軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダークエルフの秘密

昨日の夜、走っておいたおかげでかなり距離を稼げていたらしい。

その日の昼には俺たちは大森林の入り口に辿り着いた。

森の中は結構木が生い茂っている。

ララエルは馬車で移動していたので、どこか広い道があるはずなのだが見つからない。

仕方ないので、デザートランナーにはマイワールドに入ってもらい、俺とシュメイはふたりで移動することにした。

鷹の目を使って上空から森を見下ろす。

んー、集落みたいな場所は見つからないなぁ。

「とりあえず奥に行くか」

ダークエルフに見つけてもらうために、隠形や埋没スキルは使わないようにする。

人の手の入っていない森はやっぱり歩きにくく、すぐに行き詰まった。

俺ひとりなら木の枝に跳び移って移動できるんだが、どうしたものか。

そう思ったとき――だ。

「――っ!」

シュメイに刺さりそうな矢を俺は手で受け止めた。

と同時に、俺たちを取り囲むように、弓矢を持ったダークエルフたちが現れた。

全員若い女性の姿をしている。髪の色は銀色で褐色の肌の女性たちで、全員お面をつけている。

男性のダークエルフは森の奥で狩りをしているって話だったな。

「 人間(ヒユーム) 共、ここがダークエルフの聖地と知ってやってきたか」

「そういうのは射掛ける前に言ってくれ! 俺の名前はイチノジョウ! ダークエルフ族長の娘、ララエル・ミ・モダンの友としてここに来た!」

俺が琥珀のブローチを掲げて宣言した。

すると、ダークエルフたちの動きが止まった。

そこに、見知ったダークエルフが跳んできて、木の枝の上から俺の目の前に着地した。

「聞いていたよりも早かったな、イチノジョウ」

「ああ、ちょっと野暮用があってな」

「ところで、彼女は――」

ララエルが俺の横にいるシュメイを見た。

シュメイは、ララエルの顔をじっと見て、

「お久しぶりです、ララエル様」

と頭を下げる。

「……もしかして、シュメイか?」

「はい」

どうやらふたりは知り合いだったようだ。

ダークエルフたちは正式に矢を射掛けたことを謝罪し、俺たちを村に案内してくれた。

家は全てツリーハウスのような形で枝の上に作られていた。どうりで上空から探しても見つからないわけだ。木を切り倒していないから開けた空間などがないのか。

それと、ララエルから聞いていた通り、村には女性しかいなかった。

さっき俺たちを囲んでいたダークエルフも仮面を外せば美人の顔が現れる。

ダークエルフは全員美人だ。

俺たちは集会所と呼ばれる一番大きなツリーハウスの中に案内された。

その部屋で全員床に座って話を始めた。

ダークエルフの代表者五名に俺たちはここに来た理由を説明する。

「なるほど――それで君たちが来たのか」

思っていたよりあっさりした答えは意外だった。

「驚かないんですね」

「ああ、すでに公国の軍がこの森を目指して進軍していることは知っている。シュメイ、君の父上が秘密裏に私たちに情報を提供してくれたんだ」

やはり公王陛下も独自の方法でダークエルフ達を逃がそうとしていたのか。

「なら、なぜ逃げないんだ? 数が違うだろ。勝てると思ってるのか? 森の中でゲリラ戦法で戦うのか?」

「無理だろうな。戦えば、我々は全員捕えられ、教会に送られ、裁判とは名ばかりの魔族裁判にかけられ、よくて奴隷堕ち――最悪死罪になるだろう。もっとも、戦いの中で全員死ぬ可能性のほうが高いかもしれない」

「ならば、なぜ――」

「逃げることはできないんだ。私たちには守らなければならないものがあるからな」

「守りたいものって、命よりも大事なものなのか?」

俺が尋ねると、ララエルは立ち上がって

「イチノジョウ、君についてきてほしい。見てもらいたいものがある。シュメイは悪いがここで待っていてくれ」

「ララエル様!」

取り巻きのダークエルフが立ち上がって、ララエルを止めようとするが、ララエルは笑顔で首を振った。

「安心しろ、彼なら大丈夫だ」

いったい、なにを見せてくれるんだ?

「イチノジョウ、森の中を歩くのは得意か?」

「木の枝を跳び移る程度はできると思う」

「そうか、ならば近道をしよう。ついてきたまえ」

そう言うと、ララエルは凄い跳躍力をみせつけた。

俺は彼女のあとを追う。

木の枝を跳び移って進むこと三十分、さらにそこから飛び降り、洞窟の中に入った。

「……はぁ、はぁ、まさか息も切らさずに私の後をついてくるとはな。まさか見た目は 人間(ヒユーム) だが本当はエルフなのではないか?」

「まさか。でも、ララエルがシュメイを待たせる理由がわかったよ。シュメイならここまで来るのは大変だろうからな」

「それだけではないんだ」

薄暗い洞窟の中を進む。

そして、その洞窟を抜けた先で俺が見たのは――黄金色に光る葉が生い茂った巨木だった。

「これは――黄金の樹? 上空から見たときはこんなの見えなかったのに」

太陽の光を浴びて輝く樹――こんな樹が生えていたら、鷹の目を使ったときに絶対に気付いたはずだ。

「今通った洞窟が結界の役割をしていてな、外からは見えないようになっているんだよ」

そして、ララエルは俺に黄金樹の根を踏まないように注意を促しながら説明をした。

「これが我々ダークエルフの神、黄金樹――その若木だ」

「若木!? これで!?」

嘘だろ? どう見ても樹齢何百年の大樹じゃないか。

これ以上にでかくなるのか?

なるほど、これがダークエルフの御神木みたいなものなのか。

俺はそう納得しかけた。

だが話はこれで終わらなかった。

「イチノジョウ、村には女しかいなかっただろ?」

「ああ――男は森の奥で狩りを行っているんだよな」

「それは嘘だ。ダークエルフはもとから女しかいない種族なんだ」

「え?」

ダークエルフは女しか生まれないってことか?

男は追放される……とかじゃないよな。

「我々ダークエルフは子供を産むことができないんだ。黄金樹は成樹になるとひとつの大きな種と、無数の小さな種の入った実を落とす。大きな種は次代の黄金樹として育ち、小さな種は我々ダークエルフが飲み込む。すると種を飲んだダークエルフは子を孕む。どうしてこのような種族なのかはわからない。ダークエルフなんて呼ばれているが、我々はエルフともほかの人とも全然違う種族なのだ」

植物の種から生まれる、そんな話聞いたことがない。

「……信じられないか?」

「いや、信じるよ。聞いたことはないが、俺の知り合いにも特別な生まれ方をした奴がいる。彼女たちも見た目も言動も人間とほとんど変わらないから、ダークエルフがそういう存在なんだって知ったら、受け入れられるよ。驚いたけど」

「……君に話してよかった。そういうわけで、私たちはこの黄金樹から離れることはできないんだよ。人間と戦うことになってもね」

「どうして俺にそんな話をしたんだ?」

「私たちはきっと負けるだろう。そして、負けたとき、私たちはこの黄金樹とともに消えてなくなるつもりだ。そのような話をしてもシュメイは受け入れられないだろうが、せめて誰かに知って欲しかったのかもしれないな」

ララエルはそう言って、黄金樹の樹皮を優しく撫でた。

守りたいもののために動いた王女、守らなくてはいけないもののために死を覚悟しているダークエルフ。

そして、守りたいものと守らなくてはいけないもの、どちらも守れるのが一番だと願った無職の俺は、考える。

「……なぁ、ララエル。この黄金樹を別の場所に植え直すってのはダメなのか?」

「ははは、無茶を言う。残念ながらそのような場所はないよ。この樹を運ぶのも大変だが、それより黄金樹が成樹になるころには、この樹の高さは百メートルを超える。結界がなければ隠すことはできない。この結界を私たちには張り直す術がないんだ」

だよな。誰にも見つからない場所なんて、そんな場所あるわけが――

いや、一カ所、絶対に誰にも見つからない場所がある。

思いついた。

さて、今度は二択だ。

守らなくてはいけない約束を破ったらダークエルフを助けられる。

さて、俺が取るのはどっちか?

そんなの決まっている

「ララエル、死ぬつもりなら、その前に俺の話を聞いてくれないか?」