軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルー・カンガ

何度ステータスを開いても、やはり無職レベル90で覚えたはずのスキルは表示されなかった。とりあえず、その他のスキルは例によって例のごとく、スキル整理を行い、ステータス一覧から隠しておく。

まぁ、オーク女神……もとい、コショマーレ様が言うには、無職は本来スキル等存在しないものであり、誰かがシステムに介入して、無職に職業を設定したと言っていた。

きっと、コショマーレ様か他の女神が、新たにシステムに介入して、修正を加えたのだろう。

ということは、【無職スキル:××××を取得した】は修正を加えた後のバグの残りみたいなものだと、俺は勝手に納得した。

本来はスキルを一個損したようなものなのだが、俺の心はどこか穏やかだった。

これ以上無職を続けてもスキルを覚えられないというのなら、俺は思い残すことなく無職を辞め、教会で剣聖などに職業を変更し、冒険者ギルドに登録できるわけだ。

ようやく無職を卒業、冒険生活の第一歩を踏み出せるわけだ。

……もっとも、今すぐに無職を辞めてしまわないのは、どうせここまできたら無職レベル99になって、無職の極みなどという、偉いのかそうではないのかという称号を手に入れるのもいいかなと思ったからだ。レベルの限界が99だった場合の話だが。

「それにしても、魔物があまり出てこないな……」

「きっと、逃げ出したフラットラットが危険信号を出したニャ。これで暫くは安心ニャ」

ステラは、ラッキーのように言うが、俺としてはちょっとだけつまらない。さっきの戦いはハルがメインで戦ったため、俺が倒した敵の数は少なく、取得20倍経験値もあまり有効活用できなかった。数だけは多かったので、ダンサーや歌手のレベルは12まであがったが、鍛冶師は8、侍に至っては6までしかレベルが上がらなかった。

今度は俺がメインで戦う番だと思っていたが、残念だ。

ステラの言う通り、魔物の気配は遠くに感じたが、相手も俺たちの気配を感じたのか近づいてもすぐに遠くに逃げてしまった。

まぁ、ボス部屋に行けばボスがいるから、レベル上げはそっちで楽しませてもらうとするか。

魔物と出会うことなく30分が過ぎ、地下五階層という、迷宮としては低層階の一番奥にたどり着く。

「ここがボス部屋ニャ」

ボス部屋の扉が開いていた。

中にいたのは二本足で立つ茶色い毛の魔物――

「格闘ネズミのルー・カンガニャ」

「いや、カンガルーじゃないか、あれ」

カンガルーだ。うん、大きさも動物園で見たそれとあまり変わらない。

手――というか前足にはボクシングで使うような赤いグローブが装着されていて、連続してジャブをし、俺を挑発している。

腰にはベルトを巻き、さらに、首からはもう一つ、別の青いグローブを下げていた。

俺がボス部屋に入ったその瞬間にゴングが鳴る(比喩)ということか。そう思ったら、カンガルーは、首からぶら下げていた青いグローブを俺に向かって投げた。

もちろん、ボクシンググローブはボス部屋と廊下とを阻む結界のようなものに弾かれ、俺のところには届かない。

だが、その意図は伝わった。

グローブをつけて殴り合おうって言うんだろうな。

わざわざ相手の土俵に上がって戦うことはない……ここはスラッシュ一撃で沈めよう。そう思ったら、

「ステラさん、もしかしてルー・カンガは伝授ボスなのですか?」

「伝授ボス?」

「一部の迷宮のボスとして存在する魔物です。特別な戦い方を要求してくるのが特徴で、勝つことができれば職業が解放されるそうです」

そんな魔物がいたのか。それは知らなかった。

「その通りニャ。ルー・カンガに、グローブをつけて戦って勝つことができれば、ボクサーの職業が解放されるニャ。ただし、魔法やその他武器を使った場合は職業は伝授されないニャ」

「なるほど、重量無制限、時間無制限、凶器禁止のタイマン一本勝負ってことか」

やばくなったら職業を拳闘士にしよう。そう思いながら、俺はボス部屋に入り、繋がっている紐をほどき、グローブを嵌め、そしてハルに頼んで、グローブの紐を絞めてもらう。

その間も、カンガルーは、じっと俺たちを見て待っていた。

一応警戒していたが、卑怯なことはしないようだ。

敵ながら天晴といったところか。

グローブの紐を絞め終わると同時に、ボス部屋の扉が閉まった。

これにより、この部屋の扉が再度開くためには、このカンガルーを倒すか、俺たちが全滅するかの二択となったわけだ。

もちろん、負けるつもりはない。

両手のグローブを突き合わせ、ニッと笑みを零す。

「よっし、いっちょ戦わせていただきますか」

俺が一歩前に出ると、カンガルーが左右にステップを開始した。

この動き、ただものじゃないな。

ただのカンガルーではない――ここは敬意を込めて正式名称のルー・カンガと呼ばせてもらおう。

俺は今まで合理的に生きてきた(つもりだ)。定石なら、スラッシュなどを使っての遠距離攻撃でダメージを与えていきたいところだ。

だが、今回はちょっとマジでボクシングしてみたくなった。

「俺も伊達に(一部のバカに)ジョーって呼ばれたわけじゃないんだぜ!」

俺は一気にルー・カンガの懐に入り込み、えぐりこむようにして、打つべし! 打つべし! といった感じでジャブをしたが、ルー・カンガは軽快なステップで俺の攻撃を躱し、カウンターにとジャブを打ち込んでくる。

だが――

(みかわしステップ!)

ルー・カンガと同様、俺も軽快なステップでその攻撃を躱す。

ダンサーレベル10で覚えたスキルがいきなり役に立った。

「凄いニャ! どっちも相手の攻撃を一切寄せ付けにゃいニャ!」

「戦いを楽しんでいますね、さすがはご主人様です」

ステラが興奮気味に、ハルは冷静に戦いを見守っていた。

あぁ、ちょっと楽しくなってきた。

と思ったら、ルー・カンガが俺から距離を取り、壁に向かって蹴りを入れた。

最初は何をしているか? と思ったが、

「お前の本気はパンチではなくキック……キックボクシングだと俺に伝えているのか?」

俺の問いに、ルー・カンガは無言で頷いた。

……こいつ、俺も多少はルー・カンガの蹴りには注意していたが、殴り合いがメインだと思っていた。

だから、油断しているところを蹴りを入れられたら、少し痛い目にあうところだった。

「……そうか、俺と本気で戦いたいのか」

ルー・カンガは敬意を持って、俺にそれを伝えて来た。

ならば、俺も敬意には敬意で、本気には本気で応えないといけないだろう。

歌手を、レベルが限界に達している拳闘士へと付け替えた。

ステータスが一気に跳ね上がる。

「ならば、俺も本気で行く。せいぜい良い勝負しようぜ!」

※※※

戦いは一方的だった。もちろん、俺の。

初心者向け迷宮のボスであり、拳闘士はもともと拳で戦うことに適した職業だったから。

最後に、ルー・カンガの渾身の一撃を俺は左頬で受けながらも、カウンターで放った俺の一撃がルー・カンガの頬を捉えていた。

殴り抜くと、ルー・カンガはその場に崩れ落ちた。

立ち上がれない。

俺の勝ちだ――そう思ったらルー・カンガが口でグローブを外し、右前足――いや、右手で己のベルトを外し、俺に渡そうとした。

が、俺がそのベルトを受け取る前に、ルー・カンガの体が消え始め、ベルトとともに彼の姿は光の粒となり、俺の手のボクシンググローブもまた消えた。

残ったのは魔石と、真っ赤なボクシング用のグローブ、そして――

【イチノジョウのレベルがあがった】

【職業:ボクサーが解放されました】

経験値と新たな職業だけだった。

「……ルー・カンガ。いい勝負だった。俺が魔物使いだったらテイムしたかったよ」

ポツリと呟く俺に対し、

「イチノさん、迷宮の魔物はテイムできにゃいニャ」

と冷静にステラがツッコミを入れた。