軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

限界のその先へ

ハロックがびくびく震えては、こちらを――というより、ミリをちらちらと見ている。

だいぶ怖がられているようだ。

俺とミリは船に乗って、迷宮があるポートコベから北東にある小島に向かうことにしたが、さすがにふたりで船を動かすのは骨が折れるので、ハロックたちに操舵を頼んだわけだ。その時のハロックの表情は、まるで蛇に睨まれた蛙――ドラゴンに睨まれたゴブリンのようだった。

「へぇ、これがおにいの船なんだ。立派な帆船じゃない――あぁ、でもあっちにあったほうが船としては大きかったね」

とミリはマイワールドの中にある帆船を思い出して言った。

「船造りがピオニアのマイブームらしいからな。前はワイン造りにはまっていたし、創作意欲旺盛なホムンクルスだよ」

と俺は苦笑して、そして海を眺めて言った。

ミリもツインテールが風に揺れて目にかからないように髪を押さえながら、俺と一緒に海を眺める。

日本でも異世界でも海というのはやはりどこでも変わらない。そして、隣にミリがいるからだろうか? 隣にキャロがいたときと違って本当に日本の海を見ているような錯覚に陥りそうになる。そんなわけないのに。

「おにい、また 日本(あっち) のこと思い出したんでしょ」

「ん? あぁ……まぁな」

と俺は内心、「お見通しか」と思いながら頷いた。

暫くすると、遠くに島が見えてきた。

「あの、先生方。ここから先は岩礁が多く帆船では近付けないので、小船での移動をお願いいたします。勿論、あっしらが船を漕がせていただきますので」

と言ってきた。

「いや、船を漕ぐくらいなら自分で――」

「あぁ、あそこなら転移魔法で移動するから大丈夫よ。もう港に戻っていいわ」

とミリは俺の腕を掴む――

「待て、ミリ」

と俺は注意をしたが、

「《 転移(ワープ) 》」

と魔法を唱えた。

すると、一瞬で俺の景色が変わる。

俺はあたりを見回すと、遠くに俺の帆船が見えた。

どうやらミリの 転移(ワープ) は成功したようだ。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

本当は、以前に転移陣を利用したとき、南の孤島に飛ばされたことがあったのでミリの 転移(ワープ) でも同じことが起きるんじゃないかと不安に思ったんだけれども、どうやら杞憂だったようだ。

「はい、おにいこれ使って」

とミリがアイテムバッグから出したのは、宝石だった。

「なんだこれ?」

「技能書って言って、スキルを覚えられるアイテム。これを読むと石頭ってスキルが手に入るの。頭の防御がぐんっと上がるスキルだよ」

「へぇ……そんな便利なものがあるのか。宝石なのに技能 書(・) なんだな」

確かに、そういう道具もゲームの中ではよく見かけるから、この世界のシステムが日本のゲームに反映されているというコショマーレ様の話を信じるなら不思議ではない。わ〇マシンみたいなものだろう。

「でも、石頭ってどんなスキルなんだ? 頑固になるスキルとかじゃないだろうな?」

「ううん、頭の防御力が非常にあがるスキルだよ。体全体の防御力じゃないからステータスには反映されないけど、普通の人間なら木で叩かれても平気なくらい。おにいのステータスなら、鉄の剣で頭を斬られても大丈夫になるんじゃないかな?」

「そんなにかっ! それってもはや石頭の域を超えてるだろ」

鉄頭だよ、それ。

「でも、そんなスキルならミリが使えよ」

「いやいや、ミリはこれでも危機察知能力はピカイチですからねぇ。不意打ちなどは通用しないのですよ」

と自慢げに言った。

「それなら俺だって――」

「暴れ馬に頭を踏まれてこの世界に転移したのに?」

……それを言われたら反論のしようがない。

でもなぁ……と思っていると、

「私にはこれがあるから大丈夫だよ」

とミリが取り出したのは、安全第一と書かれた黄色いヘルメットだった。しかもご丁寧にヘッドライトまでついている。一体どこの採掘現場からパクって来たんだ?

「こっちの世界に来るまでにいろいろと買ったからね。あ、スキヤキアイスもあるよ。食べる?」

とミリは虚空から懐かしのゲテモノアイスを取り出した。見るだけで砂糖醤油味の凍った肉の味が口内に蘇る。霜までついていて冷凍されている演出を醸し出していた。

空間魔法の異次元収納というらしいが、どうやらアイテムバッグと同じで時間の流れを止めることができるらしい。

魔法名を唱えずに出し入れできる機能はアイテムバッグの強化版のイメージだな。しかも生きている動物すら収納することもできるのだとか。

「お前、ノルンやカノンにそんなもの食べさせていないだろうな?」

「あぁ……あのふたりはミリの感性がわからなかったんだよねぇ」

とミリは残念そうに言った。どうやら食べさせた――もしくは食べさせようとしたらしい。

ミリの食の感性は彼女が生まれてからずっと一緒に育った俺ですらわからないのだから、ふたりに理解できるわけないだろう。

「……なぁ、これ、やっぱりミリが使え」

「おにいが使わないのならこの場で砕くよ」

とミリがトンカチを取り出した。

「わかった、俺が使うから砕こうとするなっ!」

ミリは脅しではなく本気で実行するタイプだから、俺は仕方なく、そしてミリに感謝して、

「それで、これってどうやって使えばいいんだ?」

「技能書を額に当てて、スキルの名前を言えばいいのよ」

なるほど。

俺は宝石を額に当て、

「石頭」

と唱えた。すると、額の宝石が光ったと思うと、

【技能書スキル:石頭を取得した】

とシステムメッセージが流れると同時に、俺の手にあった宝石が一瞬にして塵となり、風に乗って海へと流されていった。

使い捨てアイテムだということは予想していたので驚きはしないけれど、これって海へのポイ捨てだよなぁ。

「ミリ、石頭を覚え――」

「せいやぁぁぁっ!」

とミリがいきなり俺の頭に、どこかのお土産屋で売っている――というより俺が中学校の修学旅行で買ってきた木刀を振り下ろしてきた。

木刀は俺の頭に直撃すると、ポキっといい音を立てて真っ二つに割れた。

俺の頭は全然痛くない。

凄いな、石頭のスキルって。

「って、いきなり何をするんだっ!」

「まぁまぁ。あ、あまりにも強すぎる衝撃だと、頭は無事でもむち打ちとかになるから気を付けてね。もっと強かったら普通に首とか折れるから」

「それを知っていて試すな! あぁ、俺の木刀が」

と俺は折れた木刀を見て項垂れた。

そして、木刀を掴みながら後ろを見る。

そこにあったのは石造りの祠と地下へと続く階段だった。

「……とっとと下りてキリリ草を採って帰るか」

「うん、そうだね。おにいは職業何にするの? 敵は中級者向けだから、おにいなら楽勝だよ。いざとなったら私がフォローするし」

「そうだな。それなら……」

と俺は職業を変えていく。

【無職Lv99 光魔術師Lv1 闇魔術師Lv1 剣聖Lv1 拳闘士Lv60★】

とした。拳闘士を入れているのは安全マージンを確保するための保険だ。他の職業のレベルがあがれば入れ替えるつもりでもある。

俺が説明したところ、ミリは頷いた。

「うん、バランスが取れていていいと思うけど、拳闘士のレベルが勿体ないね」

「それは仕方ないさ」

「ということで、おにいにはこの薬を!」

とミリはアイテムバッグから一本の小瓶を取り出した。

赤マムシドリンクだ。

「……あ、間違えた」

「間違えるな」

なんで年頃の女の子が赤マムシドリンクを持ち歩いているんだよ。

「こっちだよ、こっち」

とミリが出したのもまた薬瓶だった。

リポビタミンAって、栄養剤じゃないか。

「あ、中身はミリが作った薬が入ってるの。限界突破薬っ!」

「限界突破薬?」

「そう。職業を極めても、もうちょっと強くなりたいなって言う時に飲むとね、もっと強くなれるの。例えば魔王の限界レベルって99なんだけど、これを飲めば最大十倍、990までレベルを上げられるんだよ。勿論、必要な経験値はバカみたいに必要になってくるけどね。しかも、これを薬師が作ろうと思えば、薬師レベル200まで上げないといけないの。薬師の限界レベルは40なのに。凄い矛盾でしょ。薬学の天恵がなければ作れないんだよ。まぁ、限界突破薬も迷宮踏破ボーナスで極稀に見つかるって言うから絶対無理ってわけじゃないけど」

「……飲んでいいのか?」

「うん、大丈夫だよ。素材は結構簡単に入手できるから――というより素材を活用できる薬師がいないから、普通に雑草扱いされる草を使ってるから。あ、味は保証するよ」

ミリに味を保証されても信用できないんだよな。

と思いながら薬を飲んでみる。

「どう?」

「んー、微妙だな。確かに不味くはないけれど、かといって毎日飲みたいとは思わん」

「じゃなくて職業のレベルは?」

と言われて、そうだったと思い出す。

ミリが作ったんだから、薬の効果は間違いないのだろうが、問題は拳闘士が第五職業だということだ。

果たしてそれで効果があるのか……

【無職Lv99 光魔術師Lv1 闇魔術師Lv1 剣聖Lv1 拳闘士Lv60】

おぉ、星マークが消えている。

職業設定していない他の職業には効果がなかったようだ。

「今度飲むときは四つ全部極めた職業でいってみるか」

「うん、そうだね――それと無職のレベルが最大になってもこれでさらにレベルがあげられるね」

ミリがさらっと恐ろしいことを言った。

え? それって、仮に無職レベルの最大が100であっても、1000レベルまで上げられるってことか?

それって極めるのに一体何十年、いや、何百年かかるんだよ。

……どうやら、俺は本当に無職を辞めることができないようだ。