作品タイトル不明
大森林の端でちょっと寄り道
ルリーナから貰った簡易の地図を頼りに、デザートランナーに乗り北へと進んだ。
大森林を襲った炎は大精霊サラマンダーの消滅とともに一斉に鎮火したのだが、それで燃えた森が元に戻るわけではない。森のかなり広範囲が一瞬とはいかないまでも灰となり、戦争の跡のイメージ画像を見ているようだ。まぁ、実際に戦争だったわけなんだけど。
少し進んだところで、鹿のような動物の黒焦げの死体を見つけた。
デザートランナーは鼻を近づけたが、食べようとはしなかった。死後数日経過しているし、なにより表面が真っ黒でほぼ炭のようになっているからな。
このような動物は一匹や二匹だけではない。大森林に住んでいた多くの動物が亡くなっていた。
「……くっ」
この原因は俺にある。俺が黄金樹をマイワールドに持っていかなければ、サラマンダーが復活することもなく、森が焼けることもなかった。
勿論、それが間違っていた選択だとは思わない。そうしなければ、ダークエルフたちを守ることができなかったのだから。
「守りたいものと、守らなければいけないもの……か」
今更ながら、シュメイが言おうとしていた言葉の重みを感じた。
俺がいなかったら、ニックプラン公国と教会の軍が森を焼き払っていたのだから、結果は同じだろう――みたいな言い訳をするべきではない。
これは俺が正しいと思って選んだ選択であり、俺の罪なのだから。
俺はこの屍を越えて、前に進まなければいけないのだろう。
シュメイの話では、この森は今後、大農場へと生まれ変わるそうだ。
せめて、この土地が今後多くの命を育んでくれることを心から祈ろう。
その日の夜には、戦いの被害が及んでいない森に辿り着いた。
鷹の目スキルを使って周囲を観察すると、この森を十キロ程北に進めばドワーフが住んでいるという山に辿り着く。
もっとも、森の中には道らしき道はない。
ダークエルフから借りた弓矢を使い、茂みの中にいた大きな鳥を石矢で射貫く。
【イチノジョウのレベルが上がった】
【弓士スキル:弓装備が弓装備Ⅱにスキルアップした】
【エルフ弓士スキル:弓装備Ⅱが弓装備Ⅲにスキルアップした】
それぞれレベルが4と3に上がり、弓装備スキルが2ランク上がった。
筋力補正のために剣聖と侍の職業も付けているけれどレベルは変わっていない。
俺は殺した鳥の首を落として首から上をデザートランナーに投げた。
デザートランナーはそれを口で咥え、頭蓋骨を砕いてバクバクと食べた。本当によく食べる奴だ。
残りは血抜きしてから、ララエルたちと食べようと思う。
「ここからはお前は帰っていいぞ」
鳥の頭を食べ終えたデザートランナーの頭を撫でて、マイワールドに戻す。
森の中であいつを使うと、逆に移動しにくいからな。
砂漠の中の移動だけに使うはずだったのだが、結局いまだに使っている。
名前を考えたほうがいいだろうか?
と思ったところで、そいつらは現れた。
ダンジョンの外で見るのは初めてだ。
「久しぶりに見たなぁ」
野生のゴブリンが現れた。
鳥の血の臭いを嗅いだのだろう。
普通、いくら血の臭いがしても、野生の魔物がここまで堂々と近付いてくることはない。
しかし、俺は隠形スキルにより気配を消し、埋没スキルを使い周囲の景色に溶け込んでいた。
そのため、ゴブリンたちは血の臭いだけを頼りに、ここまで堂々とやって来たのだろう。一体、ゴブリンの目には俺はどう映っているのだろうか?
もしかして、いま弓矢を構えていることも気付いていないんじゃないか?
まぁ、ゴブリンだし、あまり経験値には――
「ん? 待てよ」
俺はアイテムバッグから一本の剣を取り出して、隠形スキル、埋没スキルを解いた。
直後、ゴブリンがその場に跪いた。
「おぉ、本当に効果があった。さすがだな」
ゴブリンソード――ゴブリンを服従させるという剣だ。フロアランスの町でゴブリンキングを倒したときに手に入れたが、それ以降ゴブリンに出会わなかったので、使う機会がなかった。
「俺の言葉はわかるか?」
ゴブリンに尋ねると、ゴブリンは言葉に表すことができない声で鳴きながらも頷いた。
本当に理解できているのか?
「俺の言葉はわからないか?」
と尋ねると、今度は首を横に振った。
ゴブリンに人間の言葉を理解する知能があるのか、ゴブリンソードの効果かはわからないが、これは便利だ。
「よし、ゴブリン。早速だが、お前に命令する。この森であるものを探しているんだが――」
と俺は森の中で探しているものの名前を三つ告げると、ゴブリンは笑顔――悪魔の笑みのようで怖い――を浮かべて指さした。
どうやら心当たりがあるようだ。
「よし、案内してくれ」
ドワーフの山に行く前に、ちょっと寄り道させてもらおう。