軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ピオニアの妹

朝早く、船をこっそりとデイジマの西海岸につける。このあたりは岸壁になっていて波も荒く、人も漁船も滅多に近づかないのだとか。岩の裏に船を隠し、上陸し、近くの洞窟へと移動する。

ダンジョンではないので中は薄暗い。

取引場所はここではないが、ここでひとまず物資を揚げるらしい。

密輸団たちが物資を揚げていく間、俺たちは洞窟の中にある部屋へと案内された。部屋といっても煎餅布団が敷かれているだけの汚い空間という感じで、一応扉はついているが鍵はない。

「凄いな、 浄化(クリーン) を使っても汚れが全然取れないぞ」

黴の臭いはなくなったが、茶色い布地は変わらない。

「多分、最初からそういう色だったんだと思うよ。流石にこういうのは元日本人には辛いね」

鈴木もため息をついていたが、俺ほどつらそうには見えない。この世界でいろいろと経験してきた差だろう。

なんだかんだ言って、俺は野宿も数えるほどしかしていないし、さっき使ったように 浄化(クリーン) もあるからな。

「じゃあ、とりあえず交代で休もうか。そうだね、お互い休憩中、部屋には誰も入れないって方向でいこう」

当たり前のように妙な条件を書き足す鈴木。

……ふぅ。

「ティッシュBOXいるか? 十箱ほど。この世界の紙は硬いだろ」

ミリが買っておいてくれた二百組四百枚入りのティッシュBOXをアイテムバッグから出して尋ねると、鈴木は珍しく狼狽した。

「ん……うん、ありがとう。助かるよ」

とティッシュを受け取った。DT勇者は素直だな。

流石に鞄の中にエロ本はなかったけれど、しかしきわどい描写のある漫画が何冊かあったので、鈴木に渡しておく。

そのお礼かどうかはわからないが、俺が先に休んでいいということになった。

休憩時間はそれぞれ三時間ずつということなので、俺はとりあえずマイワールドに移動することにする。

船の中にいる間はピオニアとシーナ三号の様子を見ることができなかったからな。

マイワールドに移動すると、マイワールドは大きく様変わりしていた。

大きな山ができていたのだ。

「マスター、お帰りなさいませ」

いつも通り抑揚のない声でピオニアが出迎えた。

「ピオニア、あの山はなんだ?」

「銀鉱山です」

「銀鉱山?」

なんでも、キャロから、最近銀の価値が上がっているので銀鉱山を作ってはどうかと打診があったらしい。

「既に五百キロ程採掘しています」

「……あぁ、ありがとう」

鉱石とはいえ五百キロってすごいな。久しぶりに錬金術で精製しないといけないだろう。

そうだ、どうせなら鍛冶スキルを使って銀細工などを作ってもいいな。

鍛冶師のレベルも上がり、銀や金くらいならば加工品を作れるようになっている。

さすがにミスリルまでは加工できないので、フロアランスの盗賊から奪ったミスリルはまだアイテムバッグの肥やしだ。

「マスター、ではボーナスが欲しいのですが」

「ボーナス? 魔力でも欲しいのか? わかった、背中を出してみろ」

「否定します。魔力はボーナスではなく給料のようなものです。ボーナスというのは別です」

「別?」

へぇ、ピオニアがそういう望みを言うのは珍しいな。

まぁ、これまでも口には出さないまでもいろいろなものを欲してはいたから、然程は驚かないが。

「何が欲しいんだ?」

「妹が欲しいです」

「ぶほっ」

思わず何も飲んでいないのにむせてしまった。

妹が欲しいって、どういうことだ?

まさか、俺とハルとの間に子供を作れと遠回しに言っているのか?

だ、だめだ、それはまだ早い。

一応、ハルとする時も避妊だけはしっかりしているんだから。

「マスター、何を勘違いしているのですか? ホムンクルスを作ってくださいと言っているのです」

「へ? ホムンクルス?」

「肯定します。以前、マスターは女神トレールール様からホムンクルスの種子をいただいているはずです」

「ん? あぁ、あれか」

そう言えばすっかり忘れていた。

俺は以前、女神トレールール様から、三本の試験管を受け取った。

そのうち、一本の試験管の中に入っていた小さな卵から生まれたのが、このピオニアだ。

そして、試験管はあと二本残っている。

「必要なのか?」

「肯定します。造船所での船造り、酒造と温泉設備の管理、畑作業、鉱山採掘作業、フユンの世話とひとりで行うにはそろそろ 容量(キヤパ) が限界になりつつあります」

そうか。でも、それならばシーナ三号を暇なときに手伝わせればなんとかなるんじゃないか? と思ったが、

「そのうえ、シーナ三号なる新参者の管理まで命令されれば、私の 容量(キヤパ) は限界を超えてしまいます。彼女によって鉱山が一度落盤し、生き埋めになるところでした」

シーナ三号の存在はプラスではなく、マイナスだった。あいつ、一応何十年もの間、人工迷宮をひとりで管理してきたはずなのに、そんなに使えないのか?

いや、ピオニアとシーナ三号の相性が悪いのかもしれない。

ホムンクルスと 機械人形(オートマター) 、似て非なる物であるということか。

しかし、ホムンクルスをもう一体か。

またこいつみたいな奴が現れるのかと思うと、少しぞっとするな。

でも、確かにピオニアにこれまで仕事を押し付け過ぎていたという点は反省しないといけないかもしれない。

「よし、わかった」

まぁ、ホムンクルスをもう一体用意すれば、俺がいない間もピオニアが退屈することはないだろう。

俺はアイテムバッグの中から試験管を一本取り出した。

そして、蓋を開けて、中に入っている卵を落とす。

久しぶりだな、この感覚も。

あれ? 何か忘れているような?

草地の上に落ちた卵はみるみる膨らんでいく。

「あ、思い出した、まずいっ!」

気付いた時にはもう手遅れだった。

成長していったその卵は、緑の長髪に猫目の少女の姿になった。ただし、首より下はピオニアとほとんど変わらない外見だった。そして、ピオニアと初めて会った時と同じく素っ裸だった。

と思ったら、そのホムンクルス(裸)はいきなり俺にキスをしてきたのだった。