美味いのか?」

「どれ、話のネタに食べさせてくれ」

ドワーフたちを含め、酒場にいた大多数がホヴィロンを食べ始めた。もちろん、中には見た目のグロテスクさのせいで食べない者もいたけれど、食べた人間は全員満足そうにしていた。

「お前のアイテムバッグは本当にいろんなものが入っているな。酒は入ってないのか?」

「あるぞ。ワインと清酒がな」

ワインに必要な葡萄、清酒に必要な米はどっちもマイワールドで育てたものを使っており、ピオニアが管理をしている。

「セーシュ? もしかして米の酒か?」

「知ってるのか?」

「ああ。ダイジロウから話だけは聞いていたが、飲んだことはない」

「それなら、一杯飲んでみるか?」

清酒は現在、マイワールドの中でタンクサイズで醸造しているので、うわばみと言われるドワーフたちが飲んでも無くなることはないだろう。

一樽取り出し、柄杓で椀に注いでドクスコに渡した。

「これが幻のセーシュか。水みたいだな」

「見た目はな」

先ほどまでと違い、ドクスコは躊躇することなく清酒を呑んだ。

「――っ!? これはなんと澄んだ酒だ。雑味というのがまるでない」

「大吟醸だともっと凄いらしいけどな」

「なんと、これよりも凄い酒があるのか?」

「悪い、俺も詳しくは知らないんだが、なんか米の削り具合で雑味が変わっていくらしい。これは普通の精米しかしていない酒米を使っているから、僅かに雑味が残っているらしいんだ」

ご飯にする時は旨味と呼ばれる部分が、酒を造る時には雑味になるらしい。

「なるほど……鍛冶といい酒造りといい、奥が深いな」

「そうだな。みんなも飲んで――ってもう飲んでるか」

すでに全員、清酒に夢中になっていた。

「で、ドクスコ。ダイジロウさんについて、そろそろ話してくれないか?」

「あぁ、そのことか。なにについて知りたいんだ?」

「一番知りたいのは、ダイジロウさんが現在どこにいるのか。その次に、ダイジロウさんが現在、何をしようとしているのか? 最後に飛空艇についてだな」

「ダイジロウが現在どこにいるのかは知らんが、飛空艇が東へと向かっていくのを見たものがいる。マレイグルリを目指した可能性が高い」

「やっぱりマレイグルリか」

ダイジロウさんが残してくれた本にもマレイグルリにいるって書いてあったからな。そこを拠点にしているのは確かだろうし。

「目的についてはよくわからんが、飛空艇は儂も建造に携わったからな」

「本当か?」

飛空艇の速度や燃料の補給場所がわかれば、ダイジロウさんがマレイグルリに居なかったときにその場所を探す手がかりになる。

「うむ、飛空艇というのは元々、ダイジロウが祖国に戻るために作った次元を超える船なんだ」

「次元を超える船っ!?」

そんなことが可能なのか?

いや、あの飛空艇は確かに俺の許可もなくマイワールドに入ってきた。

「イチノジョウ、お前が使っているアイテムバッグの仕組みは知っているか? 市販されているアイテムバッグは空間を膨脹させ、普通の鞄の数倍の容量が入るようになるだけだ。だが、ダイジロウが作ったアイテムバッグは異次元を切り取り、鞄に固定している。だから容量が桁違いなんだ。まぁ、ダイジロウが次元を超える研究をしてたときの副産物ってところだ」

「これ、そんなに凄い仕組みだったのか」

ダイジロウさんの目的――そのヒントは最初から俺が持っていたってことか。

「ダイジロウさんの目的は元の世界に戻ること――か」

それならなんでミリを誘拐する必要がある?

ミリはファミリス・ラリテイ――この世界の魔王だった。それが転生という形ではあるが、日本に戻ることができた。つまり、元の世界に戻るための成功例であると言える。

ファミリス・ラリテイの転生にダイジロウさんが関わっている可能性が高くなったな。

「で、なんでドクスコはダイジロウさんのその目的に協力したんだ?」

「未知の技術を知りたいというドワーフの研究欲。そして、アブサンの製法を聞いた時に、日本にはもっとうまい酒があると聞いたからな」

ドクスコは空になった椀を愛おしそうに見て言った。

この世界にも珍しいが米はある。

ダイジロウさんの知識があれば、不完全とはいえ米から清酒を造る方法くらい知っているだろう。それをドワーフに伝えなかったのは、ドクスコの知的好奇心、酒への欲求を高めるためだったのではないだろうか? そんな邪推さえしてしまいそうになる。

もしかしたら、同人誌を作っているのも、そういう趣味の人に日本への関心を高めるため?

……いや、やっぱりあれは趣味だな。うん、そうであってほしい。