軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

湯気さん、出番ですよ

水温は目測で55度。温度を目で測るというのも妙なものだし、目でわかるのは湯気の量くらいだから、ドライアイスを使われるだけで簡単に狂ってしまう測定法だし、実際、湿度や風速などで変わるわけで、本来なら周囲の熱などで測定しているのだろうが、この予測は概ね正しいと思う。

そういうわけで、この風呂に入るには最低でも10度、いや、15度ほど水温を下げてしまいたい。それこそ、ドライアイスをぶち込みたい。

ということで、俺はさっそく、それを使うことにした。

「アイス!」

氷魔法Ⅱで覚えた「アイス」を使ってみた。巨大な氷柱が温泉の水面に突き刺さり、ぷかぷかと浮かぶ。

巨大といっても、長さは三メートルくらい。

これだけなら焼け石に水だろう。

「ふむ……」

この調子だと、アイスを連続で使っても時間がかかりそうだ。

ならば、と、俺はあのスキルを使うことにした。

「魔力ブースト!」

超威力の氷魔法、言うなれば敵軍一個中隊を壊滅させるような魔法を俺は放った。体から魔力が根こそぎ奪われていくのを感じる。

魔力を奪われながらも、魔力が溜まっていくという矛盾。

手の中に力が凝縮される。

今なら、今なら使える!

「ブゥゥゥゥゥゥゥストアイスゥゥゥゥゥっ!」

【アイスの熟練度レベルが2に上がった】

アイスの熟練度が上がったのメッセージを聞きながら、俺はぶっ倒れた。魔力枯渇だ。

温泉に入るのに焦っていたのか、職業を魔術師メインに置き換えていなかった。

だから、すぐに魔力枯渇する。

それでも、その威力は極大だった。

温泉のど真ん中に浮かぶ巨大な氷だけでなく、温泉の水面にうっすらと氷が張っていた。まるでスケートリンクみたいに。光り輝いていた。

「や、やりすぎた……」

そう思ったが、温泉の表面の氷はすぐに溶けてしまい、ふたたび湯気が立ち込める。

……お?

這うように温泉に近付き、そっと手を入れる。

水温43度。ちょっと熱いが入れないことはない。

中央の氷がまだ残っているから、最終的には38度程度にまで下がるんじゃないだろうか?

「イ、イチノ様、温泉ってそこまでして入るものなんですか?」

「そこまでして入るからこそ気持ちいいんだよ――悪いが、俺から先に入らせてもらっていいか?」

俺はそう言って、なんとか起き上がり座位を保つと、上着を脱ごうとした、その時だった。

「……あの、キャロも今から温泉に入ってもいいですか?」

「キャロ……お前」

……そうか、俺はキャロの気持ちはよくわかる。

「そうだよな、キャロも温泉に入りたいよな。でも、一番風呂はやっぱり俺が――日本ではいっつもミリに奪われていたからな」

ミリはあれでかなりの風呂好きだったからな。どこかの源家のご令嬢と同レベルの風呂好きだ。

「いえ、私はイチノ様と一緒に温泉に入りたいんですが」

そうか、ははは、キャロも一緒に入りたいのか。

男と女がお風呂に入るって、もうこれは混浴風呂だよな。

混浴か、そういうのは男の夢だよな。男のロマンだよな。

そういえば、去年、ミリと一緒に温泉街に行ったことがある。あの時、近くに混浴風呂(ただし、脱衣所は別で、男女一緒に入ることができるが、温泉の中の境界線を越えることができない)があるって聞いて、ミリの目を盗んでこっそりと混浴風呂に行ってワニ(若い女性が入ってくるのを待つこと。さながら、獲物を待つワニのように)をしたことがある。

一時間ほど待って、若い女の子の声が聞こえたと思って振り向くと、

「おにいのお望みの若い女の子だよ。どう、興奮した?」

なんてことを言って、ミリが現れたことがあった。

「妹と混浴ってなんだよ!」と叫びたくなった。「こんなの家でも望めばいつでもできるわ!」と叫びたくなった。それ以前に、「嫁入り前の妹が混浴風呂なんかに入ってくるな!」と自分がしていたことを完全に棚にあげて、すぐに妹を混浴から上がらせたことがある。ちなみに、お風呂から上がると、何故かその風呂屋に臨時休業の看板がかかっていて、どうりで女性どころか男性も入ってこないと納得した。兄妹揃ってこんな目立つ看板を見逃すとは、情けない話だ。

翌日、その温泉街で、とある女の子が大金を積んで、好きな男の子と一緒に温泉に入るために温泉ひとつを三時間にわたって貸し切ったという話題を耳に挟んだ。なんて羨ましい男性がいたものだと俺は恨んだ。やはり混浴といってもそれを満喫できるのは、俺のような妹と旅行している冴えない男ではなく、リア充の男なんだと思い、あれから混浴風呂に期待を持つことはなくなった。

長い回想を終え、俺は首を横に振った。

「いやいや、さすがにマズイだろ。一緒にお風呂なんて」

「どうしてですか?」

「いや、お風呂っていうのはだな、男女別で入るものだろ?」

「でも、イチノ様はキャロはまだまだ小さいから、その、エ……エッチなことはできないって言ってましたよね」

「……言ったな」

そこまで露骨な言い方をした覚えはないが、確かに似たようなことを言った。

「イチノ様はキャロの裸を見てやましい気持ちになって、その、変なことをしてくるんですか?」

「断じてそんなことはしない! キャロが望まないことを俺がするわけがない」

「ならば、一緒にお風呂に入ることに何の問題もないのでは?」

「……あれ? そうなのか?」

そう言われたら、キャロと一緒にお風呂に入ることが何の問題もないような気がしてきた。

「……一緒にお風呂に入っても問題ないのか?」

「問題ありません。キャロ、イチノ様の背中を流したいです」

「…………一緒に入るか?」

「はい♪」

笑顔で頷くキャロを見ても、何故か俺は大きな過ちをしたというか、キャロに言いくるめられた感じがぬぐえなかった。

※※※

服を脱いで温泉に入る。

もちろん、温泉に入る前に、生活魔法 浄化(クリーン) を掛け湯代わりに使うことは忘れない。

キャロも服を着ている時に 浄化(クリーン) を使って洗っておいた。

「お風呂に入る前に体を清めるって、変な感じですよね」

と言ったが、お風呂の目的は体を清めることと同時に、リラックスすることだからな。

風呂の温度は41度くらいまで下がっていた。キャロには少し熱いかもしれないな。

それにしても――と俺は足下を見る。この岩の組み方、どう見てもこの温泉は自然にできたものじゃないと思うんだがな。

と言っても、誰かが住んでいた痕跡はまるでないし、道らしい道もない。

ただ、不思議なことがある。

温泉の水面に、ゴミがあまり浮いていないのだ。

普通、こういう自然の温泉の場合は葉っぱなどが浮いているはずなのに。いったい、どういうことだ?

と思った時だ。

「イチノ様、湯加減はいかがですか?」

「ちょっと熱いが気持ちいいぞ」

と振り返ったその時、一糸纏わぬ姿のキャロがいて――俺の大きな過ちに気付いた。

これ、かなりヤバいんじゃないか?

下手したら成人指定入るんじゃないか?

湯気さんが今のところいい仕事をしていることだけが唯一の救いだった。