軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドワーフのドクスコ

マイワールドでの定時連絡のようなものを終えた俺はひとり、ドワーフが住んでいるという集落へと山登りを再開した。

ドワーフの村がある場所は、遠くに煙が上がっているし、鷹の目で上空から見たら簡単に捕捉できた。

最初はあまり使い道がないように思えていた鷹の目だが、旅人にとっては便利すぎる。RPGの周辺マップ機能みたいだ。

登山道を見ると、かなりの遠回りだが、直線距離でみるとそう長くない。

跳躍補正による立体的な動きが可能な俺は、登山道ではなく、一直線に山を駆け登った。といっても早足程度の感覚だけど。

詰め所では歩いて二時間でドワーフの集落に辿り着くと言われたが、実際は十五分もかからなかったのではないかと思う。

ここは町ではないので、入町税は支払う必要はない。

村の入り口にあるアーチ状の門は、さすがドワーフの村というべきか、上空から見たときはわからなかったが模様が細かく、とても綺麗だ。

ここが現代日本だったら、この門だけでも立派な写真の撮影スポットになるだろう。

というか、写真撮っておこう。

俺はアイテムバッグからスマホを取り出し撮影した。自撮りモードに切り替え、俺の顔と一緒に撮影する。

ミリが充電器や発電用エンジンを持ち込んでくれたお陰で、充電切れの心配はなくなったから、撮影し放題だ。勿論、SNSにアップロードすることはできないので本当にただの記念撮影だけど。

「おぉ、綺麗に撮影できているな」

「だよな。まぁ、本当は被写体に女性がいたほうがいいんだけど」

ハルやキャロ、マリナたちがいないのが悔やまれる。

ダークエルフたちが外に出るのはまずいし、ピオニアは引きこもりだから、消去法でニーテだろうか?

消去法なんて失礼な言い方をしたが、ニーテも超がつくほど美少女だしな。性格はやや難ありだけど。

「うむ、女性か。なら、村の女を呼んでこようか?」

「いや、その必要は……って、あっ!?」

気付けば俺のスマホを覗き込んでいる一人の見知らぬ男がいた。

背の低い髭面の男で、牛の角のような兜を被っている男だ。

そう、ドワーフだ。

「すみません、えっと……この村の方でしょうか? あ、俺はイチノジョウという旅人です」

「うむ、ワシの名はドクスコ。この村の鍛冶職人をしている」

定番の自己紹介をしてくれた。

これが日本だったら名刺交換をする場面だろうが、当然、ファミレスでアルバイトをしていたことはあっても正社員採用されたことのない俺が名刺を持っているわけがない。ミリは時折、有名大学の教授や研究者などと意見交換したり、大会社の重役や官僚などを自宅に招いてなにやらよくわからないことを教授することがあったので名刺を持っていた。

関係のない話ついでに言うと、就職三十連敗くらいしたとき、ミリのコネを使って就職できないか相談したことがあったが、ミリに笑顔で断られたことがある。

『私のコネを使えば、おにいは一分もかからずに有名企業に内定をもらえて役員待遇で迎えられると思うけれど、そんなことしたらおにいは絶対に自分を許せなくなると思うよ』

と言われたのだ。

あの時は藁にも縋るつもりで頼んで、それが断られたことで絶望したものだ。しかし、成長チートといういかさま紛いの能力を貰って、ハルやキャロに尊敬されるご主人様であった俺は、自己嫌悪に浸ることもしばしばだった。いかさまとはいえ、確かに自分の持っている能力で認められてこれなのだ。本当にミリの力だけで就職して役員なんかになっていたら、きっと自己嫌悪だけでは済まされなかっただろう。

いまになって、ミリの優しさと厳しさが心に沁みわたり、自分の愚かさが嘆かれる。

さて、ドクスコを改めて見る。

鍛冶師と言っていたが、

【ドワーフ鍛冶師:Lv43】

とあった。

これもまた、エルフ弓士と同じく種族限定職業なのだろう。

レベルも高い。

「それを見せてもらってもいいか? 恐らく、機械と呼ばれるものなのなのだろ?」

「……えぇ、まぁ……わかるんですか?」

「魔力の流れをまるで感じないからな」

俺はスマホをドクスコに見せる。

触ってもいいかと言われて、断りたい気持ちだったが、結局、「壊さないでくださいね、繊細なんで」と一言告げて渡した。

ドクスコはどうやら好奇心の塊らしく、スマホに触れては俺にいろいろと聞いてきた。勿論、スマホの詳しい仕組みなんて俺も知らないので、碌に説明できなかった。

ただ、なんとなく伝えていると、

「なるほど……これは形こそは違うが通信機。“ケータイデンワ”と呼ばれる機械なのだな」

……!? いま、ドクスコが言ったことは間違いではない。だが、俺にはわかった。

ケータイデンワという言葉を、ドクスコは日本語で言ったのだ。翻訳されていない。

間違いなく、この世界には携帯電話という道具が存在しないのだろう。存在しないから翻訳されない。翻訳されないからこそ、誰かが伝えればそれが日本語としてそのまま残る。

「それを誰から聞いたんですか?」

「うむ、ダイジロウという発明家からだ」

「ダイジロウさんを知っているんですかっ!?」

あまりの展開。ご都合主義ともとれる展開。

まだ村の中にも入っていないのに、俺はダイジロウさんの手掛かりを見つけた……のかもしれない。