作品タイトル不明
ダブルハラスメントの村
「イチノジョウはダイジロウの知り合いなのか?」
「知り合い、というほど知り合いではないですけど、彼女に会う必要があるんです。彼女がいま、どこにいるか知りませんか?」
「……うむ、ここではなんだ。ワシの家で話そう。イチノジョウ、鍛冶スキルは持っているか?」
「ええ、一応持っています」
「なら、ついてこい」
ドクスコはそう言うと、俺にスマホを返し、村の中へと 誘(いざな) った。
ドワーフの村と聞いていたが、ドワーフ以外にも人が住んでいるらしく、 人間(ヒューム) や獣人の姿もあった。
もっとも、ドワーフが多いのは事実だ。他の町では見ることがなかったドワーフたちが大勢いた。
女性のドワーフはリリアナから聞いていた通り髭は生えていないんだな。身長が低い女性で、なるほど、 半小人族(ハーフミニヒュム) と間違う者がいるのも頷ける。
小人族(ミニヒュム) はもっと小さいんだろうな。
「あの、ドクスコさん」
「ドクスコで構わん。なんだ?」
「ドワーフと 人間(ヒューム) のハーフっているんですか?」
「数は多くないが、いることはいる。あと、敬語も余計だ。村でそんな話し方をする奴はひとりもおらんでな」
かなりフランクな村のようだ。
「人間がこれだけいるのにハーフは少ないのか」
「うむ。ドワーフの好みは男女問わず、酒に強い者だからな。樽一杯飲み干せる 人間族(ヒューム) がいれば婿にも嫁にも迎えられるのだが」
「そりゃ、樽一杯の酒を飲み干すのは無理だな」
近くの食堂を通ったとき、すでに酒臭かったし。まだ昼だぞ?
俺も樽一杯は不可能だな。
「この村の酒は、どういう酒なんだ?」
「ほとんどはニガヨモギからつくった蒸留酒のアブサンだな」
アブサンか。日本でも売っているお酒だ。まぁ、俺は飲んだことないけど。
同じ名前の野球漫画があったなってことしか印象にない。
「この村のアブサンは凄いぞ。火をつければ燃えるし、飲めば幸せな気持ちになれて、死んだ妻が目の前に現れるくらいだ」
「それって、幻覚だよな?」
「まぁ、儂は生まれてこのかた結婚なぞしたことがないんだが」
「それって、妄想だよな?」
ちなみに、その幻覚作用のためこの村以外でのアブサンの流通・販売は禁止されているらしく、この村でのみ生産、販売、消費しているらしい。
さすがに日本で売られているアブサンにそんな幻覚作用はないぞ――西欧では昔、同じような理由で販売が禁止されていたという話は知っているけど。
なんてもんを作ってるんだ、こいつらは。
「ちなみに、このアブサンの作り方を教えてくれたのもダイジロウだぞ?」
なんてもんを広めてるんだ、あの人は。ていうか、彼女、こっちの世界に来たときはまだ子供だったんだろ?
なんで酒の作り方なんて知っているんだよ。
本当にツッコミたいことだらけだ。
「まぁ、さすがに 人間族(ヒューム) には 麦酒(エール) か 葡萄酒(ワイン) を勧めるよ。どうだ? 飲んでいくか?」
「いや、先に話を聞きたいんだが」
「そうか? 残念だ」
ドクスコはそう言って、先へと歩きだす。
さっき、村の入り口で、記念撮影するのにハルがいないのが残念だと言ったが、ハルがいなくてよかった。
彼女がこの村にいたら、一日中酒の臭いだけで酔いつぶれているだろう。
「着いたぞ、ここが儂の家だ」
「大きいな」
案内された家は、おそらく村で一番大きな煉瓦造りの建物だった。マイワールドにある帆船を入れるためのドックよりもさらに大きく、村の中に入る前から見えていた建物だ。住居だけでなく、工房を兼ねているのだろう。屋根には大きな煙突があり、そこから黒煙が上がっている。
「おや、おかえり」
家に帰ると、女のドワーフが出迎えた。
奥さんか? と思ったが、さっきドクスコは結婚していないって言っていたな。
「この 人間族(ヒューム) の子は?」
「イチノジョウだ。客人だから奥の第二応接室を使うぞ」
「はい、どうぞ、族長さん」
ドクスコは頷いて奥の部屋へと向かった。
この家を見た時に、それより前に、すれ違うドワーフたちの職業やレベルがドクスコよりも遥かに低いことから、只者ではないと思っていたが。
「ドクスコって族長だったのか」
「まぁ、お飾りみたいなもんだ。うちの村では一番鍛冶のレベルが高い男が族長をする決まりになっているからな」
別に誇るでもなく、ドクスコは淡々と言った。
そして、応接間に案内された……と思ったのだが。
「応接間?」
「あぁ、応接間だ」
さて、おさらいだ。応接間に必要なものを述べよ。
一つ目、主人を待つため、話をするために必要な椅子。
二つ目、菓子や飲み物を置くために必要なテーブル。
つまりは快適にくつろげる場所である必要がある。
おさらいは終わり。
では、目の前にあるのは?
「……燃えているな」
「燃えているな。燃料は魔石だ」
炉がごうごうと燃えていた。
バーベキューの串を入れたら、一瞬で肉が消し炭になるどころか、鉄串が溶けてしまうくらいに燃えている。
「工房だよな?」
「工房だ。この村一番の炉だぞ」
「応接間じゃないのか?」
「応接間だ。見てわからないか?」
俺は再び部屋を見た。
椅子はない。
テーブルはあるが、その上にはハンマーや挟みや鉄床など、鍛冶の道具と思われるものが置かれている。
「見てわからないか?」
「わからないよっ!」
ドクスコに再度問われて、俺は叫んでいた。
なんだよ、応接間が工房って。
シェフの気まぐれ料理を注文したら、うんまい棒エビマヨ味が出てくるくらいにわからない展開だよ。いや、うまいけど、うんまい棒エビマヨ味。って、俺、なにわけのわからないこと言ってるんだ?
「まずは客人の人となりを見るために、槌を振るわせる。これがドワーフのもてなし方、その2だ! まぁ、滅多にせんがな」
「滅多にしないならするなよ! 普通のもてなしをしてくれ!」
「なら、普通に酔いつぶれるまで酒を酌み交わすか? もうひとつの第一応接室は酒蔵になっているぞ」
「……こっちでいい」
ドワーフが鍛冶と酒を好むとは聞いていたが、それを客人に求めるなよ。
なんだよ、アルコールハラスメントだけでなく鍛冶ハラスメントの村だな、ここは。