軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

俺の世界、マイワールド。

ピオニアが作ったログハウスの中で、俺とハル、ふたりがいた。

「……ご、ご主人様……もう少し入れてくださっても結構ですよ」

「わ、わかってるけど、加減が難しくてさ」

「大丈夫です……私はご主人様の全てを受け止めますから……あ、いっぱいでましたね……」

「わ、悪い。ちょっと溢れてしまった……気持ち悪くないか?」

「少しべたべたしますが、ご主人様が出した物ですから、気持ち悪いなんてことはありません」

そう言ってもらえると、安心する。

でも、そろそろ限界だ。これ以上出したら倒れてしまう。

そう思った時、ログハウスの扉が開いた。

入ってきたのは、キャロだった。

「イチノ様――」

「……キャロ……悪い」

俺は彼女を見て、苦笑しながら出したばかりの物を、キャロに見せた。

「オイルだけど、壺三つ分が限界だ」

「いえ、イチノ様、それだけあれば十分です。食用油と違い、毛並みを整えるためのオイルはそれほどの量は必要ありませんから」

「そうか……ハルも手伝ってくれてありがとうな。どうしても一人ですると上手に壺に入らなくてさ」

俺は現在、オイルクリエイトを使い、ケット・シーたちが毛並みを整えるための油を作っていた。

キャロが仕入れたマタタビは、全部マタタビ酒にしてケット・シーたちに振る舞ってしまったから、そのお詫びだ。

ケット・シーたちが用意してくれた壺が不安定なため、ハルに支えてもらっていたわけだ。

キャロは壺になめし皮で蓋をし、側面についた油を布で拭き取った。

「では、私は油を持って行きますから」

「あ、キャロ、それは俺が――」

と立ち上がろうとして、ふらついた。魔力切れの症状だ。

「イチノ様は休んでいてください。オイルクリエイトは水を作り出すウォーターの数倍の魔力を消費しますから」

「それなら、私が持って行きます」

「ハルさんは手が油で汚れていますから。それに、私もイチノ様のおかげで力はそれなりにあるんですよ」

キャロはニコっと笑い、壺をふたつ持ってログハウスを出た。

俺は少し疲れたので、ベッドに横になった。

「それでは私は、手を洗ってきますね」

と言ってハルが部屋を出ようとするが、

「あ、ちょっと待ってくれ……」

と俺は上着を脱いで、上半身裸になる。この世界に来てすぐのころに比べ、随分と筋肉質になった自分の体を見て、俺は再びうつ伏せになって倒れ、

「ハル……悪いがその手のまま、俺の体をマッサージしてくれないかな? オイルマッサージ……っぽいの」

最近はどたばたして、ハルとスキンシップをする時間がなかったからな。キャロも戻ってくるだろうから、さすがに本番はできないが、ちょっとした触れ合いはしたい。

これを言ったら、同性からも異性からも嫌われるかもしれないが「ハルもきっと望んでいる」なんて思っていた。

だが、

「……かしこまりました、ご主人様」

一瞬の間が気になった。ハルの声は基本抑揚がないし、表情を見ても変化はない。

だが、ハルと付き合いが長くなってきた俺にはわかる。今の間はちょっと嫌な時の間だ。

それが証拠に、ハルの尻尾は全然揺れていない。

「ハル、もしかして嫌なのか?」

「あ……いえ、ご主人様の頼みならば嫌ということは」

「……俺は、ハルが嫌だと思うことはやってほしくない。もしもハルが俺のためと思って行動しても、後からハルが嫌と思いながらしていたと知ったら、俺は嫌だ」

「……あの……ご主人様は私に体をマッサージするように仰いました。背中をマッサージするのはいいのですが、お腹をマッサージするのは……」「お腹を……あぁ、そういうことか」

ハルが何を嫌がっていたのか、ようやく合点がいった。

「悪い、これは完全に俺が失念していた。獣人にとって腹を撫でさせるのは服従の意味があるんだったよな」

「……はい」

「じゃあ、背中だけ頼むわ」

「はい」

一瞬、ハルが笑った……気がした。いや、笑ったんだろうな。尻尾が元気に揺れている。

「今日は魔力切れで無理だが、今度は俺がマッサージするからな」

「はい、楽しみにしています」

それにしても、本当に俺が作った油は気持ちいいなぁ。最初はハルが言う通りべたべたしていた印象だったが、マッサージが進むにつれ、滑らかになっていき、しっとりと仕上がる。

いかん、本来なら、少なくともDTだったころなら、緊張で寝られなかったはずなのに、魔力切れのせいもあり、強烈な睡魔に襲われた。

そして、俺はハルの指の感触を味わいながら、自分の腕の中で眠りに落ちた。

※※※

「おにい、おにい、しっかりして」

これは、夢か……ミリの声が聞こえて来た。

目を開けて見たのは、目に涙を浮かべるミリだった。だが、今……というか俺が死んだ時よりもさらに幼い。

小学生くらいのミリだ。

これは一体、いつの記憶なのだろうか? そもそも本当に夢なのだろうか?

場所は繁華街のビルとビルの間の細い道らしい。俺たちが事あるごとに世話になった電気屋のテーマソングが聞こえてきたため、大体の場所の予想はつく。だが、俺はこんなところに入った覚えがない。

となれば、これは偽りの記憶なのだろうか?

「おにい……なんで、こんな無茶をしたのよ」

無茶をした?

おいおい、ミリ、忘れたのか?

俺は昔から全て合理的に動いていた人間だぞ。

無茶なんてするわけないじゃないか。

はは、とすればこれは確実に夢だな。

よく見ると、俺の周りには血が広がっている。回復魔法があるアザワルドなら兎も角、日本でこの傷だと、救急車の到着時間次第では助からないかもしれない。

「……おにい、言ったじゃない。おにいは絶対にミリを守ってくれるって。ミリだけを守ってくれるって。だから……こんなところで死んだらダメだよ」

ミリは涙をこらえて下を向いた。

その瞬間、彼女の背後から巨大な闇が膨れ上がった――そんな気がした。

そして――

※※※

気持ちのいい感触に、俺はゆっくりと目を開け――天使を見た。

いや、ハルか。くそっ、あまりの可愛さに天使と見間違えた。

って、俺、ハルに膝枕されているのか。

「ご主人様、おはようございます。あのままでは手がしびれてしまいそうでしたので、独断で申し訳ありませんが、私の足を使わせていただきました」

「う、うん。ご馳走さまです」

俺は起き上がり……首を傾げた。

何か妙な夢を見たような気がするんだが――気のせいか?

「ご主人様、先ほどキャロが来て、ステラさんが用事があるから、目を覚ましたら王城に来てほしいそうです」

「ステラが……わかった。じゃあ行くか」

まぁ、面白い夢を見ていたはずなのに、目を覚ましたら全てを忘れているなんてよくあることか、と俺は思い、立ち上がった。

体の疲れもすっかり取れていた。うん、ハルの膝枕のおかげだな。