軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フロアランス最後の夜

目を覚ますと――コショマーレ様の女神像があった。

本当に忠実に再現されている。

「ご主人様、おめでとうございます」

ハルが頭を下げた。

「え? 何が?」

「アイテムが出現しないということは、スキルを修得なさったんですよね?」

あぁ、そういうことになるのか。

「一時期、10人連続タワシが当たるということもありまして、心配しておりました」

「うん、共通言語把握ってスキルを貰った。代筆や代読をしてもらう必要がなくなるから便利だな」

「そうですか。私の仕事が減ってしまいますね」

ハルの尻尾は何故か少し残念そうだ。役立たずと思われるのが嫌なんだろうか。

最近、彼女の顔を見ずに尻尾を見ている自分がいる。

「いや、俺は言った通り、異世界の人間だから、こっちの世界のことについては全然知らない。戦力としてもそうだけど、知識の面でもハルにはこれからも期待しているよ」

「はい、誠心誠意頑張ります」

尻尾を元気に振る彼女を見て、今の言葉が正解なのだと確信した。

そして、俺達がボス部屋を出ると、ボス部屋の扉が閉じられた。

「じゃあ、帰るか……帰り道にも敵の一匹や二匹は出るだろうし」

拳闘士のレベルアップをしたいから敵を見つけたら倒したい。

忘れないうちに、狩人を再び剣士に戻し、階段を上がって行った。

そして、迷宮を出たときには既に夜だった。門番は昨日の男でもノルンでもない知らないオッサンだったので、会釈だけして通過。

迷宮の中で出くわしたのは、ネズミ程度の大きさの蜘蛛のスモールスパイダー3匹、赤いスライムのレッドスライム1匹、ジャイアントバット3匹、ゴブリン2匹だった。

ジャイアントバットとスモールスパイダー1匹はハルが倒し、残りは俺が倒した。

結果、拳闘士はレベル5まで上がり、【拳攻撃】のスキルと、【物攻強化(微)】のスキルを手に入れた。

無職レベルは1だけ上がって56、見習い魔術師は14レベル、剣士は13レベルまで上がったがスキルは覚えなかった。

明らかに成長速度が下がっている。上位職だからというのもあるだろうが、見習い魔術師はどうもレベルが上がりにくい。

「遅くなったなぁ。マーガレットさんの所に戻るか」

夕食はあるかな。一応、作っておいてくれるとは言っていたから、何も買って帰らなくてもいいか。

「まだ夜の7時くらいですから、ちょうど店じまいの時間ですね」

「時間がわかるのか?」

「日中は太陽の位置で、夜は月や星の位置で大体はわかります」

「凄いな」

俺は、大通りにも人がそれなりにいるから、深夜ではないということくらいしかわからなかった。

歩いてマーガレットさんの店に向かうと、本当にちょうど店じまいをしているところだった。

「マーガレットさん、ただいま」

「あら、イチ君、ハルちゃん……ふふふ、その様子だとうまくいったのね」

「はい、ちょっと迷宮に潜ってきました」

「え……そのカッコウで行ったの? イチ君はいいけど、ハルちゃん、普段着じゃない」

マーガレットさんが驚いたように言う。

うん、俺も鎧とか買おうか? って言ったんだけど、動きにくいからこのままのほうがいいって言われたんだよ。

「この方が動きやすいので」

「ダメよ、女の子なんだから、私みたいに仕事用の服と普段着とはきっちり分けておかないと」

……マーガレットさん、普段着と仕事着別だっけ? 興味ないから全然気付かなかった。

今はショートパンツにシャツだけれど、普段はフリルのスカート……ダメだ、思い出したらダメだ。気分が悪くなる。

そうか、無意識に見ないようにしていたのか。

「イチ君、ここは男の甲斐性を見せるところじゃないかしら?」

「……はい、えっと、100センス程度でハルの戦闘用の服を――」

「戦闘用の服なら、もう少し値段がするわよ」

「じゃあ、1000センスまでならいいです。お願いします」

「はい、ありがとうね、イチ君……ふふふ、ハルちゃん、あなたにピッタリの服を見繕ってあげるわ」

「あの、私は別にこのままで構わないのですが――あの……」

ハルはマーガレットさんに引きずられて店内に入って行った。

うん、あぁなったらマーガレットさんを止めることはできない。

俺も店の中に入り、試着室の中の声に聞き耳を立てたい心境になりながらも、さらに奥に。

食卓に上がると、ノルンが料理の配膳をしていた。

「お帰りなさい、お兄さん。ハルさんを買うことができたのね」

「ただいま、ノルンさん。うん、おかげさまで」

俺も手伝おうか? と訊いたら、ノルンは首を横に振って、「今日は非番扱いになって暇だったから、これくらいさせて」と言ってきた。

なので、俺はとりあえず井戸で桶に水を汲み、それを持って部屋に戻り、鎧を脱いだ。

サイズもぴったりだし、軽いので着ている時は邪魔ということはないが、やっぱり脱ぐと解放感があるな。

シャツも脱ぎ、桶の水でタオルを湿らせてから絞り、汗を拭う。気持ちいいんだが、何か物足りない。

やっぱりシャワーが欲しいな。

井戸水で水浴びをするか。

いや、やっぱりこの時期だと寒いしな。

くしゃみが出そうになったのにくしゃみが出ない切なさを噛みしめながら、新しいシャツを着て鎧の手入れをする。

ダメージはほとんど受けていないが、前の持ち主の時からあるのだろう、細かい傷がある。鋼鉄の剣を残してくれた、マーガレットさんの元相棒さんへの礼にと、丁寧に鎧を磨いていると、階下から食事ができたというノルンの声が聞こえてきた。

降りると既にマーガレットさんとハルが席についていて、ノルンがハルの横の俺の席に料理を置いた。

マーガレットさんに服の代金を聞くと、700センスと言ってくれたが、ハルに本当の値段を言うようにいうと、750センスです、と応えたので、800センス支払った。多いのは下宿代だ。

多すぎると言ってくれたが、俺が無理にでも受け取らせると、マーガレットはきっちり銀貨8枚を受け取ってくれた。

そして、俺も席につく。今日は焼き魚と芋のソテーだ。

ナイフとフォークが置いてあり、真ん中にはバターの入った瓶がある。

「では、食べましょうか」

マーガレットさんの声で、俺達は食事を始めた。

バターは芋に塗るために用意されているらしく、俺もノルンやマーガレットさんに倣ってバターナイフで芋にバターをつけて食べた。

バターはそこそこ高級な食材らしく、ハルは最初は遠慮していたが、マーガレットさんのすすめで雀の涙ほどではあるが、バターを掬い、芋に塗って食べていた。

「そういえば、お兄さんはいつまでこの町にいるの?」

「んー、そろそろ南のベラスラの町に向かおうと思っています」

トレールールに会うように暗にすすめられた気がするからな。

「ベラスラなら、明日の夕方から馬車が出て、次は一週間後ね。歩いてもいけるけど、3日ほどかかるわよ」

「……え、そうなんだ。じゃあ明日出ることになるかもしれません……ハル、構わないか?」

「はい、ご主人様が進む道が私の進む道ですから」

くぅ、いいことを言ってくれる。

「そうなの……寂しくなるわね。いつでも戻ってきていいのよ。あと、お弁当を作っておくから、馬車に届けるわ」

「ありがとうございます」

こうして、俺にとってフロアランス最後の夜が更けていく。いや、最後じゃない、また絶対に遊びに来よう。

そう誓って。

その前に、この町でしないといけないことが一つ残っているが。

部屋に戻り、ベッドに横になって天井を見上げる。

ランプは消しているので、窓からの月明かりのみが光源となっているが、それでもそこそこ明るい。

しばらくしていると、扉がノックされた。

「……ご主人様、もうお休みですか?」

ハルだ。俺はまだ起きていることを彼女に告げると、扉を開けて入ってきた。

月明りに照らされる白色の髪がとても美しく幻想的だ。

「……あの、ご主人様……迷宮のボス部屋の前でのことなんですが」

「あ……あぁ」

「お腹を触ってもらうところから意識を失ってしまっていて……その、続きを……続きをここでしていただきたいんですが」

「つ、続き?」

ハルは艶めかしい声で言った。

「忠義の誓い……です……あの、お腹を……撫でてください。ご主人様が望まれるのでしたら、その続きも……」

「続き……って?」

「男女の契りを……白狼族は満月の夜にしか子を身籠りませんから、今日なら問題はありません」

……いいんですか?

え?

俺、DT卒業?