軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハルたちの武道会⑧

ケット・シー、王位決定戦の決勝戦が始まろうとしていた。

ステラ側の先鋒はマリーナ。一方、マル側の先鋒は昨日ひとりでミルキーたちと戦ったピエールだ。

今日も白塗り、赤っ鼻のピエロのような姿で舞台の中央に立っている。常に笑顔を浮かべるように使われた紅が彼の風体の不気味さを物語っていた。

強さは未知数。職業、スキルともに不明。

(彼は人間ね。たぶん、マルと同じように操られている)

カノンは値踏みするかのように観察すると、それに気づいたのかピエールはシルクハットを外して黒色の髪をさらけ出すと、そのシルクハットをカノンに投げた。シルクハットは小さな小鳥へと姿を変え、カノンへと飛んでいく――がカノンに近づいたところでその体が弾けとび、花吹雪となって舞った。

そして、ピエールはいつの間にか手に戻っていたシルクハットを持ったまま、優雅に一礼をした。その行為は、まるでカノンに念を押しているようだ。

もっとも、何も知らないケット・シーたちは拍手でその奇術を労った。

「随分と人気者のようだな」

マリーナが風の弓矢を持ち言った。

そのマリーナに、カノンが忠告をする。

「マリーナ――お願い。危ないと思ったらすぐに降参して」

「カノンよ。昨日の不甲斐なさを言っているのなら、それは間違えておる。我の眠りし力が目覚めたのなら――」

「そんなの眠らせておきなさい! 相手は危険なの」

「しかし、我にも立つ瀬というものがある。そもそも、次鋒に出るとわかったマルに、ステラは一度も勝ったことがないのであろう? 我がここで負けたら危ないのではないか」

「大丈夫、私がなんとかするから」

「そうか、カノンがそう言うのなら従おう。降参するかどうかは別にしてな」

とマリーナはそう言って、舞台に上がった。

選手が揃ったことで、今回も二匹のケット・シーが審判として試合開始の合図を行う。

「それでは、王位決定武術大会、決勝戦、第一試合――」

「王位決定武術大会、決勝戦、第一試合、それでは――」

とふたりが手を上げ、

「「試合開始ニャっ!」」

の声とともに振り下ろした。

だが、ピエールもマリーナも全く動こうとしない。動いた方が負けとかそういう次元ではなく、二人そろって観客たちの方を向いたまま動かないのだ。

「わかる、わかりますよ、マリーナ殿。あなたもワターシたちの側の人間であるということーを」

「うむ、奇遇であるな、ピエールよ。我も思っておった。もしも違った出会い方をしていれば、我らは友になれたかもしれん」

先に動いたのは、ピエールだった。

どこからともなく取り出したボール――それを五つ。天高く放り投げたのだ。

すると、ボールが上空で停止し、そこで白い鳩へと姿を変えた。

それを見ていたケット・シーたちからまた歓声が上がる。

見物に来ていたジョフレとエリーズ――ちなみにジョフレはいまだに足に包帯を巻いているが、明日には完治する。エリーズはすでに完治していた――たちもケット・シーたちに交ざって拍手喝采を送っていた。

「凄いな、エリーズ! あれがミルキーの言っていた魔記者の式紙っぽい技なのかな?」

「そうだよね? ジョフレ! あれがミルキーの言っていた魔記者の式紙っぽい技だね?」

ふたりに問われ、ふたりの後ろに座っていたミルキーは小さく頷いた。頬にガーゼを貼っているが、火傷の跡はもうほとんど残っていない。

空中でボールが急に鳩に変わるなんて普通はあり得ない。

だが、それが魔記者のスキルによる式紙ならば話は違う。昨日、ミルキーが紙に描いた絵を具現化したように、式紙で作ったボールの中に鳩になる式紙を入れ、咄嗟に上空で入れ替えればその種は完成する。そして、最後に崩壊する術式を組み合わせ、紙吹雪となってしまえば証拠も残らない。

だが、それだとあり得ない現象がひとつある。

炎の獅子を生み出したことだ。紙でしか作ることのできない式神召喚。それで炎の獅子を生み出そうとすれば、式神の紙は一瞬にして燃え尽きる。

だが、どう見てもあの時の炎の獅子は式神だった。

その矛盾を解く方法がどうしてもミルキーにはわからなかった。

そして、舞台で鳥を見上げたマリーナは、弓を天に向けた。

「先と同じように紙吹雪にするつもりであろうが、その見せ場――我がもらい受けた」

というと、マリーナは天に小さな矢を放った。

一本だったはずの矢は分裂し、それぞれが宙を統率も取らずに自由に舞う――本来の鳩の動きではありえない――鳥たちに突き刺さった。

すると、鳥たちは先ほどと同様、その姿を紙吹雪へと変えたのだが、そこからが違った。

矢の風の力に導かれるように紙吹雪は天へと昇っていき、そして一カ所に集まった。

その時だった。

小さな爆発音とともに紙吹雪が集まってできた球が、風の力が同じ場所に集まったことで弾け、まるで花火のように紙吹雪が広がったのだ。

「おぉ、なーんとすばらしーのでしょー」

ピエールは天を仰ぎ、感動してそう言った。

「この勝負、我の勝ちのようだな」

大道芸人、マリーナ。

試合に関係ない勝負で、勝利をその手に掴んだ。

だが、一回戦の本番はこれからだ。