軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハルの武道会(大将戦)

「ミリュウ選手ですニャ? 試合が始まるニャ!」

審判のケット・シーがミリを舞台中央に誘導しようとした。だがミリは振り向きざまにそのケット・シーを睨みつけ、

「うるさい、すぐ終わるから待ってなさいっ!」

「はいですニャっ!」

審判を一喝して黙らせた。

そして、ミリはカノンに詰め寄った。

「一体、これは何の騒ぎ?」

「ちょっとね――あそこにいるのが魔王軍の将軍のヴァルフ伯爵」

「魔王軍の将軍?」

とミリは不機嫌そうな目でヴァルフを見て、

「なんであんなのが魔王軍の将軍を名乗ってるのよ。カノン、あんたのほうが強そうじゃないっ!」

「いや、それはまぁそうなんだけどね――ちなみに、イチノジョウのお兄さん、だいぶ伯爵には苦労掛けられたようで、下手したら数万、数十万の魔物に呑み込まれるところだったのよ――私としては殺して欲しいんだけど」

「……へぇ、そうなの」

とその瞬間、空気が凍り付く気配を感じた。

中でも一番その気配を敏感に感じ取ったハルは全身の毛を逆立てている。

そして、勿論ヴァルフもその気配を感じ取ったようで、

「な、貴様、一体何者だ」

「そう……まだ私の正体に気付かないの。魔王軍将軍ヴァルフさん――なら死んでから女神にでもなんでも好きに聞きなさいっ!」

とミリがその手を前に突き出し、

「 闇爆破(ダークネスボム) 」

と唱えたその瞬間。

ヴァルフの体が爆発四散した。驚く暇もなく、何が起こったのか気付く暇もなく。

いくら体を蝙蝠にして分裂できるヴァルフといえど、一度に体が粉々に爆発したら、もう再生もできない。

魔王ファミリス・ラリテイが死んで十二年。裏舞台で暗躍していた吸血鬼のあっけなさすぎる死であった。

「な、一体何が起こったのだ」

マリーナが叫ぶ。無理もない、触れもしていないのに人の体が爆発したのだから。

魔法を使ったということはわかっているが、その魔法の中でも特に異質の魔法に、術を唱えたミリと、そしてカノン以外は開いた口が塞がらないでいる。

「魔族が持つ闇の力をエネルギーに変えて爆発させる。噂には聞いていたけど、魔族にとっては厄介すぎる魔法ね」

「闇の力を爆発? ア〇マイト光線みたいなものか」

とマリーナが呟くと、ミリは彼女を見て、

「別に闇の力を増幅する力はないから、普通の人間相手には効果のない使い勝手の悪い魔法よ」

と舞台からミリが降りたところで、審判が勝者の名を告げる。

「相手を死に至らしめたら反則ニャっ! よってこの勝負――おい、正気に戻るニャっ!」

とケット・シーのひとりが勝者を告げたところで、その審判は相方の審判がいまだに現実に戻れていないことに気付き、肘で彼の腹を小突いた。

そして、正気に戻ったもうひとりのケット・シーもマル王子の勝利を告げようとしたところで、

「ちょっと待って欲しいニャ。この勝負、こちらの負けでいいニャ」

とマル王子が舞台に上がった。

「僕たちはいまのヴァルフというにゃの魔物によって操られていたニャ。そして、ケット・シーの国宝である遠見の水晶球まで彼に渡してしまったニャ。そんな僕に王座に就く権利は――」

「そんにゃことにゃいニャっ! マル兄は強かったニャ! 操られていても、その剣技は本物だったニャっ!」

とステラが舞台に上がり、マルの手を取った。

「マル兄なら立派な王ににゃれるニャっ! 私も手伝うニャっ!」

「ぼ、僕も手伝うから傍に置いて欲しいニャ」

とここぞとばかり、ステラの弟のミッケもマルの手を握った。

「……ステラ。ミッケ。ありがとうニャ」

と三人のケット・シーが手と手を取り合い協力して国を盛り上げていくと決め、ケット・シーたちは拍手で三人の名を称え、万歳をしていた。

そこに、ハルワタートが近づいて尋ねる。

「マル王子――遠見の水晶球をヴァルフに渡したとのことですが、今はどこに――」

「それがわからにゃいニャ。おそらく魔王軍の手に渡ったと見たほうがいいニャ……魔王ファミリス・ラリテイ様の頃は親交の深かったこの村も、魔王が代替わりしてからはにゃにもわからず……申し訳にゃい。妹と父の恩人であるイチノジョウ殿を探すために使うのだと知っていにゃがら――」

とマル王子が言った時、ミリが動いた。

そして、ハルワタートの横に立ち、彼女を見上げて言った。

「ちょっといいかしら」

「はい――あなたは――ミリュウ殿ですね。先ほどはご助力を――」

「ポートコベ。そこにイチノジョウは向かっているわ」

「え?」

「話はそれだけ――カノン、ノルン、急ぎなさい。もう出発するわよ」

とミリが言うと、カノンとノルンはその命令に逆らえず、大人しく伏せをして待っていたフェンリルに乗った。

そして、フェンリルは一鳴き吠えると、一瞬のうちに南に走り去り、ハルたちから見えなくなる。

「ポートコベ……そこにご主人様が」

とハルワタートはミリの言葉を噛み締め、南の空を見上げたのだった。

※※※

一方、走り去るミリたち。

「ミリちゃん、本当はみんなのこと紹介したかったのに」

とノルンは舌を噛まないように注意しながら大きな声で叫んだ。

だが、ミリは前を向いたまま答える。

「紹介なんてされなくても知ってるわよ。ケット・シーの村には十数年前に行ったことあるし――」

「そうじゃなくて、お兄さんの仲間の――」

「そっちも知ってるわよ……ハルワタートと桜真里菜でしょ?」

とミリが言うと、

「「……え?」」

とふたりして声を上げたのだった。

そう、ミリはふたりの名前を知っている。

イチノジョウがシーナ3号に話していたのをまた聞きしたというのもあるし、何より――

(桜真里菜――やっぱりこっちの世界に来ていたのね。それとハルワタート……)

とミリは拳を強く握って胸中で呟いた。

(できれば殺したくない……けど)