軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミリの正体を知る時

最初にその異変に気付いたのはカノンだった。そして、ほぼ同時にハルワタートも動く。

カノンがマリナの前に立ち障壁を展開させ、ハルワタートはキャロルを抱きあげた。

次の瞬間、マリナ、ハルワタート、キャロルに無数の闇の剣が降り注いだ。

闇の剣がカノンの障壁に突き刺さっていく。そして、ハルワタートはキャロルを抱いたまま素早い動きで闇の剣を鋭敏な動きで躱していく。

闇の剣が尽きると同時に、カノンが作り出した障壁はガラスのように音を立てて割れた。

ハルワタートが剣を飛んできた方を見て、

「何者ですかっ!?」

と叫び、気付いた。

そこに誰がいるのかを。

「ミリ……様? いったいどうして……」

ハルワタートが見つけたのは、イチノジョウの妹のミリだった。

ミリはイチノジョウと一緒にいた時の表情とは異なり、冷淡な顔でハルワタートたちを見ていた。

「ひとりくらい殺せるかと思ったけど、邪魔したわね、カノン」

ミリがカノンを睨み付ける。

カノンは軽く舌を出してふざけた感じで笑っていた。しかし、その目は真剣そのものだ。

「えぇと、ミリ様。マリナは私の友達なんで、殺さないでくれると助かるんだけど」

「そうなの。それで?」

「ええと――私が相手するのは別の子にしてくれると助かるかな」

「……わかったわ。カノンはノルンが邪魔しないようにしなさい」

ミリがそう言うと、カノンの首の黒い首輪が煌いた。

と同時に、カノンはもう何も隠す必要がないと悟ったのか、その角と翼を現した。

「カノンさん……それは――悪魔の角と翼ですか?」

ハルワタートに抱えられたキャロルがカノンを見て言った。

「そういうこと。マリナには前に言ったけど、私は悪魔族でね――ははっ、それでいまはミリ様の忠実な 僕(しもべ) ってわけなの」

マリナはカノンが悪魔だということを知っていたため、角と翼については驚かない。

だが、ミリの僕ということに驚いた。

「じゃあ、ノルン、行きましょうか」

カノンはそう言うと、

「えっ!? カノンさんっ!? キャァァァァっ!」

ノルンはカノンに抱えられ、遥か彼方へと飛んでいく。

その前に、

「マリナ、しっかりね」

とマリナを励まして。

事情が呑み込めない。

ハルワタートもキャロルもマリナも、一体何が起こっているのかわからない。

目の前のミリは、イチノジョウの妹であり、敵ではないはずだった。そのはずなのに、どうして自分達が襲われているのかわからない。

だが、彼女だけは違った。

「考えるのは後です、マスター方っ! 彼女は皆さんに敵意を持っていますっ!」

ピオニアはそう言って自分の手を縄へと変形させた。

「ひとまず捕縛するべきでしょうっ!」

ピオニアの腕が変形した縄がミリに迫る――が、次の瞬間、その縄は一瞬にして輪切りになった。

「ピオニアさん、邪魔はさせません」

「シーナさん。あなたですか」

シーナの腕から剣が生えている。

「ホムンクルスと 機械人形(オートマタ) 。どちらが強いか勝負というわけですね」

「勝ち負けなんて興味ありません。私は時間を稼いでグランドマスターに認めてもらい、有給休暇を貰うのです」

ミリを相手にしたときのシーナの苦労が滲み出る台詞である。

シーナとピオニアの戦いがはじまり、その戦いの場所は徐々に移動していく。

「さて、じゃああなたたち三人は私ひとりで相手しないといけないのね。まぁ、最初からそのつもりだったけど――」

「ま、待ってくださいっ! いったい、何故こんなことを」

「そんなの決まってるでしょっ! あなたたちがおにいに甘えているからよっ!」

ミリはそう言うと魔法を唱えた。

「 暗殺者の操り人形(アサシンマリオネット) 」

ミリの体から伸びた闇の糸が、ミリ自身の体に纏わりついた。

「 暗殺者の操り人形(アサシンマリオネット) !?」

ハルワタートが声をあげる。

マリナは仮面を取り出して顔につけると、風の弓を持って尋ねる。

「 暗殺者の操り人形(アサシンマリオネット) ……一体どのような魔法なのだ?」

「他者を意のままに操る魔法です――かつて魔王様が得意な魔法でした」

「え? でも自分に使っていますよね」

キャロルが尋ねた。

「自分に使う事で、肉体の限界を超えた動きをすることが可能になるんです――勿論、肉体への負担はかなりのものですが――」

「 闇の剣(ダークソード) 」

ミリが魔法を唱えると、今度は闇の剣を両手に生み出した。

ミリは剣士ではないので剣のスキルは使えない。だが、闇魔法を極めているミリが生み出した闇の剣の力は、剣士のスキルをも凌駕する。

「 闇の剣衝撃(ダークスラッシュ) 」

ミリが剣を振るうと、黒く染まった視認可能な衝撃波がハルワタートへと迫った。

ハルワタートはキャロルを抱えたまま体を横にして躱すが、キャロルのことを庇うため彼女の持ち味であるはずの紙一重で攻撃を躱すという動きができない。当然、大振りで攻撃を躱すと隙が生まれる。

いつの間にかミリがハルワタートの眼前に迫っていた。

ミリの闇の剣がハルワタートへと振るわれる。

ハルワタートは眼前に迫る刃を目に、キャロルに謝った。

彼女はそのままキャロルを地面に落とすと、腰にある火竜の牙とショートソードを抜いて闇の剣を受け止めた。

そして、ハルワタートは見た。

ミリの背後から風の矢で狙うマリーナの姿を。

ミリからは完全な死角となるマリーナの動きに、卑怯ではあるがこれで動きを止められると思った。

次の瞬間、フェンリルの巨体がマリーナにぶつかるまでは。風の弓が飛んでいくのを見て、

「マリーナさんっ!」

ハルワタートが声をあげた。

だが、マリーナは無事だった。いつの間にかフェンリルのその体にしがみつくと、その背の上に乗っていた。

「大丈夫だ、目の前の相手に集中しろっ!」

まるで暴れ馬のように跳ね回るフェンリルの背を掴みながらマリーナが言った。

だが、あれだけ暴れられたらいつか振り落とされる。

「ミリちゃん、どういう目的があるかわからないけど、ひとつだけ教えて――ご主人様は無事なのですね」

「ええ、私がおにいを傷つけるわけないでしょ。おにいは私が女同士で話し合いたいって言ったら笑って見送ってくれたわよ」

「そうですか――それを聞いて安心しました」

ハルワタートがそう言った時、彼女の目が赤く染まった。

スキルを発動させたのだ。

獣の血――十分間だけ物理攻撃力と速度を劇的に上げるスキルである。ただし、十分経過したら一分間動けなくなるというデメリットもある。

「……速攻で終わらせま――」

ハルワタートが力を込めようとしたその時、ミリの足元から影が伸びた。

(マズイっ!)

キャロルが狙われると悟ったハルワタートは、大幅に上昇した速度で彼女を抱え上げると走って逃げた。

「すみません、ハルさん。私が足手纏いなばっかりに」

「気にしないでください――キャロの知識には私もご主人様もいつも感謝しています。適材適所です」

ハルワタートがそう言って逃げた先にいたのは、一頭の白馬――フユンだった。

「フユン、キャロを頼みますっ! できるだけ遠くに逃げなさいっ!」

フユンが嘶くと、キャロを乗せて走っていく。

そして、再度伸びてきた影を避けつつ、ハルワタートはミリに近付いた。

「強くなったわね、ハルワ」

「全てイチノジョウ様のお陰です」

「その強さがありながら、おにいの奴隷を続けるのは何故?」

ミリはそう言うと、その身に闇の鎧を纏っていく。

その姿を見て、ハルワタートの胸がドクンと高鳴った。

ミリの戦い方、そして、ハルワという呼称。

何より、一緒にいる時に感じるその気配。

「まさか……あなたは……」

「いくら体が強くなっても心は弱いままねっ!」

ミリはそう言うと、そのハルワタートに足払いをかけた。

体勢を崩したハルワタートの肩にミリの剣が突き刺さる。

「……もしかして、ファミリス様……なのですか?」

「ええ、あなたのことはよく覚えているわよ。私と一緒に寝たあなたがオネショした時、一緒にあなたのお父さんに謝ってあげたわよね。逆にあなたのお父さんが私に土下座して謝ってきちゃったっけ」

「そ……んな……」

「もしも私に今でも忠義を誓ってくれるのなら、その忠義を抱えて私のために死になさい、ハルワ」

ミリはそう言うと、ハルワタートに突き刺さる剣を捻ったのだった。

マイワールドに、ハルワタートの悲鳴が響き渡った。