軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王との戦い

時は少し遡り、ミリたちは明日の出陣の準備をしていた。

海賊同士の話し合いが今日行われ、明日も同じ話し合いが行われることをミリたちは知っていたから、その海賊を潰すために。

「……カノン、何してるの?」

つまらないものを見るような目でミリはカノンの手元を見た。

彼女の手に握られているハンマーと、銅の甲冑を見ている。

「ミリュウちゃんのサイズに鎧を合わせているんだよ」

カノンはニッコリと笑って言った。

元々海賊のアジトだったこの場所には、いくつか甲冑が残っていた。

海賊同士の話し合いでは、船長が甲冑を着て出向くという伝統があるためだ。

「なんで、私のサイズに合わせているのよ。そんなの着るつもりないわよ」

「着てもらわないと困るよ、ミリュウちゃん」

そう言ったのはノルンだった。

かなり疲れた顔をしている。ポートコベと海賊のアジトを何度も往復し、食材を買いに行っている疲労だ。そのため、町の内情についても三人の中では一番詳しい。

「なんでよ!」

ミリがノルンに文句を言った。

「ポートコベの町でミリュウちゃん、かなり有名人になってるよっ! 魔王だなんて呼ばれてるくらいだし、名前まで出回ってるの。それに、容姿もかなり近いところまで知られているの! このまま素顔でこれ以上暴れたら、本当に町の中を素顔で歩けなくなるよ」

「別に、そんなの私は気にしないわよ。悪い事はしていないんだし」

「いいの? あんまり暴れて注目されるようになったら、お兄さんと一緒に歩けなくなっちゃうよ?」

「うっ、確かにそれは困るわね」

ノルンの言葉に、ミリはたじろいだ。

「そういえば、おにいとふたりきりで海なんてもう何年も行っていないのよね。おにいはずっとバイトばかりだったし――そうだ、水着持って来てたかな? というより、ポートコベってビーチとかあるの? スイカはあるからふたりでスイカ割りもしたいな」

にやにや笑い、一之丞と再会した後のことを考えるミリ。

「ふたりきりって、私やノルンもいるんだけどねぇ」

カノンは甲冑のサイズを調整しながら、どこか愛おしそうにミリを見た。

「カノンさん、手先器用ですね」

「まぁね、これでも自称鍛冶師だからこのくらいはできるよん♪」

と上機嫌にハンマーを振るう。

「ついでに、声も変わる機能とかつけちゃう?」

「そんなことできるんですか?」

「勿論だよ、ノルン。何しろ私は魔剣職人だからね。久しぶりに腕が鳴るよ――あぁ、でも声が変わる機能をつけたら、周りの音も違って聞こえるんだけど……、ミリュウちゃん、別にいい――?」

「でも、海水浴場があってもおにいの教育上よくないかもしれないわね。他の女性の水着を見て興奮されたら困るし……やっぱりここは海辺の町のカフェでこれまでの思い出話なんて話しちゃう方がいいのかしら。妹として――うん、妹としてはそれが正解よね?」

「聞いてないか……じゃあ、事後承諾で勝手にさせてもらうわね」

とカノンは魔石を取り出し、魔石を埋め込むための窪みや爪を作っていく。

「あ、でもその前に記念撮影しようかな。カメラ持ってきたし――現像液と定着液は、うん、大丈夫、確か持ってきているはずよ。暗室は魔法を使えばいいわよね――私なら暗室の中でも普通に動けるし」

こうして、ミリの妄想は続き、カノンは作業を続け、ノルンは食事の準備をはじめた。

そして、翌朝。

「ねぇ、カノン。鎧のサイズはちょうどいいんだけど、変に声が篭っちゃうのよ」

「昨日、ミリュウちゃんに言ったよ。変声機能をつけてるって」

「カノンの声も変に聞こえるんだけど」

「それは変声機能の弊害ね。声が変わるっていうのは、甲冑の面の部分に音質を変える機能がついているからなの……」

「それで、なんで笑ってるの?」

ミリは睨み付けるようにノルンとカノンを見た。

ノルンは俯き必死に笑いを噛み殺そうとし、カノンはニヤニヤとしていた。

「私の声、どういう風に聞こえているの?」

それに、カノンもノルンも答えなかった。

※※※

「かくごちなちゃい! かいぞくども!」

青銅の甲冑を着た幼女が叫んだ。

それに、俺は思わず顔をしかめる。

(え? 本当に少女なのか?)

その声は少女というよりは、舌足らずの幼児のように聞こえる。

俺とハルは顔を見合わせた。

勿論、それで警戒を解く程ふたりは間抜けではない。先ほどのハロックへの攻撃とその威力は、離れていても俺たちにもわかる。

「油断するなよ」

「勿論です」

俺とハルがそれぞれ剣を抜く。

こんなことなら魔力を残しておけばよかったと心から思いつつ、俺はその銅甲冑について調べた。

その職業を。

見てしまった。

【魔王:Lv39】

(――っ!?)

ウソだろ? ともう一度職業を確認する。

「――魔王っ!?」

俺は思わず叫んでいた。

「そうよばれていることはちってるわ」

「本物なのか――お前が魔王――」

「まおーにほんものもにちぇものもないち、きょうみもない。ちになちゃい! だーくぼーる!」

突如として殺気が俺たちを包み込み、魔王が巨大な闇の球を放った。

これはやばい、そう思った俺とハルは本能的に横に跳んだ。直後だった。

俺たちのいた大地が闇に飲み込まれた。

そして、闇が晴れると、大地が抉れている。

「あなたたちがかいぞくのおやぶんだってちっていまちゅ! あなたたちをたおちたらかいけちゅちゅる!」

「よくわからないが、やる気満々のようだな――お前に恨みはないがやられる前にやってやるっ! スラッシュっ!」

「スラッシュっ!」

俺とハルがふたり同時にスラッシュを放つ。

これなら避けることもできないだろう。そう思ったが、

「だーくちーるどっ!」

魔王の前に闇の盾が現れ、俺たちのスラッシュを飲み込んだ。

くそっ、闇魔法って極めればこんなに厄介だったのか。攻撃にも防御にもなるとは。

勿論、四元素を極めた俺も同様の真似はできるのだが、なにぶんいまはMPがほとんどない。

「ならば、その盾で防げない攻撃をするだけだ」

と俺とハルは二方向に分かれて走った。

「ふたほうこうからこうげきちゅればいいっておもっちぇるのね――いいちゃくちぇんだけど」

そう言って魔王が動いた。真っ直ぐハルの方向に。

ハルはそれを予想していたのか、剣で迎え撃とうとする。火竜の牙剣を炎が纏った。炎の玉を魔王に放った。ハルの作戦が俺にはすぐにわかった。

魔王がその攻撃を避けるためにスピードを落としたところで攻撃を仕掛けるつもりだと。

だが、魔王は避けなかった。彼女はその炎に自ら突っ込んだのだ。

「だーくあーまー」

魔王が闇を纏った。それを視認した直後、火の球が魔王にぶつかり、爆発を起こす。

それがハルにとっては誤算だった。

「だーくにーどる」

その炎の中から闇の針が飛び出したのだ。

普段のハルならその程度の攻撃は避けられただろう。だが、甲冑という動きなれない姿、そして爆発のせいでどこから飛んでくるかわからない攻撃のため、ハルは避けきれなかった。

闇の針のうち一本がハルの右肩に刺さった。

ハルは左手のショートソードで闇の針を切り落としたら、斬りおとされた闇の針は消えたのだが、怪我がそれでなくなるわけではない。

「くそぉぉぉぉぉっ!」

俺は大地を蹴り、魔王に向かって飛んで、鋼鉄の剣を振り下ろした。

魔王はそれを横に大きく飛んで躱す。

「申し訳ありません」

「しゃべるな――プチヒールっ!」

俺は回復魔法をハルの肩にかける。

本当はヒールをかけてやりたいんだが、今はこれが限界だ。

「お前は下がってろ」

「いえ、まだ戦えます」

「いや、ダメだ」

俺はそう言うと、

「マイワールドっ!」

と俺の世界への穴を開けて、ハルを持ち上げた。

「少し乱暴に扱うが勘弁な」

「くうかんまほう?」

と魔王は疑問形で呟く。流石の魔王も無職の魔法は知らないようだな。

ならば、これからが俺のターンだ!

俺はハルをマイワールドに放り込むように投げた。

「ご主人様っ」

穴の向こうから、ハルの声が聞こえてきた。

このままではこっちに戻ってくるかもしれない――俺の命令に逆らってまで。

「これから無職の戦いって奴をみせてやるっ! 覚悟しろ、魔王ミリュウっ!」

俺はそう言うと、マイワールドの穴を閉じる。

「――っ!? 待ってください、その人と戦っては――」

ハルの声が聞こえてきた。

確かに、こいつと戦うのは厄介そうだが、でも無職ながらの戦い方って奴を見せてやるさ。