軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拠点帰還

ミネルヴァ様がグラスに入ったラッシーをストローで吸う。

美味しそうに飲んでいるようには見えないが、ミリが言うにはこれでも喜んでいるそうだ。

なんでも、不味いものを食べたら、

「不味い、死のう」

と言って、自殺を始めるらしい。

そんなことで衝動的に自殺をするとか。ミリが、俺が自殺を止めようとするのを止める気持ちもわからなくもない。

なんでも、ミリが――前世のかぐやが死んだ時のミネルヴァとのやりとりも相当酷かったらしい。

「ここは? 私は死んだはずでは……」

「……五月蠅い……死のう」

「え、なんでいきなり死のうとしてるんですかっ! あの、あなたは誰ですか!?」

「――死んだらこんな面倒な質問に答えなくてもいいの。ふふふ――」

「せめて、ここがどこだか教えなさい」

「死んだらここがどこかなんて関係なくなるじゃない」

みたいな感じだったとか。

コショマーレ様はともかく、トレールール様は相当酷いと思ったが、ミネルヴァ様のほうが酷いんだな。

あ、でもしっかり薬学スキルを貰えたわけだし、それを考えるのなら適当に大道芸人にさせられたマリーナのほうが酷いか。

「ミネルヴァ、もういいでしょ」

「えっと、何だったかしら? かぐやちゃん」

「………………私たちがこの世界に転移する仕組みについて知っていることを聞きたいの」

「あぁ、そうだったわね。でも、私は知らないの」

ミネルヴァがそう言うと、

「《 暗黒の千なる剣(ダークサウザンドソード) 》」

ミリが魔法を唱えると、無数の闇の剣が現れた。

その剣は全てミネルヴァの方を向いている。

「ミリ、落ち着けって。ええと、ミネルヴァ様――それなら何か俺たちのためになるような話はありませんか? 世界の秘密とか、日本に戻る方法とか、あ、そうだ。メティアス様についてとか」

「メティアス。久しぶりに聞いたわ。ふふふふ。生命の女神――死の女神である私とは正反対の存在よね」

「いやいや、あなたは薬学の女神様でしょ」「あの子、今どこにいるのかしらね」

「……え?」

なんだ? 今の発言は?

「ちょっと待って。メティアスっていう女神はもう死んだんじゃないの?」

「死んでないわよ。そんなに簡単に死ねるくらいなら私もとっくに死んでるわ」

いや、あんたのは勝手に死のうとして死ぬのを躊躇しているだけだろ。

「いま、トレールールが探しているんだけどね。怒っていたわよ。あなたのせいでメティアスの痕跡を見つけてしまったから働かなくてはいけないようになったって。本当ね。あなた、つい最近メティアスに接触しているわ。でも、メティアスが復活したらどうなるのかしら。あの時みたいな――」

「あの時みたいなことは起こさせないわよっ!」

「……そうね。あの時はあなたも中心にいたものね。あぁ、そうそう。かぐやちゃん。教会には気をつけてね。じゃあ、あなたたちを元の世界に戻すわね」

「ちょっと待ってっ!」

ミリがミネルヴァを制止する。

何を聞くんだ?

と思ったら、

「もういいわよ」

とミリが言った。

同時に、俺たちは女神像の間にいた。

【称号:迷宮踏破者Ⅳが迷宮踏破者Ⅴにランクアップした】

【クリア報酬スキル:生活魔法Ⅲが生活魔法Ⅳにスキルアップした】

……あぁ、なんとなくそんな予感がしたんだ。

「おにい、どうだった? ちゃんと生活魔法を覚えられた? 生活魔法を覚えられるタイミングで元に戻ったんだけど」

「故意だったのかっ!? え、お前そんなことができるのか?」

「ええ。そのくらいはね。ミリの能力未来予知によるものだよ」

「お前、そんなスキル持ってなかったろ」

「あぁ、スキルじゃなくて前世で日本にいたころからあった能力だから」

「ん? じゃあ、日本で株で荒稼ぎしてたのも?」

「うん、この力のお陰」

なんていうことだ。

未来予知能力なんて本当にあるんだ。

俺の妹の未来予知能力がチート過ぎて、兄としての威厳がない件――なんかラノベのタイトルみたいな現状だな。

「でも、未来予知といっても選択された結果がわかるってだけだよ。例えば株価なら上がるか下がるか、みたいなの。しかも複数の未来は見ることができないの。だから、今回はおにいの未来を予知したから――」

とミリは手のひらにある亀の子タワシを俺に見せた。

「この通り、ミリの未来は不確定だったの。順番に女神像に祈ったらこんな結果にならなかったんだけどね――」

「お前、その力のお陰で魔王になれたのか?」

「まぁね。薬師の調合って、薬を作る時――んー、おにいにわかりやすく言うなら、失敗、成功、大成功ってのがあるの。例えばポーションを作る時、失敗したら低品質のポーションが、成功したら普通のポーションが、大成功したら高品質のポーションができるみたいにね。それで、中には大成功の確率がとても低い代わりにその薬が物凄い効果を持っていることがあるの。おにいに飲ませてあげた限界突破薬も、本当は経験値薬を作る時に〇.一パーセントの確率で手に入る薬なんだよ」

「そんなに凄い薬だったのか」

恐れ入った。

「じゃあ、おにい。私はキリリ草を探すね」

「ん? あぁ、任せていいか? 俺はちょっと生活魔法Ⅳの魔法を調べてみる」

と言ってマジックリストを調べた。

……これか?

……………………………………………………

拠点帰還(ホームリターン) Lv- 消費MP50

……………………………………………………

「ん……ミリ、 拠点帰還(ホームリターン) ってどんな魔法なんだ?」

「その名の通り、拠点に戻る魔法……なんだけどね。使ってみればわかるわよ。いきなり発動せずに、転移先を選択できるから、キャンセルすれば大丈夫だよ」

あぁ、家に帰る魔法か。

今までで一番生活魔法っぽい魔法じゃないか。

でも、俺の拠点ってマイワールドじゃないのか?

「 拠点帰還(ホームリターン) !」

……………………………………………………

マイワールド

静かな浜辺・元海賊アジト(ミリュウ)

フロアランス・マーガレット洋服店(マーガレット)

マイワールド(ハルワタート)

フロアランス・マーガレット洋服店(ノルン)

マイワールド(キャロル)

マイワールド(マリナ)

……………………………………………………

ん? なんだ、これは。

「ミリ……これって。なんか名前があるんだけど」

「あぁ、うん。これってね、使用者の家と、使用者に好意のある異性の家に転移する魔法なの。だから拠点の場所はそれぞれで、ノルンはフロアランスに帰るつもりだからそこに、私は帰るつもりはないから、たぶん今朝まで泊まっていた元盗賊のアジトがホーム設定されていると思うよ?」

「あぁ……そういうことか」

なるほど、俺に好意を持ってくれる異性の家にワープする魔法ねぇ。

そうかそうか。カノンとかステラとかは仲は悪くはないけど、そこまでの好意はないということかな。

「――やっぱりそういう魔法じゃねぇかっ!」

それと――

「なんでマーガレットさんが異性枠に入ってるんだよっ! あの人は同性だよっ!」

俺の怒鳴り声が女神像の間に響いたのだった。