軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

眠れぬ夜

ガガリアの町に向かう途中、夜が来た。

砂漠の夜は冷え込むというが、それほど寒さはない。

今日は砂漠の真ん中で野宿をする事にした。

たき火を用意し、この国に来る途中に釣り上げた魚を捌き、焼いて食べた。

(……淡白すぎてあまりうまい魚じゃないな。塩だけじゃきついか)

調理し直そうかと思ってシュメイを見た。

「とても美味しいです、イチノジョウ様。ありがとうございます、貴重な塩まで使って頂いて」

「……そうか。それはよかったよ」

おそらく本心ではないだろう。棒に突き刺さった焼き魚にかぶりついたときのシュメイの表情を俺は見逃さなかった。

しかし、彼女は俺の好意に応えようと、そして砂漠越えのための体力をつけようと本心を偽って魚を食べている。

(いい子だな……貴族のような驕りもなく……)

俺は自分の魚を見てもう一度かぶりついた。

いい子だけど、シュメイをマイワールドの中に入れるつもりはない。

ミリのアイテムバッグのなかに入っていたテントを張る。

「変わった布のテントですね。とても丈夫そうです」

シュメイが黄色いテントを触って言った。化学繊維のテントなんてこの世界にはないだろうからな。いや、飛空艇を作り出したダイジロウさんなら、化学繊維の布くらい作っているかもしれないけれど。

「シュメイはこの中で寝ていていいよ」

「しかし、それではイチノジョウ様に悪いです。せめて見張りだけでも」

「シュメイは夜目が利くほうなのか? それとも気配探知のスキルがあるのか?」

「……いいえ、どちらもありません」

「なら俺に任せておいてくれ」

俺はたき火に薪をくべながら言った。シュメイは申し訳なさそうな顔をしたが、自分が起きていても役に立たないことを理解し、テントの中に入っていった。

たき火から、薪が弾ける音が聞こえてくる。

気配探知スキルは、テントの中のシュメイしか捉えていない。

そして、そのテントの中の気配は時折僅かに動く。

寝相が悪いのではなく、寝付けないんだろうな。

慣れない野宿の上に、傍には今日出会ったばかりの男がいる。

そんな状況で熟睡できるわけがない。

でも、彼女には申し訳ないが、俺は彼女がいてよかったと思っている。

ひとりで旅を続けるのは寂しすぎると思ってたところだからな。

そして、同時に俺はこれまでどれだけハルたちに救われていたのかを再認識した。

俺はハルたちと別れたあの日のことを、夜警をしながら思い出した。

ポートコベでのあの日のことを。

※※※

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

ポートコベに戻った俺たちは、冒険者ギルドに向かい、依頼者である女の子に硬化病の特効薬を手渡した。

そして、少女からお金を受け取る。

俺としてはお金に困ってはいないのだが、これは彼女にとっての精一杯の好意であり、無碍にするのも失礼だろう。

本当にいつの間に……と思う。ミリが残したアイテムバッグの中に、キリリ草を素に作った薬が、丁寧にも飲み方を書いた処方箋付きで入っていた。何故か百人分くらい。

「早くお母さんを治しておいで。あと、さっきも言ったけれど、薬は直ぐには効果が出ないけれど、でも朝起きてすぐ、お昼、夕方の三回に分けて飲んだら三日くらいで効果が出てくる。でも、一週間きっちり薬を飲み続けないとダメだよ」

「はい、ありがとうございます」

少女はそう言って頭を大きく下げると、小走りで出ていった。

「ご主人様……」

ハルが俺の横に立ち、何か言おうとする。

「あぁ、ハル。頼む。ただし、無茶はするなよ」

冒険者ギルドの中にいた男たちが、俺が薬を少女に手渡している様子をじっと見ていて、少女が立ち去ったのを見て静かに席を立った。

恐らく、少女から薬を横取りするつもりだろう。

俺の言葉にハルは頷き、男たちの後を追った。

まぁ、あの男たちのうち、ひとりの職業が【盗賊:Lv13】になっていなかったら完全にスルーしていたかもしれないが。

本当に、盗賊って奴はどこにでもいるんだな。どうやって町に入るのだろうか?

そのあたりは彼女が知っているかもしれない。ハルと入れ替わりに、キャロが情報収集から戻ってきた。

「イチノ様、ただいま戻りました」

「おかえり、キャロ」

俺たちは受付嬢さんに頼んで個室を借りて、そちらへ移動した。

個室は冒険者じゃないと借りることができない決まりらしいのだが、ミリのことを覚えていたようで、ミリの付き人ということで手続きをしてくれた。個室の利用についてはかなり融通が利くらしい。

「ハルさんが出ていきましたが、どちらへ?」

「ちょっと依頼人の護衛だよ。直ぐに戻ると思う……それよりどうだった?」

「なるほど、そういうことですか。イチノ様、定期船は来週まで出ないそうです。それと、個人船舶で南大陸に行くのは情勢的に危ないでしょう。現在、南大陸は情勢に不安な部分があります。イチノ様が襲ってくる軍船を全て魔法で薙ぎ払う……というのなら可能ですが」

「……さすがにそれはしたくないな」

可能か不可能かでいえば可能だろうが、しかし、それでハルたちを危険にさらすことはできない。

一刻でも早くダイジロウさんとミリを追いたいのだが、来週まで待つしかないのか。

「それとは別にひとつだけ南大陸に向かう方法があります」

「本当か?」

「はい……こちらも少し危険な方法なのですが。交易船の護衛として雇ってもらうという方法があります」

交易船の護衛?

たしかにそれなら南大陸に渡れそうだが、そういう仕事って冒険者ギルド経由で請け負うものじゃないか?

冒険者ではない俺が受けられるだろうか?

それともハルに代わりに受けてもらうのか?

そう思っていたら、キャロが小さな声で言う。

「ただ、その交易船というのが密輸船なのです」

「――っ!? 沈黙の部屋(サイレントルーム) 」

驚いて叫びそうになったが咄嗟に声を飲み込み、密談に適した 沈黙の部屋(サイレントルーム) の魔法を使った。

「密輸だってっ!?」

「はい、この時期はシジモンエビの漁のため、海賊たちも漁場の護衛につき、普段なら海賊たちに護衛を依頼している交易船は出ません。そのことを南大陸の国も知っているため、外洋の警備が手薄になります。その隙をついて、密輸が行われています」

「……密輸の手助けをするのはな」

海賊の手伝いをしたことはあったが、あれは海賊たちが初犯であったのと、更生の余地があったからだ。

あの中に職業が盗賊堕ちしている者がひとりでもいれば俺は絶対に手伝わなかった。

しかし、今回の場合は事情が異なる。話を聞く限り随分と手慣れた密輸団のようだ。

「いえ、逆です。密輸を摘発するため、潜入調査を行うという情報を入手しました。イチノ様にはそこに参加していただければと」

「いやいや、それこそ無理だろ。潜入調査なんて俺のような一般人に任せられるはずないだろ?」

「イチノ様なら大丈夫だと思います。というのも、既に内定している調査員のひとりが、スズキ様なのですから」

「スズキって、あの鈴木かっ!?」

鈴木――DT勇者鈴木。

かつて俺がダキャットの国で出会った日本人だ。

自らを勇者と名乗っている聖騎士の男で、美少女三人とともに旅をしているリア充野郎……と思ったが、実際のところは三人と旅をしているにも関わらず、諸事情から三人の誰にも手を出すことが許されない生殺し状態になっている男だ。

てっきりフェルイトの土砂撤去を手伝っているかと思っていたが、もうこの町に来ていたのか。

今の時期どうやってポートサカイからポートコベに渡って来たんだ? とも思ったが、あいつにはワイバーンのポチがいるからな。こっそりポートコベの近くの海岸に移動することも可能だろう。

「鈴木のいる場所はわかってるか?」

「はい、幸い、ここから近い宿にひとりでお泊まりです」

仲間とは別行動をとっているのか。

「ハルが帰ってきたら直ぐに――いや、直ぐには無理か。荷物を取りに戻っているマリナとノルンを待たないといけないし、それに――」

沈黙の部屋(サイレントルーム) を解除し、部屋の外に出ると気絶した男ふたりを引きずってやってきたハルがいた。

事情聴取もあるから少し時間がかかりそうだ。

ハルが、気を失った男ふたりを引きずって冒険者ギルドに戻ってきた。

事情聴取に、果たしてどれだけ時間がかかるだろうか?