軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

天井のない世界

見知らぬ天井……ではなかった。

そもそも、天井がなかったから。

ボーッとした頭で考える。

ここはどこだ?

てか、今は何時だ?

腕時計を見る……ってやば! 面接時間過ぎてるじゃないか!

……はぁ、こりゃダメだな。

仕方ない、ファミリーイレブンに行ってスキヤキアイスか、昆布出汁湯豆腐プリンを買って帰るか。

あれ? 駅はどっちだ?

ていうか……、

「ここ、どこだ?」

天井がないどころじゃない、大地も道も建物も空もない。

真っ白な空間にいた。

なんでここに?

そうだ、トラックが衝突して、そこから馬が大量に出てきて――それで?

俺、死んだのか?

「うん、死んじゃったね。御臨終だよ。牧場から馬を20頭盗んで逃げていたトラックが事故を起こして、逃げ出した馬に巻き込まれてね」

そうか、死んだのか。てか、あのトラック、信号無視だけではなく、馬泥棒までしてやがったのか。

俺が死んだとなると、ミリのやつ悲しむだろうな。

まぁ、ミリなら一人でも逞しく生きていけると思うが……伯父の家に引き取られることになったら転校は余儀なくされる。

はは、そんなことになるのなら、死んでもミリに怒られちまう。

墓前に化けて出られるのなら、土下座の準備をしておかないとな。

ん? さっき誰かの声がしたような。

俺が死んだと伝えてくれた人。

誰だ?

「女神様を無視するとはいい度胸ねぇ」

え? 女神さま?

艶めかしい声に思わず振り返り、俺は石化した。

蛇に睨まれた蛙、メデューサに睨まれた戦士のように動けなくなる。

白いドレスを着たオークがそこにいた。

くそっ、死んだと思ったらやっぱり異世界で、いきなりエンカウントするのがオークって、無理ゲーだろ。

まだチート能力ももらってないのに。

「誰がオークだい。私は女神だって言ってるだろ」

オーク……じゃない、女神様が怒ったような口調で言う。

心が読まれた!?

「本当に女神さまですか?」

半信半疑といった感じで俺は訊ねた。

「あぁ、そうだよ。それで、あんたは死んだわけだけど、なんと10億人に一人の大チャンス、異世界に転移できる権利が与えられたわけさ。年齢はそのまま、姿もそのままだから、転生ってわけじゃないけどね。どうする? このまま死ぬか、それとも異世界で新たに生きるか」

「えっと、元の世界に戻ることはできないんでしょうか? このままだと妹が転校しちゃうんですけど」

「無理だよ。意地悪を言ってるんじゃなくて、本当に無理なんだよね」

ぐっ、無理なのか。

ならば、異世界で新たに生きるしか道がないじゃないか。

「といっても、今のままじゃ、異世界に移動してもすぐに死んでしまうからね。特別に、天恵と呼ばれる不思議な力を授けてやるよ。ところで、ゲームはやったことあるかい? ゲームといってもテトリスとかソリティアとかじゃないよ。ロールプレイングゲームみたいなゲームをね」

「……はい、何種類か」

ロールプレイングゲーム、直訳すると役割を演じる遊戯。

勇者や剣士といった主人公を操り、経験値を貯めてレベルアップをして強さを上げ、コマンド入力をして遊ぶゲームだ。

ドラ○エやファ○ナルファ○タジー、テイ○ズシリーズなどが有名だろうか?

「あんたが転移するのは、そういうゲームのような世界さ。魔物がいて、魔物を倒したら経験値やアイテムが手に入って成長する。そもそも、あんたの世界のロールプレイングゲームっていうのは、あんたみたいに異世界に転生する人間に説明するのが面倒になったどっかの神が、人間の潜在意識に介入して作らせたものだからね」

驚愕の事実が告げられた。

つまり、ドラ○エもファイナルファン○ジーも、いや、それ以前に、ダンジ○ンズ&ドラ○ンズも神が介入して作らせていたのか。驚いた。もしかしたら、異世界転移の小説を書いている作者も、神の介入を受けてそんな小説を書いているのかもしれないな。

「それで、一つ、あんたに能力をあげることにしたんだけど、どんな能力がいい? いきなり勇者のような職業になれるとかお勧めだけどね」

「いや、勇者とかって、俺、そういうのはあまり。いきなり大金持ちとか無理ですか?」

「無理じゃないけど、いいのかい? 例えば、日本であんたの預金通帳に100兆円振り込まれたらどうなると思う?」

あぁ、それは確かにきつい。

振り込んだ人も不明だし、どうやって100兆円を手に入れたのか、説明しろと言われても説明できない。

ということは、巨大なダイヤを貰うとかもやめたほうがいいかもな。下手したら盗品として扱われそうだ。

女神が提示した他のお勧めは、瞬間移動やスキル強奪という、まぁ有名なチート能力だった。

瞬間移動は交易には便利だけど、強くなれるわけじゃないんだよな。

スキル強奪は論外だ。他人からスキルを奪うなんて、ガラスのハートの俺には胃痛スキルすぎるし、バレたら物凄い恨まれる。

「無難に経験値100倍とかありますか?」

「100倍は無理だよ。20倍が限度だね」

「それでお願いします。あ、同じ天恵が2個あれば400倍とかになるんですか?」

「ならないよ。20倍といっても、正確には+1900%だからね。同じ天恵が2個あっても39倍だよ。あと、私が与える天恵は一つだけだからね」

そうか。じゃあ、それでいいか。

俺は女神様に「では、経験値20倍でお願いします」と告げた。

「それじゃあ、私はもう行くから、異世界生活をエンジョイしな。特に使命とかを与えるわけじゃないからね」

女神様はそう言って去って行った。

俺の異世界ライフが始まるのか。

まずはお城の周りのス○イムを倒してレベル99を目指すか……なんてな。

ミリには本当に申し訳ないと思っているが、やるからには本気で異世界ライフを楽しもう。

いよいよ、異世界ライフが始まる。

いよいよ始まる。

始まるったら始まる。

そろそろ始まる。

始まる。

ねぇ、いつ始まるの?

「女神さま、なんか異世界に移動する気配がないんですけど」

……返事がない。

何も起こらない。

何時間待っても何も起こらない。

バグ? フリーズ?

え、どうしたらいいんですか?

「女神さまぁぁぁぁぁっ!」

俺は思わず叫んでいた。

このまま何もいない空間にいたら気がどうにかなっちまう。

「おっと、悪い悪い……つい寝てしまっていた。妾が女神だ」

そう言って足元から現れたのは、幼い子供だった。

白いローブを着た、金髪ツインテールの目つきの悪い子供。

「……え?」

「うむ、驚くのは無理ない。まず最初に言っておこう。主は死んだ。だが、10億人に一人の大チャンスがある」

そして、子供の女神はさきほどの太った女神が言ったことと同じようなことを続けた。

え、こっちも10億人に1人の大チャンス?

もしかして、女神さまダブルブッキングしちゃったの?

そんな確率、100京分の1の確率だと思うんですけど。

「最後に、天恵を授けようと思う」

「……あぁ、経験値20倍を――」

経験値20倍をもう貰ったんですけど。

そう言おうとしたら、

「経験値20倍は妾のプレゼントできる天恵にはないが……まぁ、似たようなものを授けよう。では、妾は昼寝をつづけるから、其方は異世界生活を満喫すればよい」

そう言って、女神が消えると同時に、俺の意識が朦朧としてきた。

あぁ、勘違いされてしまった。

まぁ、正直に言おうとした結果だし、いいか。

これで、まぁ、経験値39倍かな。

んー、2個目はやっぱり瞬間移動にしたらよかったかな。

と後悔しながら、俺は意識を手放した。

この時、俺は気付いていなかった。

子供の姿の女神がくれた天恵というのが、レベルアップに必要な経験値が1/20。

つまり、仮に通常100の経験値がレベルアップに必要だとする場合、5の経験値でレベルが上がるという天恵だ。

こうして、俺は、実質、他の人より400倍成長しやすい状態になってしまったのだが、この時はまだ気付いていなかった。