軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 ガリソンの冒険日誌②

というわけで、何故かツルハシと縫い針で初心者用のダンジョンに向かう事になった。

一応、冒険者ギルドで首輪も買っておく。

ちなみに、ツルハシは武器としては剣の部類に入る。俺は見習い槍士になる前に見習い剣士としてレベルを上げているので、剣装備のスキルを持っている。剣装備スキルがなければツルハシをまともに振るう事もできないからな。

「――ん?」

大通りを歩いていると、珍しい女性を見つけ、俺は思わず振り返った。

そこにいたのは、白い髪に犬耳――いや、狼耳の少女だった。

(白狼族か……マティアスの旦那と一緒にいたということは奴隷だな)

魔王が死んで十年。

白狼族への差別もだいぶ少なくなった。白狼族という種族は、魔族との戦いのときに二手に分かれた。一方は勇者とともに戦う部族、そしてもう一方は魔王とともに戦う部族だ。

戦いの後、魔王側についた白狼族はよくて奴隷堕ち。最悪処刑となった。中には奴隷となったあと、主人の恩情により解放されたものもいると聞くが、大半は死ぬまで奴隷から解放されることはないだろう。

(せめていい主人に買ってもらえよ)

俺には奴隷を買う余裕はないからな。

「ガリソン、どうしたんだ?」

かなり先に行ってしまったらしいジョフレが、振り向いて大きな声で言った。

俺は叫び返すのが面倒で、ゆっくりと歩いてジョフレとエリーズに追いつくと、

「お前らは能天気でいいよなって思っただけだよ」

と俺は少し疲れた口調で言う。

「おう、ありがとうな、ガリソン」

「ありがとうね、ガリソン」

皮肉の通じない奴らだ。

初心者用の迷宮の入り口は、自警団の男が見張っていたので、軽く会釈だけする。

そして、俺たちは初心者用迷宮の一階層にやってきた。

「俺たちはまだレベルが低いからな。せめてゴブリンキングと会うまでにあとレベルを1は上げたいが」

そう言って振り返ると――そこには誰もいなかった。

「……は?」

迷宮に入って体感時間で三分。何故迷子になる?

俺はとりあえず急いで迷宮の外に出て、自警団の男にジョフレとエリーズが迷宮から出てきていないか尋ねた。彼が言うにはジョフレとエリーズは確かに俺と一緒に迷宮の中に入って、そしてまだ出てきていないとのこと。

となれば、階段を下りて最初の別れ道を右ではなく左に進んだということになる。もしくは秘密の隠し通路を見つけてそこに進んだということだ。当然ながら調べ尽くされている一階層にそのような隠し通路がある確率は天文学的なものである。五階層より下ならばそんな場所があるかもしれないが。

もしもジョフレとエリーズが帰ってきたら、詰所で保護してもらうように頼んだ俺は、ジョフレたちが向かったと思われる方へと進む。

しかし、すぐに分岐点に行き当たる。

あいつらがどちらに向かって進んだのか見当がつくわけがない。たとえ見当がついたとしても、奴らはその見当とは正反対の方向に進む奴らだ。

いっそのこと、見捨てていこうかとも思うが、

――ダメだ、奴らを見捨てるとするのなら死ぬところまで見届けないと安心できない!

死んだと思って放置して、一週間後にあいつらが生きていることがわかった時、必ず何らかの問題を起こしているだろうし、その時に尻ぬぐいをさせられるのは俺だ。

俺は必死になってジョフレとエリーズを探した。

そして見つけたのは――

「コボルトかっ!」

二足歩行で歩く、人間より僅かに小さな犬のような魔物。低レベルの魔物ではあるが、戦闘職以外の、それこそ平民などからしたら脅威となる魔物だ。その速度は一般的な平民よりも高く、追いかけられたら逃げるのは困難。見習い槍士の俺でも背中を見せて逃げ出したら追いつかれる可能性は高い。

となれば、やる事はひとつ。先手必勝っ!

俺は自分の首に首輪を着けていることを確認した。

コボルトの武器は持っていても木の棒や落ちている石程度。また、俊敏性は高いが回避能力が優れているわけではないので、剣や俺の持っているツルハシのような武器があれば一対一だとまず負けることはない。仮に噛みつかれても、コボルトが噛みついてくるのは腕か肩、首。首を守るための首輪があれば即死することはなく、冷静に対処すれば後手に回っても倒せる。

そのため、コボルトが多い迷宮では俺のように首輪をするのが普通だ。

俺はツルハシを思いっきり振り上げ、そして迫りくるコボルトの頭の上に振り下ろした。

頭蓋骨を砕く感触が柄から腕に伝わってくる――この感触は何度味わっても嫌なものだが、しかし安堵も同時にもたらしてくれる。この手応えを感じたら確実に魔物を仕留めた証拠だ。

「レベルは……上がってないようだな」

そう簡単にレベルは上がらない。

それはわかっているが、そろそろ強くなりたい。

死んだコボルトの体が、俺にかかった返り血とともに消え失せ、足元に小さな紫色の魔石だけが残った。

なめした革の袋に魔石を入れる。

コボルトがいたということは、この先にジョフレとエリーズは行っていないようだな。流石にコボルトがいる道を素通りしたとは考えられない――そう思ったら、向こうから足音が近づいてきた。

もしかして、ジョフレとエリーズか? と思ったが、違った。

「ん? あぁ、ノルンちゃんか」

褐色肌に青く短い髪の少女だった。迷宮の中で何度か会ったことがある。

「ひとり?」

「はい、自警団の研修なんですよ」

「あぁ、そういえばノルンちゃんは自警団に入るんだったね」

自警団には強さも求められる。素振りでも見習い剣士や見習い槍士のレベルは上がるが、魔物を倒したほうが効率はいい。そのため、自警団は三日に一度は迷宮の中で見回りをしながらレベルを上げる。

ちなみに、自警団の一年目での迷宮索敵は研修扱いになり、給料が半分しか出ない。やっていることは通常業務の迷宮の見回りと変わらないのに。

「ガリソンさんこそひとりなのは珍しいですね。ジョフレさんとエリーズさんも迷宮に来ていましたよ」

「見たのっ!?」

「はい、この先の二階層への階段を談笑しながら下りて行かれました」

「本当にっ!? ありがとうっ!」

俺は礼を言うと急いで走り出した。

あの馬鹿たち、なんで二階層に行くんだよ。

俺がいなくなったことに気付いていないのかっ!?