軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

グルメンの料理試練

孤島の迷宮を進んでいく。

地下三階層まで辿り着いたが、未だに魔物と出くわしていない。気配探知のスキルによるアンテナはビンビンに展開させているのだけれども、やはり魔物がいる気配はない。

「本当に魔物がいないな。やっぱり今は使われていない迷宮のせいなのか?」

「そんなことはないと思うよ。ファミリスとして三十年くらい前に来たときはいっぱい魔物もいたし、それに」

とミリは大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出した。まるで深呼吸をしているようだ。

「魔物を生み出すための瘴気は十分にあるから、きっと最近……それも数時間以内に誰かが入って魔物を退治しているのかも」

「それっておかしくないか? 先客がいるのなら小島に小船が泊まっているはずだろ?」

「そうとは限らないよ。私たちが来るよりも少し前に去っていったのかもしれないよ」

あぁ、そういう可能性もあるのか。

「おにい、魔物と戦いたいならちょっと道から外れてみる? 硬化病は命に関わる病気だけど、数日とか数カ月で死ぬような病気じゃないから、時間は十分にあると思うよ」

「いや、わざわざ戦う必要もないと思うが……あ、伝承モンスターとかいるのか?」

伝承モンスターとは、特定の方法で倒すことにより職業を解放させることができる魔物の事だ。

「伝承モンスター? あ、そう言えばおにいってボクサーの職業も持っていたよね。そっか、ルー・カンガを倒したんだ」

とミリが俺の職業を思い出したのか、納得して頷いた。

「ミリ、ルー・カンガを知ってるのか? あ、そう言えばケット・シーってファミリス・ラリテイと仲が良いんだったか」

あの迷宮もケット・シーに教えてもらったから、ケット・シーと交流のあるファミリスが、あの迷宮を攻略していても不思議ではない。

「うーん、ここの伝承モンスターはいるにはいるんだけどあまりお勧めしないよ。運要素が強すぎるから」

「運なら任せておけ」

狩人や遊び人にしたら幸運値が高くなる。前に幸運値が高いという聖騎士の職についた鈴木にもジャンケンで勝っているし、スロットでもそれなりに勝っている。ダンジョン踏破ボーナスも自分にタワシが出たことがない。

「まぁ、通り道だからいいけど」

と乗り気のない様子でミリが言った。

結局魔物と出くわすことはなく地下五階層に辿り着き、ミリが扉の前で止まった。

「ここだよ」

そこには木の看板が立っていた。

グルメン食堂?

「食堂なのか?」

「あぁ、私たちが食べる食堂じゃなくて、グルメンという名前の魔物に対して料理を作って食べさせるの。あ、持ち込んだ料理はダメだよ。グルメンが気に入れば職業解放。グルメンが気に入らなければ戦闘になるの。解放される職業はアウトドアシェフだよ」

アウトドアシェフか。

なるほど、確かに料理設備の整っていないであろう迷宮の中で美味しい料理を作ることができるとすれば、確かにアウトドアシェフと呼ばれるだろう。

「ん? そういえば運要素が強いって言っていたけど」

「おにい、わからないの? 相手は人間じゃなくて魔物だよ。何が好きかなんてわからないでしょ? グルメンは個体によって好きな食べ物が異なるから――強いて言えば濃い味付けの料理が好きだって話だけど」

「なるほど……濃い味付けの料理か」

俺の中で今晩のレシピみたいな感じで献立を組み立てていく。

濃い味付けの料理か。中華料理がいいかな。 青椒肉絲(チンジャオロース) とかどうだろうか?

いや、中華は火力が命という。魔法の炎だと火力が強すぎるが、たき火だと火力が足りない。となると……

「そう言えば、ミリ。お前、日本の食材や調理器具を大量に持ってきたんだよな? あれも持って来てるのか?」

と日本人なら誰もが知る、だがこの世界では手に入れるのが難しそうなアレについて尋ねた。

※※※

あれがグルメンか。

見た目普通の赤いタコだな。

タコがテーブルの向こうで椅子に座ってじっとこちらを見ている。

「料理を作らずに近付いたら戦闘になるからね」

とミリに注意をされた。

俺は頷きながら、料理の準備を始めた。

アウトドア料理の基本の料理を。

そして、五十分後。

「へいお待たせしましたっ!」

と俺はその料理をテーブルに置いた。スパイシーなその香りが部屋中に広がる。

何も知らなければ、見た目は恐らく美味しそうには見えないだろうが、その匂いを嗅げば、多くの人間は腹が鳴る食べ物。

そう、カレーだ。今回はご飯を炊かず、カレーのみの勝負。

タコのような姿の魔物――グルメンはカレーをじっと見ると、お皿とスープンを持ち――

「げっ」

皿ごと口の中に入れた。

ついでにスプーンも口の中に入れる。

暫く咀嚼し、グルメンは粉々になった皿の破片らしきものと、ぐにぐにに曲がったスプーンを吐き出す。どちらもカレーと粘液で汚れていて素手で触りたいとは思えない。吐き出すということは、これは失敗だったかなと思ったら、

【職業:アウトドアシェフが解放された】

とアナウンスが流れた。おぉ、どうやら合格だったようだ。

「戦闘にならないということは、おにい、合格したの?」

「あぁ、なんとか満足したらしい。次はミリが作るのか?」

「うん、前世も含めて七度目のチャレンジだけど、大丈夫。傾向と対策は掴んでるから。私の自信料理っ!」

とミリが皿を持っていき、それをテーブルの上に置いた!

「コオロギのフライよっ!」

と下処理をしているコオロギのフライ(タルタルソース添え)を置いた。

グルメンはそれを見ると、真っ赤な顔をさらに赤くさせ、墨を吐き出してきた。

「あぁ、また食べもしないでっ! おにい、こんな奴コテンパンにしちゃってっ!」

「……いや、グルメンが怒っているのもわかるんだけどな」

八本の触手を伸ばしてくるグルメンに向かって俺は剣を抜く。

どうやら魔物相手にもミリのゲテモニストの感覚は理解できなかったようだ。