軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

太陽が燦々と照りつける中、帆船は大海原を進まない。そう、進まない。

「まさか、凪がこんなに続くとは……」

水は魔法で作れる、食料はマイワールドの中に大量に野菜がある。さらにお風呂がなくても 浄化(クリーン) の魔法で清潔な体も保てるから病気にもなりにくい。命の危機がないとなると、この凪の状態はただの退屈な時間になる。風魔法を使おうにも、あれって攻撃魔法だから確実に帆が破れる。意外と生活魔法以外の魔法って使い勝手が悪い。

焦っていても仕方がないとはわかっているが、正直、野菜だけの生活にはもう飽き飽きだ。

ということで、俺は現在、釣りに興じていた。

釣竿、釣り糸、釣り針は全部ピオニアが作ってくれた。本当に器用な奴だ。

餌として、とりあえず干し肉を細かくちぎって使うことにした。

同じくピオニアが作ってくれた麦わら帽子を被り、キャロと二人並んで釣りをする。

「そういえば、キャロは農家のレベルを上げたときに釣り師にもなれるようになっているんだっけ?」

ふと、そんなことを思い出してキャロに尋ねた。

農家のレベルが上がると、鞭使い、釣り師、採取人、料理人、鎌使いの順番に職業が解放されていく。

鞭使いが農家とどう関係あるのかは今もわかっていないが、キャロは採取人になっているから釣り師が解放されているはずだ。

ちなみに、先日の戦いで採取人のレベルもあがり、見習い薬師としての職業が解放されたが、レシピを何一つ修得していないので薬は何一つ作れていない。

「はい、なっています。釣り師は魚を釣ると経験値が貰える職業です」

「よし、じゃあキャロの職業を釣り師に変えておくか……俺は農家のレベルがあまり上がっていないからな」

農家のレベルはいまだに3止まりだし。

鍛えよう鍛えようとは思っていたのだが。鞭使いになってから魔物使いになったりもしたいし。

「ありがとうございます。釣り師のレベルが上がれば私も解体ができるようになりますから」

「え? 釣り師でも解体のレベルが上がるのか?」

「はい。解体レベルが上がる職業は、狩人、釣り師、解体師の三種類だと聞いたことがあります」

なるほど、それは知らなかったな。

解体師のレベルを上げたおかげで、かなりの解体技術を持つ俺だが、さらにレベルが上がるのか。

「そういえば、家族で釣りに行ったときのことを思い出すな」

何の考えもなく、俺が呟くと、

「家族……ですか」

一瞬、キャロの表情が暗くなる。

「あ、悪い」

俺は思わず謝った。

キャロは両親を既に亡くしている。その原因はキャロが持つスキルのせいだ。

家族の話題はタブーだったな。

「いえ、いいんです。キャロもイチノ様の家族の話を聞きたいですし、それに、今のキャロにとって、イチノ様やハルさん、マリーナさんが家族のようなものですから」

「そうだよな。うん、俺もキャロやハルや、ついでに真里菜がいるから妹と会えなくてもそれほど寂しくないし」

逆に妹はどんな気持ちなんだろうか……と俺は空を見上げる。

こことは違う世界で、兄と両親を失い、お金だけがあるミリの気持ち。彼女をひとり残してしまったという罪を、俺は絶対に忘れてはいけない。

「それで、イチノ様。その釣りで何かあったのですか?」

「ん? あぁ。海釣りの大会で妹のミリが四百二十キロの本マグロっていう魚を釣り上げた時の話なんだけどな」

「導入部分が既に普通の話ではありませんねっ!?」

と俺が話し始めた時、風が吹いた。

「来た、風だっ! キャロ、帆の準備を頼む!」

「はい、イチノ様っ! 話の続きは絶対に後で聞かせてくださいね!」

「わかってるっ! ダイオウイカとのバトルの話はあとでしてやる!」

船はようやく進み始める。

ポートコベへと向かって。

※※※

航海に出て一週間が過ぎた。

キャロが言うには、そろそろ陸影が見えてくるはずなのだが、見えてきたのは船影だった。向きを変え、まっすぐこちらに向かってきている。

どうやら俺たちよりも先に向こうの船がこちらの船に気付いたらしい。

「面舵いっぱい!」

と俺は右に向くように舵を傾けた。どっちが面舵でどっちが取り舵かはわからないが、たぶん合っていると思う。

「キャロ、やったな! これでポートコベまでの正確な距離がわかるぞっ!」

と俺が大きな声で言うが、船の向きに合わせて帆の角度を変えるキャロの顔色はあまりすぐれない。

「イチノ様、一応戦闘の準備をなさってください」

キャロは俺の喜びに水を差すのを遠慮したのか、小さな声で言った。

「……え?」

戦闘の準備?

「普通、別の船が見えたからと言って方向を変えてくる船はありません……もしかしたら」

「あぁ……もしかしたらもしかするってことか」

そこまで言われてようやく気付く俺もどうかと思う。

つまり――

と船影がだんだん大きくなってきて、それがようやく見えた。

帆が黒く、そして髑髏のマークが描かれている。

典型的な海賊船ってことか。

なんというか、お約束な展開だな。

「んー、とりあえず樽いっぱいのトマトとワインをあげたらポートコベまでの距離を教えてくれないかな」

と俺は苦笑して言った。

トマトとワインをあげても敵対するって言うのなら、相手の船を沈めるだけだが。