軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 ガリソンの冒険日誌③

初級迷宮の二階層にひとりで入るのは初めてのことだ。

冒険者の間ではこういう言葉がある。

『迷宮の一階層と二階層は全くの別物である』

迷宮の一階層というのは、迷宮の中でも弱い魔物がいる。

一階層の魔物と二対一で戦い勝てるようならば、二階層の魔物でも一対一なら戦えると言われる。

つまり、二階層の魔物一匹と、一階層の魔物二匹が戦えば互角の戦いをするということだ。

それは、単純に二階層の敵が一階層の敵の二倍強いという意味ではない。

迷宮二階層にいる魔物は大蝙蝠と呼ばれる魔物だ。天井にぶら下がっているので油断したら真上から襲われる恐れがある。

また、その素早い動きによる体当たりは、牧場で羊にぶつかられた時並みに強烈で、鉄の鎧を着ていても軽くへこんでしまうと言われている。

しかし、幸いにもこっちはリーチの長い槍を使っている、天井からの攻撃にさえ気をつけていればやられることはない。

(いまはツルハシだけどな)

とその時、何かを踏んだ。

上ばかり見ていたせいで足下がお留守になっていたようだ。

なんだ? と足下を見てみると、そこにあったのは石の欠片だった。

普通の洞窟で石が落ちているとしたら、それは大した問題ではない。

だが、迷宮の中ではそうではい。

迷宮の中に落ちている非生物の物体は、特別な液体を塗った布を敷かないかぎり迷宮に吸収されてしまう。このような石でも例外ではない。

物によって吸収される時間は異なるが、こんな石なら数時間で消えるだろう。

「ジョフレの奴だな」

さては、あいつ。道標代わりに石を置いていったんだな。

確かに数時間程度で戻るつもりなら、こんな石を置くというのも間違っていない。

採石場で働いていたんだ。こんな屑石ならいくらでも手に入っただろう。

あいつもいろいろと考えているんだな――。

俺がジョフレを見直そうとしたときだった。

視界の端に、動く影を見つけた。

慌てて上を見ると、大蝙蝠が俺目掛けて襲い掛かってきた。

「――っ!」

声にもならない叫び声とともにツルハシを突き出す。

大蝙蝠の口の中に俺のツルハシが吸い込まれていくようだった。

あっという間に大蝙蝠の串焼きの下拵えが終わったようだった。

これが地上の魔物だったら処理に困っただろうが、絶命した大蝙蝠は煙のように消え去り、大蝙蝠の牙と魔石が残った。大蝙蝠の牙は売り物にはならないので魔石だけ拾って息をつくと、俺は一安心して大声で叫んだ。

「やっぱりあいつバカだろっ!」

なんで天井に注意しないといけないこんな迷宮でわざわざ足下に注意をしないといけない道標を置くんだよっ!

いや、まぁジョフレとエリーズはふたりで一組だ。ひとりが足下に注意を、ひとりが天井に注意をと役割分担は可能だろうが、しかし目印を残すなら――と俺はジョフレが落としていった石を拾い上げた。

これは石灰石だから壁にこすりつけるだけで簡単に目印を書くことができる。

この目印も数時間したら消えてしまうけれど、石を置く目印よりはマシだろう。

ちなみに、さっき言っていた特殊な液体を石灰の粉と混ぜれば、迷宮で書いても消えないインクが完成するわけだが、しかし教会が管理する迷宮に落書きをするのは犯罪行為なので、当然そんなものを持ち歩いてはいないが。

しかし、まぁ手掛かりがあるだけマシか。

「それにしても、あいつらここをよくもまぁ無事に通り抜けたよな」

この先の三階層はゴブリンの巣窟だ。

低レベルの見習い剣士だとけっこうきついぞ。

※※※

「まだ下なのか、さすがにきついぞ」

ゴブリンの群れにもみくちゃにされながら三階層を突き進む。

「ん?」

またジョフレが落としていった石を見つけたが――しかし妙だった。

そこにあるのは行き止まりだった。

「まったく、落としていったのなら回収しろよ」

俺は落ちていた石を拾い上げると、むかついたので思いっきり壁に放り投げた。

そしてその石は壁にぶつかって跳ね返る――ことはなく、そのまま壁の中に吸い込まれていった。

幻想壁っ!?

迷宮の中には壁があるように見えて実は通り抜けられる場所があると聞いたことがあるが、実際に見るのは初めてだ。

そもそも、ゴブリンが多い場所でわざわざ自ら袋小路になるような場所に入り込む人間はいない。そのため、誰もあの壁には近づかなかったんだろう。

いや、言い方をかえよう。

ゴブリンが多い場所でわざわざ自ら袋小路になるような場所に入り込む人間はバカくらいだ。

「ジョフレ、エリーズ、そこにいるのか!?」

俺が幻想壁に向かって叫ぶ。

「ん? その声はガリソンっ! ここにいるぞ」

「ここにいるよ、ガリソンっ!」

返事が来た。

よかった、どうやら無事のようだ。

一応罠も警戒しながら、幻想壁の向こうにいく。

そこは小部屋のような空間になっていて、魔物はいない。

さらに奥の部屋に行くと、ジョフレとエリーズが壁の隅で蹲って何かを見ていた。

「ジョフレ、エリーズ、お前等何してるんだ?」

「ガリソン、物凄いものを発見したんだ」

ジョフレが言う。

物凄いもの?

もしかして、お宝かっ!? だったら持って帰ってカチューシャちゃんにプレゼントしなくては。

「何もないじゃないか」

そこにはなにもない。

俺はため息まじりに壁にもたれかかった。

その時だ――壁のでっぱりが壁の中に吸い込まれていく。

何かのスイッチだったようだ。と気付いたときにはもう遅い。

「あ、ガリソン。そのスイッチ落とし穴のスイッチだから気をつけてね」

エリーズの忠告は一秒遅かった。

俺の足元の床がぱっかりと開き、三人揃って奈落の底へと落ちていった。