軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

強制転移に巻き込まれた少女

あまりにも唐突すぎる。

さっきまでケット・シーの里にいたはずなのに、気が付いたら無人島にいたなんて。

もしかして、本当にメティアス様の呪いじゃないかな、なんて思ったりしたが、そうではないことはわかっている。

俺はここに来る直前に聞いた。

【スキル「××××」が発動しました。強制転移を発動します】

無職レベル90で覚えた謎のスキルが関係しているのは間違いないだろう。

だが、なんで無人島なんかに転移させられたんだ?

ともかく、俺はこの島を脱出しなくてはいけない。こんな場所で病気になっても医者はいないし、なにより、ハルたちが心配しているのは目に見えている。

普通、ここでしなくてはいけないのは、飲み水の確保と食料の確保だが、それは心配ない。

アイテムバッグは俺が持っている。

この中には数カ月は過ごせるだけの食糧や飲み水が入っている。魔法でも水を出せるのだが、それすらも今は必要がない。

となれば、まずは脱出の手段。

すぐにできることといえば――と俺は流木を集め、解体用のナイフでバラバラにして薪にし、

「オイルクリエイト!」

と油を作り出して薪木にし、

「プチファイヤー」

とそれに火を灯した。

これで煙を作り出した。

近くに船が通ったら、これで助けが来る……かもしれない。

船を作って脱出するにも、この場所がどこなのかわからないからなぁ。

木を真っ直ぐ立てて日時計にした。恐らく今は正午だろう。

俺はちょっとだけ森の方に行き、木陰に座り、干し肉を取り出して食べることにした。

(気温は高いから南のほうかな……)

なんて思いながらも、干し肉を食べる。本当はハルのおやつ用に買ったもので、かなり硬い。

それでも我慢して肉を咀嚼すると、肉の味と塩分が口の中に広がっていく。

肉を噛みながら、俺はひたすら考えた。

さて、これから無人島で生きていくんだから、釣り師、大工、料理人あたりの職業を鍛えないといけないな。

料理人はどうやったらなれるんだったっけ?

あぁ、こういう時にハルかキャロがいたら教えてくれるんだが。

そう思った時、俺はハッとなった。

いくらテンパっていたとはいえ、一番大事なことを忘れてしまっていた。

「…………俺の糞馬鹿野郎っ!」

思わずそう叫んで立ち上がると、

「マイワールド!」

俺は自分の世界への扉を開いた。

そして、扉の中に入ると、そこは俺の世界だった。

ログハウスや作業小屋、倉庫が並ぶ生活拠点、遠くには畑や湖、茶畑があり、遠くでフユンが草を食べていた。

少し離れた王のマタタビの大木の下にゴザを敷き、キャロとピオニアがふたりで紅茶を飲んでいるところだった。まだ俺には気付いていないようだ。

俺は忘れていた。

俺が遭難したということは、俺にしか扉を開くことができないキャロもまた遭難してしまったということだ。

キャロに申し訳ない気持ちになる。

両親のような行商人になることを夢見ていた彼女を付き合わせてしまったことを。

これは俺への罰なのかもしれない。無職に拘り続け、その恩恵をひとりで享受してきた俺への。

でも、それなら俺だけに罰を与えて欲しかった。俺だけをこの島に転移したみたいに。

キャロは巻き込まないでほしかった。

「あ、イチノ様、すみません、お茶を頂いていました。すぐにイチノ様の分もご用意しますね」

キャロは俺に気付いて立ち上がり、お茶を用意すると言ってくれた。

その優しさも今の俺には少し辛い。

「い、いや……ピオニア、俺の分の紅茶を頼む。キャロには大事な話がある」

「大事……な話ですか?」

「ああ、かなり悪い話だ」

俺の説明に、キャロの顔つきが険しくなり、俺はこれからする説明をするのが躊躇われた。だが、意を決して、現状を話した。

話を聞き終えると、キャロは俯き、

「そうなんですか、それは大変ですね。ハルさんとマリナさんが心配していなかったらいいんですが」

と、俺の予想とは違う反応を見せた。

「ま、待ってくれ、ヤバイのはこっちだろ? 現状から考えると、ハルとマリナはきっと正規の場所に転移しているはずだし、問題なのは俺たちだって」

「そうですか? まぁ、大変ですが、キャロたちなら長くても一カ月もすれば戻れますよ」

「……え?」

「まず、イチノ様が心配なさっていた現在位置の確認ですが、キャロは星の本が好きなので、星の位置を見れば現在どのあたりにいるかはわかります」

「……本当に? で、でも、さすがにふたりで船を漕いで行くのは大変だろ」

「そうですね。そこはイチノ様とキャロなら、誘惑士の力で海の魔物を集めてイチノ様のレベルを上げ、魔物使いの職業を手に入れていただきます。そして、海の魔物をテイムして船を曳かせましょう。普通、魔物使いになるには十年かかると言われていますが、イチノ様が本気を出せば一週間以内で余裕です」

「なるほど……いや、でも食糧……はアイテムバッグがあるからいいとして、嵐とかが来たら素人の航海だと――」

「その場合はテイムした魔物と一緒に、この世界に避難しましょう。放っておくと船は流されるでしょうから、予備の船を用意してもらいます。そうですね、海の魔物が住むための海水のプールも作らないといけませんね」

「船って簡単に言うけど、そんな簡単に作れるものなのか?」

「それは私が造ります、マスター」

と、ピオニアは俺に淹れたての紅茶を差し出すと、無表情のまま腕をノコギリや斧に変形させて言った。

確かに、単身で立派なログハウスを作った彼女なら、船を作るのも難しくはないだろう。

…………えっと、

「問題……ないのか?」

「そうですね、大陸に戻るだけなら問題ありません。イチノ様の話だと、ここは北半球で、時差もないそうですから」

「時差……あぁ、そうか。転移前が朝で、こっちに転移したときも朝だってことは、俺たちがいた大陸と近い経度だってことか」

「はい。おそらくは北に行けば大陸にたどり着きます。詳しくは星を見て判断しますが――それよりキャロ達がしないといけないのは――」

とキャロは一拍間を置いて言った。

「イチノ様がここに転移してきた理由を調べないといけません。何も理由もなく転移された可能性もありますが、もしも転移したことに理由があるとすれば、何かがこの島にあるはずです。まずは森の中を調査してみましょう」

「……お、おう、そうだな」

妹のミリといい、見た目が幼い少女は全員天才なのかと勘違いしてしまう。

キャロの提案は全て的を射ていて、慌てた自分が少し恥ずかしくなった。

(ハルさんたちには申し訳ないですが、ちょっとチャンスですね)

「ん、キャロ、何か言ったか?」

「いいえ、なんでもありません。じゃあ、イチノ様、まずは外に行きましょう!」